第32話

 目が覚めた。

 ……もう、目が覚めた時に人肌で温かいのも慣れてきたな。


「すぅ、すぅ」


 ルアはまだ眠っている。

 ……私がご主人様でルアが奴隷……抱き枕の立場なのに、なんでいつも私が起きた時、私が抱きしめられていて、身動きができないんだろう。


 ……なんか、急にそのことに対して腹立たしくなってきたから、私の方からも強めにルアのことを抱きしめて、改めて抱き枕にしてやった。

 すると、強く抱きしめたからか、ルアの匂いが強く感じられた。

 ……別に普通ならルアの匂いなんてどうでもいい。

 でも、なんか、ちょっといつもと違う気がする。

 臭いわけじゃなく、なんというか、強いて言うなら、ルアの匂いが強くなってる……?


 そんな考えに至ってしまった瞬間、私は直ぐに首を振った。

 ……私は何を考えているんだ。……そもそも、ルアの普通の匂いなんて知らないでしょ。……いや、まだ数える程とはいえ、もうルアを抱き枕にして何回か眠ってるんだし、本当に知らない訳では無いけど、わざわざ覚えることでもないし、覚えてなんてないんだよ。

 ……ただ、感覚的にルアの匂いが強いと思っただけだし、勘違いだったのかな。……うん。そうに決まってる。

 何度も言うけど、私、ルアの普通の匂いなんて知らないし。


「……すんすん」


 そう思いつつ、もう一度私はルアの匂いを嗅いでみた。

 ……やっぱり強い気がするけど、もういいや。考えても仕方の無いことだし、仮にルアの匂いがいつもより強かったからってなんだっていうの。別にどうでもいいでしょ。

 なんでいつもより匂いが強いんだって疑問は残るけど、興味無いし。


「ん、ご主人様……? 今、私に何かしてましたか?」


「…………抱き枕にしてる」


 私がちょうど匂いを嗅ぐのをやめようとしたところで、ルアは目を覚ましてそんなことを聞いてきたから、少し考えた結果、直ぐにそう言った。

 別に嘘は言っていない。

 奴隷相手なんだし、嘘だとしても全然いいんだけど、嘘は言っていない。

 

「えへへ、どうですか? 抱き心地はいいですか?」


 すると、ルアは私の言葉を疑うことなく信じてくれたのか、笑顔で私にくっついてきながらも首を傾げて、そう聞いてきた。

 

「……普通」


 ……確かにルアの体は温かくて、何故か落ち着くし、気持ちよくないと言ったら嘘になるけど、私はそう言った。

 だって、別にルアを買ったのはたまたまだし、私はただ人肌が欲しかっただけなんだから、ルアじゃなくたって同じ感情を抱いているだろうし。


「ほんとですか? 素直になってくれていいんですよ?」


「……私はいつも素直」


 度々ルアにはそんなことを言われている気がするけど、私はいつもかなり素直に話してると思う。

 

「……もういい。起きるから、離れて」


「……しょうがないですね」


 ルアはそんなことを言いながら私の言う通り離れてくれた。

 離れてくれはしたけど、奴隷の癖に何でそんな仕方ないな、みたいな感じなの。

 離れてれたし、何も言わないけどさ。


 そして、ベッドら起き上がったところで、玄関の扉がノックされる音が聞こえてきた。

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