第35話
「……ルア、大丈夫?」
「あっ、ご主人様!」
リビングの中に入ると、さっきまで怖がっていたはずのルアが全然そんな様子を見せずに私に抱きついてきた。
……まぁ、いいか。今だけは許してあげるってさっき決めたし。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
……私があんな変なのに害を及ばされるはずがないでしょ。
「……ん」
そう思った私は、内心で少し呆れながらも、頷いた。
「ほんとですか?」
「……大丈夫って言ってる」
しつこいんだけど。
奴隷がご主人様の心配をするのは全然普通だし、なんなら良いことだと思うから、別にいいんだけど、流石にちょっとしつこいと思う。
……まぁ、相手が奴隷とはいえ、心配されてるわけだし、悪い気はしないけどさ。……一応。……本当に一応だけど。
「…………ルアこそ、平気、なの?」
「えっ? あっ、はい! 私はもう大丈夫です!」
……なら、なんで抱きついてきてるの?
私がルアの密着を許してたのは怖い思いをして、精神的ショックを受けてるだろうと考えていたからであって、もう大丈夫になったのなら、離れて欲しいんだけど。
「……離れて」
「え?」
「……もう大丈夫なんでしょ。……なら、離れて」
そう思った私は、未だに抱きついてきているルアに向かってそう言った。
「え……」
「……早く」
「……はい。分かり、ました」
すると、何故か渋々といった様子ではあったけど、ルアは頷いてくれた。
……渋々ってところに納得はいかないけど、まぁいいか。頷いてくれなかった訳じゃないんだし。
「……何してるの? 早く離れて」
そのはずなのに、なかなか離れてくれないルアに向かって私は少し冷たくそう言った。
……さっきの出来事でちょっとだけ感情が荒ぶってる気がする。
いくら私でも、この位のことでここまで冷たい声は出さないと思うし。
「え、えっと、私も離れようとしてるんですけど、ご主人様が、その、離してくれないので……あっ、私としては凄く嬉しいんですけど……」
「……?」
この子は何を言っているんだろう。
私が離さないって……あれ、なんで、私、ルアのことを私の方から抱きしめてるの……?
ルアの言っていることに疑問を抱いた瞬間、直ぐに私は理解した。ルアの言っていることを。
……ただ、そのせいでまた疑問が私の心の中に湧いて出てきてしまった。
意味が分からない。私の方から離れてって言ってたのに、なんで……? まぁいいや。それならそれでさっさと私の方からルアを離して、ルアに離れてもらえばいいだけだ。
「……ルアが……まだ離れて欲しくなさそうだから、もう少しだけ、こうしててあげる」
そう思ったはずだったのに、私の口からはそんな言葉が出てきていた。
「……え?」
「……なに」
「あ、いえ……えへへ、ご主人様、ありがとうございます」
「……ん。……たまには、奴隷の意見も聞いてあげないとだから、仕方なく、だよ」
「はい!」
……相手は奴隷だし、別にどうでもいいけど、まぁ、喜んでくれてるみたいだし、今日は本当に特別ってことでもう少しだけこのままでいてあげることにした。
私は優しいからね。
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