第5話 盗賊、驚きに包まれる。


 俺たちは何度か休憩したのち、シャーヌ川にかかる橋まで辿り着いた。そこで預かっていた装備等の荷物を各自に渡す。


 みんな凄く感謝してくれるので嬉しい。以前だと当たり前みたいな空気だったし。


 石橋のほうに視線をやると、中央付近にゴブリンが15匹いるのがはっきりと見て取れる。


「本当に15匹いますねえ!」


「さすが、ルファン。生息数まで正確に把握できるなんて。元S級パーティーの盗賊っていうのは伊達じゃないな」


「ルファンを追放したパーティーって、何考えてるのかな?」


「ルファン様を追い出すなんて……本当に不思議ですね。理解できません……」


 着いて早々、ユユ、リディア、アラン、ピュリスが驚きの声を上げる。みんなお世辞が上手だ。


「さあ、あたしの腕の見せ所だね」


 腕をぶして前に出てきたのはリディアだ。


 既に盾と斧を構えて準備万端の様子。彼女は戦士ということもあり、充分に耐えられる能力を持つ。


「あ、リディア。その前に俺がトラップをなんとかするよ」


「え、トラップなんてあったのか!」


「ああ。橋の入り口にな。ゴブリンたちが仕掛けたものだろう」


 トラップを目視できず気配でしか探知できないのは、普通の罠と違って魔力を使って作られるからだ。それによって実体を隠せるのである。


 ゴブリン程度の魔力では、目で見えなくする程度なのでたかが知れてるが、それでも橋の上だと致命的な事態になりうる。なので、その罠を俺は解除し始める。


 って、これは……。 


「ル、ルファンさん? どうしたんです?」


 ユユを筆頭にみんな心配そうだ。


「……いや、なんでもない」


 トラップを解除中、 に気が付いたが、このことは黙っていたほうがよさそうだ。それを口にすれば無駄に恐れさせるだけだからな。


 俺は慎重に罠を解除したのち、盗んでやった。それくらいの価値はあるものだ。


 なんで改造するかっていうと、普通に解除するだけじゃトラップは消えてしまうからだ。


「さあ、罠は盗んだからリディア、頼む」


「あいよ。ルファン……って、罠を盗んだ!?」


「ああ、それがどうかしたか?」


 戦士リディアが驚いた顔をしたものの、小声で『……ルファンだしな』と我に返った様子で言い放ち、ゴブリンたちを挑発して誘き寄せる。


 ただ、多勢に無勢。


 ゴブリンに囲まれないように罠を解除したあと、橋の入り口で待ち受ける。


「くっ……」


 ゴブリンは体が小さく、リディアに複数の敵の攻撃が集中するため苦しそうだ。


 なので、俺はゴブリンのを盗むことで加勢する。結構技術がいる仕事だ。


「「「「「グゲッ……」」」」」


「え、ゴブリンたちが何もしてないのに死んだ!?」


「ああ、リディア。俺がやつらの命を盗んだんだ。正確には生命力をごっそりとな。これをやるにはかなり気力を消耗するから5匹同時が限界だし、強い敵ほど時間もかかる。それと、気力を回復するまでは命を盗めない。すまん」


「「「「……」」」」


 申し訳ないと思った俺が説明すると、みんな黙り込んだ。無能な盗賊だなって呆れられちゃったかもしれない。焦る。


 なので俺が残ったゴブリンたちに石を投げて頭部に当て、軽い脳震盪を引き起こしてやる。


 それもあって、回復術師ユユの回復も充分に間に合う。


「ルファンさん、石当て上手すぎですって!」


「……」


 ユユのやつ、リーダーらしく俺に配慮してくれる。投石やナイフ投げ等、投擲は盗賊の基本的な技術だからな。


 そういや遠距離攻撃といえば、弓手のピュリスはどうしたんだと思ったら、ゴブリンに矢を放つのを躊躇している様子だった。


 おそらく、仲間に当たるんじゃないかと緊張をしてるんだろう。そういう弓手はよく見てきた。


「ピュリス、肩に力が入ってるし構えも少しズレてる。こうするんだ」


「あっ……」


 俺はピュリスの腕を掴み、力みを盗んでやったあと、その姿勢を修正してやった。


「矢を放ってみて」


「はい……!」


 ピュリスの手元から飛び出した矢が、ゴブリンの額を捉える。


「グゲエッ!」


「す、凄い……。ルファン様、どうしてわかったのです……?」


「俺は力みだけでなく動きを盗むこともできる。当然、色んな弓手を見てきたから、その正確な射撃も盗んでおいた。それを使ったんだよ」


「……しゅ、しゅごい……」


 ピュリスが蕩けるような顔をしてる。


 って、あれ? とどめの魔法を放つはずのアランが、何故かいつまでも突っ立ったままだった。


「……ま、魔法が、出ない。どうして……!」


「アラン……落ち着け。それじゃ魔法は出ない。魔力が逆流してるからだ」


「ぎゃ、逆流……?」


「ああ。素早く魔法を撃とうとする余り、気持ちが逸って、その結果自分自身に魔力が向けられてしまう。だから、アラン。心身の力みは俺が盗んでやるから、魔法を放ってみるんだ」


「わ、わかった、やってみるよ!」


 アランが再び詠唱を始めると、滞っていた魔力が外へ向かうのが見て取れた。すると火の玉が彼の杖から幾つも浮かび上がり、ゴブリンたちへと向かっていく。


「「「「「グゲゲッ!」」」」」


 火球は残ったゴブリンたちに全て命中し、ほぼ一瞬で蒸発させた。


「ありがとう、ルファン。あなたのおかげだ!」


「ちょっ……」


 感激した様子のアランに抱き着かれる。


「いやいや、アランが倒したんだから」


「そんなことはないよ! ルファンが指摘してくれなかったら、僕の魔法は出なかったんだから。でも、どうして魔術師でもないのに魔力の動きまでわかるの?」


「器が違うから一瞬だけしか無理だが、動きがわかったのは魔術師のジョブ自体を盗んだからなんだ」


「「「「す、すごっ……!」」」」


 いつの間にかユユ、リディア、ピュリスの三人も傍にいて、驚きの声が被っていた。


 ユユたちは初心者パーティーだからか、こうしてなんでもないことでも喜んでくれる。追放された俺にしてみたら、まさに楽園のようなパーティーだ……。

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