第6話 崩壊の序章①
(わぁ。ここが例の人たちの住んでるところだね。楽しみだなあ)
地図を手にした一人の少女が、瞳を輝かせながら立派な建造物の敷地内へと入る。
そこはロンテルの街の中心部に位置する、ワドルをリーダーとするS級のパーティー宿舎だ。
(でも、なんで駆け出しの私がこんな凄いパーティーに選ばれたんだろう……?)
追放されたルファンの代わりに、この少女が新たな盗賊として選ばれた格好であり、それを光栄に思いつつも不思議だと考えていた。
(ま、いいや。考えてもわからないし。少しでも追いつけるように頑張らないと!)
胸を高鳴らせながら少女が玄関の扉をノックする。ほどなくして、彼女はメイドから案内されてリビングへと向かった。
「へへ、俺たちのパーティーへようこそ。俺がパーティーリーダーで戦士のワドルっていうんだ」
「サラの名前はねえ、もう言っちゃったけどサラっていうんだよ。回復術師なんだ。よろしくね、メリー」
「あたしは弓手のエリス。メリー、よろしくうっ」
「私は魔術師のアンナです。よろしくお願いします」
「ど、どうも! ワドルさん、サラさん、エリスさん、アンナさん、私は盗賊のメリーです。今日からよろしくお願いしまぁーす!」
自己紹介も終わり、緊張していたメリーは内心ほっとしていた。
(ふぅ。みんな良い人そうでよかった……)
最高峰のS級パーティーということもあり、メンバーはみんな怖い人ばかりじゃないかと恐れていたからだ。
それからまもなくのこと。
新人の盗賊メリーは、絡みつくような粘っこい視線を感じて、それを辿っていくと荒い鼻息が耳を突いた。
「フー、フー……」
「え、えっと、ワドルさん?」
「……あ、わりい。ちょっとな。やっぱ女盗賊って独特の魅力があるって思って」
「……そ、そうですか。そりゃどうもです!」
「やっぱ、うぶな女盗賊には網タイツがすこぶる似合う。俺の彼女にしてやろうか? ハー、ハー……」
「……ご、御冗談を……」
ワドルの鋭い眼光、及びその台詞にゾッとしつつも、愛想よく答えるメリー。
だが、ワドルの充血した目はそれが本気だと訴えていて、メリーは背筋が寒くなるばかりだった。
助けを求めるように周りを見やると、他のメンバーは素知らぬ顔。
ワドルに向かって、唯一呆れたような表情を示したのは魔術師のアンナだけだった。
(……だ、大丈夫なのかな、このパーティー。なんだか不安になってきた……)
メリーはなるべくワドルの顔を見ないようにしていた。
「フン。素直になりゃいいのに。従順さっていう意味では不合格だな」
「えぇっ……!?」
ワドルの思わぬ台詞に驚くメリーだったが、周りからは失笑が漏れるだけだった。それどころか、ワドル様のような凄い人なら多少のセクハラは許されるだの、一夫多妻制でもいいだの、言いたい放題だったのである。
「さて。サラ、エリス、アンナ、それに新人のメリー。これからちょっくら狩りに出かけるぞ!」
「こ、これから狩りですか……?」
「そうだ」
「あ、盗賊としての私の能力を確認なさるおつもりで?」
「んや、違う。盗賊なんて、追放した無能のルファン以下はいないから確認するまでもない。俺の強さを見せつけ、メリー、お前を惚れ直させてやる」
「へ……?」
ワドルの台詞に唖然とするメリー。
(な、何言ってるの、この人。惚れ直させるって、一度も惚れてないのに……!?)
メリーはわけがわからず、首を傾げるしかなかった。
それから、近くの山の中腹にあるゴブリンの巣窟で狩りをすることになったワドルたち。
「「「「「ゴゲエエエッ!」」」」」
「す、すご……!」
雑魚モンスター相手とはいえ、ワドルたちの強さは想像以上に凄まじく、それはS級パーティーに相応しい戦いぶりであった。
(ちょっと変なところはあるけど、さすがS級パーティー。こんな未熟な私でも拾ってくれるんだから、ありがたく思わないと……!)
宿舎にいたときとは別人のように表情が明るくなったメリー。
そこには別の理由もあった。
彼らが狩りのために身に着けている武器や防具といった装備品は、駆け出しの盗賊から見ても最高級のものばかりだったからである。
メリーの鑑定能力によると、彼らの持っている武具は非売品のレアアイテムばかりだった。
戦士ワドルの持つ菱形の盾は、物理だけでなく魔法攻撃にも完全に耐えるクリスタルシールド。
回復術師サラが持つ翼のついた杖は、僅かなエネルギーでも膨大な量の回復ができる慈愛の杖。
弓手エリスの持つ緑色の弓は、子供でも易々と弓を引くことができる軽さを持ち、その際に風の矢が自動生成され、命中精度も格段に上昇する効果があるシルフの弓だ。
魔術師アンナが持つ帽子は、炎への耐性とともに火魔法の威力が大きく上昇するクリムゾンハットだ。
(どれもこれも凄いものばかり! ただ、メンテナンスが足りてないような気がするけど、こんなに良いものを持ってるなら、いつか私にも超レアアイテムが転がり込んでくるかも……!)
「ふふっ。あたしの矢は百発百中……あれ……?」
盗賊メリーが懸念と夢を抱いた直後だった。パキッという乾いた音とともに、弓手エリスの持つシルフの弓が壊れてしまったのである。
「「「「「……」」」」」
その場にしばらく気まずい空気が漂ったのは言うまでもない。
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