第4話 盗賊、新鮮味を覚える。
俺が入ったF級パーティーでの、初めての依頼をこなすときが来た。
ここから半日ほど歩いたところにあるシャーヌ川、それにかかる石橋の中央で、通行人の行く手を阻むゴブリンが数匹いるので退治してほしいというもの。
ゴブリンは単体だと大したことがないが、数匹集まると連携してくるから厄介な上、簡単な仕掛けの罠を張ることもあるため注意が必要だ。
例えば、相手を転ばせるスキッドトラップとか、びっくりさせるサプライズトラップとか。
どちらも程度の低いF級トラップだが、確か欄干が低い石橋だし川も水深が浅いので、罠にかかれば転落死してもおかしくない。
なので、俺は注意喚起の意味でそのことをサラたちに教え、戦士のリディアがゴブリンたちを誘導して、なるべく橋の上では戦わないように伝えた。
みんな黙って素直に聞いてくれるので本当に新鮮だ。以前のパーティーだと、みんな『盗賊風情が何言ってんだ』、みたいな顔をしてたからな。
「っと、そうだ。荷物があるなら俺が全部持つよ」
「えっ、マジか、ルファン。戦士のあたしが全部持つのに」
「ああ、リディア。もちろん、盗まれても痛くないものだけでいい。いきなり盗賊の俺を信用しろっていうのも無理な話だからな」
そういうわけで、俺は全員から渡されたアイテムを全て受け取った。
「あ、あれ。ルファンさん、手元から何もなくなっちゃいましたよ!?」
「な、なんてこった。ルファンったら、まるで最初から何も持ってなかったみたいだよ!」
「て、手品もできるのか、ルファンは……」
「……ルファン様、渋いです……」
「……」
なんかやたらと喜ばれてるし……っと、そうだ。なくしたように思われたら困るから説明しとかないと。
「実は、こんな感じで一つにまとめて見せたんだ」
「「「「おおぉっ!」」」」
俺はみんなから預けたものをパッと手元に出してみせた。
「これは手品ではなく、れっきとした盗みの技術だ。もちろん、それに加えてほんの少し魔力も使ってるが、誰もが持っている程度のものを応用したにすぎない。盗みの技術に、ちょっとした魔力を注ぎ込めばいい。たったそれだけで、サイズの大きいものでもこうして収納することができる」
「「「「……」」」」
みんな唖然としてる。当たり前のことを偉そうに説明したので呆れられたのかもしれない。
それから少し経って、俺たち初心者パーティーは出発することになった。
俺は厳密には初心者じゃないが、新たな気持ちってことで初心という意味では当てはまるからあながち間違いじゃない。
「それにしても、ゴブリンが数匹いるって依頼書の記述にありましたけど、あやふやな数字ですね?」
道中、ユユがそんなことを言い出して、俺たちは頷いた。
確かに、彼女の言う通りだ。
依頼者が全てそうするわけじゃないが、ランクを低くするためにモンスターの数をごまかすことがある。
なんで依頼者がそんなことをするかっていったら、低ランク=依頼料や報酬も少ないことを意味しているからだ。
もしかしたら、数匹という設定にしたのはごまかすためで、実際はその倍くらいいるのかもしれない。
「よし、具体的にどれくらいいるのか試してみよう」
「え、ルファン、こんな遠くから索敵できるって、冗談だろ?」
「いや、冗談じゃない、リディア。索敵っていうか、相手の居場所を盗む感じだ。こっからだと60キロくらいの距離だから、それくらいなら鮮明にわかる」
「……ろ、60キロ!? すげーよ、ルファン!」
リディアが目を丸くしてる。そんなに驚くことかな。
「も、もしかして、ルファン。それ以上もできるってことなの?」
「そうだな、アラン。100キロ先なら相手の位置を確実に盗める。それ以上になってくると、段々とぼやけてくる感じだが」
「「「「……」」」」
なんだ? みんな口をあんぐりと開けて仰天してる。
この程度のことで驚かれるなんて思わなかったので新鮮な気持ちになる。
まあ初心者パーティーだからしょうがないか……っと、索敵の続きをしないと。
「ゴブリンは数匹どころか15匹もいるな。ランク的にはEでもいいくらいだ」
「15匹! 確かにEでもいーです!」
「……ユユ、それ地味に親父ギャグ……」
リディアの呆れるような言葉で俺はダジャレに気づいてしまった。ユユはしてやったりの顔だ。まあスライム教の信者だしな。
「てか、倍くらいいるなんて、依頼者のやつに腹が立つよ。それにしても、索敵があるとそんなこともわかるから便利だねぇ。本当に、ルファンがどうして追放されたのかわからなくなってきた」
「そうだね、リディア。ルファンが凄すぎるってのもあるけど、追放した奴らが節穴としか! 僕もいつか魔法で模倣してみたいなあ」
「ルファン様の真似、私もしてみたいです。凄い索敵で素敵です……」
「……」
おいおい、アランとピュリスまでダジャレかよ。このパーティー、愉快すぎる。
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