第7話 盗賊、罪悪感に苛まれる。
「俺、こんなに寝ちゃってもいいのか……」
そこはロンテルの街の郊外にあるパーティー宿舎。
俺は朝起きたとき、すっきりした感覚とともに、罪悪感も抱いていた。正直、外が明るくなるまでぐっすり寝られること自体が信じられなかったんだ。
以前のパーティーであれば、ちょっとした休憩を取ったらすぐ次の依頼といった感じでハードなローテーションを組んでいたっていうのに。
しかも、夜は3時間くらい寝たら朝早くギルドへ出発するのが日課だった。むしろそれが日常茶飯事だったからこそ、あっという間にS級パーティーまで成り上がったともいえるが。
まだまだ、新しいパーティーでの生活が始まったばかりとはいえ、いかに前パーティーがブラックだったかわかるな。
ちなみに、パーティーのランクを上げるには、3回連続で依頼を成功させる必要がある。
なので、あれから続けざまに依頼をこなしにいくという手もあるが、そうはならなかった。一晩じっくり休むことになったんだ。
俺はまだ全然疲れてなかったが、初心者パーティーってことで疲れも溜まってるだろうからこれでよかった。
「ふわぁ……おはようです、みなさん……!」
「……」
寝間着のまま、目を瞑って芋虫のように這いずってきたユユ。
「ル、ルファンさん、そんなに軽蔑した視線を送らないでください! まったり、まったりが信条なんですからぁ」
「あ、あぁ……」
ユユが朝に弱いのはわかったが、いくらなんでも緩すぎ。さすがスライム教の敬虔な信者……。
リビングはダイニングとも繋がっていて、なんとも香ばしくて甘い匂いが漂ってきた。
「朝ごはんなら、もうすぐできるからね! ルファンさん、楽しみにしてて!」
「あ、ああ。アラン、楽しみにしとくよ」
アランが火の魔法でホットケーキを作っている最中だった。
彼は歩きながらフライパンを時折持ち上げ、そのたびにホットケーキが高々と跳び上がっていた。
じっと観察していればわかることだが、どうやら歩くのは運動のためらしい。何気に、もう片方に本を持って読書までやる器用さに驚く。
「アランったら……いつも以上にはりきってますねぇ」
弓手のピュリスがくすくすと笑う。彼女は彼女で、メイドみたいな恰好をしてリビングの清掃中だった。
「ピュリス。いつものアランは違うってこと?」
「ええ、そうです。アランは、ルファン様に気に入ってもらうために、必死なのです……」
「そ、そうなのか……」
「ちょっ、ピュリス、余計なこと言わないで!」
アラン、顔が真っ赤だ。俺なんかに気に入ってもらおうだなんて、可愛いもんだな。
そういや、戦士のリディアだけいないと思って彼女の気配を盗んでみたら、庭で訓練をしているのがわかった。
「よう。頑張ってるな、リディア」
「あ、ルファン。おはよう。オーク教の同士よ!」
「……いや、そういうのはいいから」
「ちぇっ。ルファンはユユのスライム教のほうが好みか……」
「いやいや、そっちにも入信してないから! というか、みんなは普段からこんなにリラックスしてるのか?」
「いや、あたしらは本来なら、もっとまったりしてるくらいなんだよ」
「もっとか……」
「そうだよ。ルファンが刺激になって、みんな目の色が変わってるんだよ。ユユだって、本来ならベッドが城塞みたいになって絶対出てこないしな」
「なるほど……」
俺からしたらやたらと緩く見えたが、ユユなりに頑張ってたんだな。スライム教の緩さを甘く見ていた……。
「みんな、ルファンみたいになりたいっていうより、その凄さを直で見てさらに憧れたから、少しでも追いつけるように頑張ってるんだよ。もち、あたしもだけどね!」
「……」
なんだか照れるなあ。そんなことを言われると、俺もさらにしっかりしないといけないと思える。
ってことで、俺は朝食のホットケーキを頂いたあと、ずっと気になっていたゴブリンのトラップの構造を再度確認してみることにした。
「やはり、か……」
俺は思わず手が震えた。これは二重のトラップだ。一段目は相手を数秒間動けなくするF級のバインドトラップで、その下に猛毒ガスが充満するS級のヴェノムトラップが仕掛けられていたんだ。
つまり、誰かがゴブリンの罠にこれを上乗せしたということになる。
こんな高度な罠を仕掛けられるとしたら、盗賊しか考えられない。それも、ただの盗賊ではない。盗賊ジョブの中でも抜きんでた技術と魔力を持っている。
そういえば、最近は冒険者を狙った殺人事件が頻発していると聞いた。つまり、これも例の盗賊の仕業なのは濃厚だろう。同じジョブとして罪悪感のようなものを覚えるのも確かだ。
今後、依頼を受けるときには一層気を付けないといけないな……。
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