第3話 盗賊、心が洗われる。
「皆さん、喜んでください! あのルファンさんを見事に一本釣りしてきましたよー!」
「「「おぉお!」」」
「……」
冒険者ギルドの待合室で、ユユの仲間の3人から歓声が上がる。
3人の内訳は女性二人、男性一人だ。
彼女たちが目を輝かせる様子を見て、俺は正直意外に思っていた。
追放された盗賊を仲間にするってことで、てっきり多少は気まずい空気があるかと思いきや、全然そんな感じは見られなかったからだ。
「それでは、まずリーダーの私から自己紹介しますね。名前はユユ。回復術師をしています。将来の目標はといいますと、そこそこ有名になってスライム教を広めることです!」
「スライム教?」
「……やっぱり知らないですよね。このロンテルの街でも、認識率はかなり低いですからね。それくらい、どマイナーな宗教なので……」
「い、一体どんな宗教なんだ?」
「簡単に説明しますと、日々、冒険者の糧となっているスライム様を祀り、瑞々しくも緩い日常を育もうという宗教でして。お休みする前にスライム様の像に対して『スライムエッサイム』と呪文を発するだけでオッケーです。ルファンさんも入りますか!?」
「い、今は遠慮しとこうかな」
「う……」
ユユ、滅茶苦茶ショックを受けた顔してるな……。彼女がスライム好きなのはよくわかった。
「それじゃ、ユユの次はあたしだ」
自己紹介を待ち望んでいたかのように、素早く前に出てくるボーイッシュな女がいた。
さばさばした感じの子で、片手斧と盾を背負ってるのが見え、中軽量の鎧を着こんでいる。オークの頭部を模したかのような大きい兜が特徴的だ。初対面の俺に人懐っこそうな笑顔を見せてきた。
「ルファン、よろしく。あたしはリディアっていって戦士をやってる。盗賊のあんたの噂はよく知ってるから楽しみ!」
「ああ、よろしく、リディア。っていうか、あんまり期待しないようにしてもらえると助かるんだが」
「大丈夫だって。どうせ、有能なのにさぼって追放されたとかだろ。わかってるって!」
「……」
本当にわかってんのかな、この人。
「それで、リディアはどんなタイプの戦士なんだ?」
仲間としてやっていくからには、当然その特徴を知っておいたほうがいいからな。
「あたしの特徴だって? な、なんだか照れるな。そりゃ、腕力やタフさは男に負けちゃうから、それと俊敏さの両方で耐える感じだよ」
「なるほどな」
要は、耐えられない分を回避能力で躱すってわけだ。
「ユユはスライム教ってのを崇拝してるけど、あたしもいずれは有名になって、オーク教を作って広めるのが夢さ!」
「そうか、なるほどな……って、オーク教……!?」
「なんだよ、そんなに意外か? オークってすげー可愛いだろ? それとも、あたしがズレてるだけかな?」
「……ん-、確かによく見れば可愛いところもあるかもしれない」
「だろ! ルファン、気が合うな! 仲間だ! これからはオーク教信者同士、欲望に忠実に生きようぜ。ブヒヒ!」
いや、待って。勝手に仲間にしないで。みんなドン引きしてるし。俺たちから段々遠ざかってるし……。
「それじゃ、次は僕の番だね」
リディアの次に前に出てきたのは、凛々しい感じの少年だった。
女の子だと見紛うほどの綺麗な顔立ちをしている。いかにも魔術師的な繊細な感じで、鍔の大きな黒い帽子を斜めに被り、同色のローブを身に着けている。
「よろしく、ルファン。僕は君に会えて光栄だよ。名前はアランっていって、魔術師だ。夢は、君がそうだったようにS級パーティーになって一流の魔術師として認められることなんだ」
「そうか、立派な夢だな。よろしく、アラン」
俺はアランと握手をする。彼は俺から何かを吸収しようとしているのか、輝くような目でじっと見つめてきた。
それがなんとも眩しく感じて、俺は思わず目を背けてしまった。
尊敬されるのは嬉しいが、俺って別に凄いやつでもなんでもないしな。それにしても、若いっていいなあ。
「ほらほら、最後はあなたの出番ですよ」
ん、最後に一人の少女がサラに促されつつ、おずおずと前に出てきた。矢筒を背中に抱えてることからも、弓手なのが窺える。
「……ピュリス」
「え、君の名前?」
「……」
コクコクと恥ずかしそうに頷くピュリス。
「弓手を、やってます。……ルファン様を、そ、尊敬……」
「え。尊敬? 俺なんかを尊敬してくれるんならそりゃ嬉しいが、どんなところを?」
「……し、し、ししっ……」
「しし……!?」
ま、まさか、これってシッシって追い払われてるのか?
「……し、渋いおじさまなところ、です……」
「……」
一体どこが渋いおじさまのかはわからないが、おっさん+盗賊だから、どこかがツボだったんだと俺は思いたかった。
「私の夢は、みんなと一緒に幸せになること、です……」
ピュリスはそう呟くと、控えめに笑った。なんだか、びっくりするくらい良い子だ。薄汚れた心が洗われる……。
俺はそれから、このパーティーでは初めての依頼を受けることになった。
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