第33話

「……もういい。起きるから、離れて」


「……しょうがないですね」


 ルアはそんなことを言いながら私の言う通り離れてくれた。

 離れてくれはしたけど、奴隷の癖に何でそんな仕方ないな、みたいな感じなの。

 離れてれたし、何も言わないけどさ。


 そして、ベッドら起き上がったところで、玄関の扉がノックされる音が聞こえてきた。


 ……誰? こんな時間にこんな場所の家に用事がある人なんているようには思えないんだけど。


「……ルア」


「はい。なんですか? ご主人様」


 ……なんですか? じゃないよ。

 今ルアの名前を呼ぶ理由なんて一つしかないでしょ。

 ルアだって扉がノックされる音くらい聞こえてたでしょ。エルフで私より耳がいいんだから。


「……誰かが来たみたいだから、ルア、行ってきて」


 内心でそんな不満を口にしながらも、実際にそれを口に出して今ルアに拗ねられでもして、扉をノックしてきた人の対応をしてくれない、なんてことになったら嫌だから、私はそう言った。


「行ってきたら、褒めてくれますか?」


「…………褒めてあげるから、早く」


 奴隷がご主人様の言うことを聞くのなんて当たり前のことだし、その程度のことで褒めたりなんて絶対したくないけど、私はそう言った。

 だって、私は絶対に行きたくないから。

 誰が来たのかは知らないけど、人となんて関わりたくないし。

 ルアは私の物だから、こうやって喋れてるだけだし。


「はい! だったら、頑張ってきますね!」


 頑張るって……ルアにとっては人と関わることくらい私とは違って簡単なんだから、頑張るも何もないでしょ。


「……ん」


 そう思いつつも、私は何も言わずにルアを見送った。

 こんな時間にこんな場所の家に来る人なんてちょっと……いや、かなり怪しいけど、ルアには私が渡した付与魔法を掛けてある指輪があるし、仮に変な人でも大丈夫でしょ。

 ……ルアは意外と危機意識がしっかりしてるのか、寝る時だってあの指輪を外してなかったしね。

 私にも効果があると思ってるから、あんなに生意気なのかな。……あの指輪に魔法を付与したのは私なんだから、私に効果があるわけないんだけどな。


 ルアが帰ってくるまであっちに行きたくないし、私はもう一度ベッドに横になった。

 どうせどうでもいい話だろうし、話だって聞きたくないから、そのまま布団に潜り込んだ。

 ……ルアの匂いがする。

 

「……ん」


 枕を抱きしめて目を閉じたら、まるでルアが隣にいるみたいだ。

 ……枕にはエルフの癖に大きいルアの胸みたいなものが無いから、微妙に違うからこそ、やっぱり本物がいいと思うけど。

 ……いや、別に私はルアの抱き心地がいいとか思ってるわけじゃないから、何となくだけど。


 そう思ったところで、部屋の扉を閉めていて、布団に潜っていても聞こえる程の爆発音が玄関の方から聞こえてきた。

 ……私がルアに渡した指輪に付与した魔法の一つが発動してる。

 何かあったのかな。

 いや、あったからこそ、発動してるのか。

 まぁ、別に心配はしてないけどね。

 私は私のことを信頼してるからね。

 私の渡した指輪をちゃんと嵌めている限り、ルアが傷つけられることは無い。

 そう分かっているからこそ、こんなに落ち着いてるんだ。

 もしも指輪を渡していなかったんだとしたら、もう少し焦ったと思う。……別にルアの代わりなんていくらでもいるけど、それでも、私の所有物だし。

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