第16話

 そうして、一応私の方の準備が終わり、ルアを待っていると、直ぐに着替えが終わったルアが部屋から出てきた。さっきまでルアが着ていた服を手に持ちながら。


「お、お待たせしました、ご主人様」


 そう言うルアの格好はかなりマシになったと思う。

 まだ少し小さいみたいだけど、さっきよりは全然胸も強調されてないし、外に出られる格好にはなってると思う。

 ……まぁ、それでもルアは恥ずかしそうだけど、よく考えたら奴隷なんてもっと酷い格好をさせられて外に連れ出されることくらいあるだろうし、私もここまで気を使う必要なんてなかったのかもしれない。

 もう今更だし、わざわざあの恥ずかしい格好に今から着替えさせる気なんてないから、もうどうでもいい事だけどさ。


「……脱いだ服は適当にソファにでも置いておいて」


「は、はい、分かりました」


 私の言葉に従って、ルアは無駄に綺麗に脱いだ服をソファに置いていた。


「……ん、じゃあ、行こっか」


「は、はい」


 そして、そう言いながら私はルアの手を握って、また王都に向かって直接転移をした。

 やっぱり門番とも関わりたくなんてないし。


「……ルア」


「は、はい、なんですか? ご主人様」


 まだ転移に慣れてないのか、ルアはびっくりした様子だけど、私にはそんなことを気にしている暇なんてない。ルアには聞かなくちゃならないことがあるんだから。


「…………不動産屋の場所、どこか分かる?」


「え? ご主人様が知ってるんじゃないんですか?」


「……知らないから、聞いてる」


「え、えっと、ごめんなさい。私も分からないです」


「……そう」


 まぁ、奴隷なんだし、何となく分かってたけどさ。

 

「……じゃあ、その辺の人に聞いてきて」


「えっ……で、でも、私、奴隷ですよ? 大丈夫、ですか?」


「……大丈夫でしょ。……多分」


「ご、ご主人様も一緒に来てくださいよ。一人じゃ不安です!」


 嫌に決まってるでしょ。

 一体なんのためにルアを連れてきたと思ってるの。

 私が一緒に行ったらルアを連れてきた意味なんてないじゃん。

 

「……やだ。奴隷なんだから、素直に私の言うことを聞いて、早く行ってきて」


「……う、わ、分かりました。……で、でも、頑張るんですから、後でご褒美下さいよ!」


 ……奴隷なんだから、ご主人様の命令を聞くことくらい当たり前のことなのに、何ご褒美なんて要求してきてるの。


「……分かった」


 内心でそう思いつつも、好きにしていい、なんて命令がある以上、変に拗ねられでもしたら困るから、私はそう言って頷いた。

 家を買ったら、ルアにお金でも渡して甘いものでも買いに行かせて、食べさせてあげればそれでいいでしょ。と思いながら。

 

「は、はい、でしたら、頑張ってきます!」


 出来ない私が言うのもなんだけど、不動産屋の場所を聞くくらい簡単でしょ。

 ルアは私みたいに人が嫌いな訳じゃないんだから。……正直、よく知らないけど。


 そして、ルアがその辺の人に向かって、不動産屋の場所を聞くために近づいていってくれた。


「…………」


 待って、ルアに不動産屋の場所を聞きに行ってもらったっていうのはいいんだけど、私、一人になっちゃったんだけど。

 こんな人が割と通るところで一人になっちゃったんだけど。

 この前は人のいる場所を避けてたから大丈夫だっただけなのに、こんなところで一人にしないでよ。

 ……私が行ってきてって言ったんだけどさ。……こんなことなら、私も一緒に行った方が良かったかも。……まだルアと……私の所有物である奴隷と一緒にいた方が良かったかも。


「ご主人様! 聞いてきましたよ!」


「……んっ、遅い」


 心が不安だったからか、ルアが戻ってきたのを確認した私は、安心したのか変な声を出してしまい、その恥ずかしさを隠すようにそう言った。


「そうですか? かなり早かったと思いますけど」


「…………どうでもいいから、早く、案内して。……ご褒美に手繋いであげるから」


「は、はい!」


 本当は甘いものでも買わせて、それを食べさせる予定だったんだけど、何となく、そう、本当に何となく、別に私が不安だったからとかじゃなく、何となくご褒美の内容を変えて、ルアと手を繋いだ。

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