第8話 盗賊、毒を利用する。


 次の依頼を受けるべく、俺たちが冒険者ギルドへ着いたときだった。


 これまでにないような鋭い視線が集まってくるのを感じて、ただ事じゃないとわかった。おいおい、一体何が起きたっていうんだ?


「おい、そこのルファンとかいうやつ!」


 そこで一人の男が俺を見るなり突っかかってきた。まったく見覚えのない男だが、自分はS級パーティーから追放された盗賊なので、知ってるやつがいてもおかしくはない。


「なんだ? 俺に何か用事か?」


「おうおう、用事ならあるぜ。大ありだってんだよ、てめえ!」


「……」


 この男、酒臭いしかなり酔っぱらってるな。


「ちょっとあんた、いきなりなんなんだよ。ルファンに失礼だぞ!」


 リディアを筆頭に、メンバーが前に出てきそうになったので俺はそれを制止した。追い払う前に事情を聴かないと。


「最近、盗賊が事件を起こしまくってるのは知ってるよな? それも上級の罠を使ってるみてえだからな。だとしたら、S級パーティーから追放されたてめえが怪しいってわけよ」


「なるほどな。情報ありがとう」


「はあ? 犯人の癖に善人面してんじゃねーぞ!」


「「「「……」」」」


「チッ……」


 男はいかにも不満そうだったが、ユユたちのほうがもっと怖い顔をしたこともあって、舌打ちしてその場から立ち去って行った。


 だが、俺たちに対して鋭い視線を送ってくるのはこの男だけじゃない。棘のある視線を送ってくるやつがより増えてる気がする。


 それに、罠による被害と聞いてピンときた。


 やはり、あの高度な罠は今話題の盗賊が仕掛けたもので、それによって被害が広がってるみたいだな。


 ギルドのスタッフに話を聞いてみると、冒険者が殺されていた現場には【冒険者の命を盗んだ】という例の血文字が残されていたんだそうだ。


 そのことによって、盗賊に対する偏見がますます強くなってきているようだ。特に、俺のように追放された盗賊は疑いの目で見られやすいんだろう。


 パーティーから追放された恨みで、冒険者を密かに罠で殺して鬱憤晴らししているくらいに思われてるのかもしれない。


「ルファンさん、気にしないでください」


「だな。盗賊を一括りにするのはおかしいって」


「僕もそう思う」


「私もです……」


「……みんなの気持ちはありがたいが、盗賊への風当たりは強くなるばかりだ。その中でも俺は目立ってるし一緒にいないほうがいいかもしれない。頼む。俺を追放してくれ……」


 言いたくなかったことだが、俺は思い切って口にした。パーティーメンバーにまで偏見の目が向けられるのは、俺としては耐えられないからな。


「……えっと、今のは聞こえなかったことにしましょうね、みなさん」


「「「了解っ!」」」


「ちょっ……」


「ごめんなさい。私はスライム教の敬虔な信者ということもあり、そのような厳しい仕打ちはしたくないです……」


「……いや、真面目に聞いてくれ。これは大事なことなんだ。冗談じゃなく、俺を追放してくれ」


「いいえ、追放しません。折角、最高の盗賊さんをお迎えしたんですから、追い出すのは嫌です。死んでも逃がしませんよ。地の果てまで追いかけます!」


「お、おいおい……」


 ユユがヤンデレに見えてきた。


「とにかく、悪いことをした盗賊さんとルファンさんは別ですから。私たちの思いは変わりません。リディア、アラン、ピュリス、そうですよね?」


「「「うんうん!」」」


「……わかったよ。そんなに言うなら、俺もありがたく一緒にいさせてもらう。だが、仲間まで疑いの目で見られてる状況をこれ以上看過することはできない」


「と言いますと……?」


「初心者は当然、盗賊案件の依頼を避ける傾向にある。高度なトラップを仕掛けられている可能性があるなら猶更。それを、追放された盗賊の俺を含めたパーティーが攻略すれば、盗賊への偏見を少しでも抑えられるかもしれない」


「「「「なるほど!」」」」


 みんなも納得してくれたみたいだ。そういうわけで、俺はとある依頼を探し始める。


 もちろん、F級の依頼しか受けられないので、その中で盗賊が関係する依頼を探すことにした。


「あ……あのさルファン、これなんていいんじゃないか?」


「どれどれ」


 リディアが選んで持ってきた貼り紙を読んでみる。


 山の奥に位置するウェルタンっていう村が、名もなき盗賊団の襲撃に遭っているんだとか。


 これが例の盗賊の仕業なのかは、依頼書の記述にじっくり目を通してもわからない。盗賊にも色んな種類がいるしな。


「というかこれ、報酬が少なすぎでは!? いくらF級の依頼とはいえ、タダ同然ってあんまりです……」


 スライム帽が傾くほどユユが衝撃を受けてる。


 確かにF級の依頼の中でも断トツで成功報酬が少なく、ロンテルの街から遠くてアクセスも悪い。その上、どことなく危険な香りが漂ういわくつきの依頼。


 誰も受けたがらない=誰も失敗しないという図式なため、依頼のランクが上がることもないってわけだ。


「ただ、こういう依頼を積極的にこなしていけば、盗賊に対する偏見を防ぐだけでなく、犯人を捕まえるチャンスも出てくる。長期的に見ればメリットが大きい」


「「「「なるほど……」」」」


 それに、あれだけの高度なトラップを仕掛けた盗賊に興味もある。一体どんなやつなのか、どういった動機があって冒険者を狙っているのか……。なので、この作戦を実行に移す価値は大いにありそうだ。


 もちろん、その分リスクもあるので仲間を守るためにより慎重に行動しないといけない。

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