第10話

 あれからしばらくして、私の顔の熱さもとっくに引いてきた頃、やっとルアがお風呂に向かって行ってくれた。

 ……何故か渋々といった様子だったことだけが納得できないけど。

 だって、奴隷なんだよ? 奴隷の身分でお風呂に入れることなんて普通有り得ないし、もっと喜ぶものでしょ。


 ……まぁいいや。

 どうせ、お風呂を上がって、私のいるところに帰ってくる時には顔を真っ赤にして恥ずかしがってるだろうしね。


 ルアがお風呂を上がって来た時のことを想像しながら、私はルアが入っているお風呂場に向かった。

 別に除く訳では無い。

 ルアの……奴隷の裸になんて興味無いし。

 理由としては単純で、まだルアの着替えを置いてないから、それを置きに来ただけだ。


「……着替え、置いとくから」


「は、はい、ありがとうございます、ご主人様」


 そして、一言だけそう声をかけて、私はスカートと適当な上の服を置いておいた。

 ……またお礼を言われたけど、この子、ほんとにありがとうって思ってるのかな。

 最初は久しぶりに誰かにお礼を言われたことにちょっとだけ嬉し……別にどうでもよかったけど、反応しちゃってたりしたけど、今は疑う気持ちの方が強い。

 だって、さっきだってお風呂に渋々向かっていってたし。

 しかも、理由が私にもっとくっついていたいとか訳わかんないものだったし。


 そんなことを思いつつも、もう着替えも置いたし、さっさと元の場所に戻ってソファにでも座ろうとしたところで、ルアがさっきまで着ていた私の服に目が付いた。

 そういえば、あれも洗うために回収しておかないと。


 そう思って、私はルアがさっきまで着ていた私の服を手に取った。

 ……これ、さっきまでルアが下着も無し着てたんだよね。

 ……いや、奴隷が……私の所有物である物が着てただけだし、汚いだなんて思ってるわけじゃないけど、なんか、私の服なのに、変な感じがする。

 言葉には言い表しにくいけど、本当についさっきまでルアが着てたからか、まだちょっと暖かいし、やっぱり変な感じ。

 ……普通、自分が脱いだ服とかだったら、暖かい、なんて思わないから、こんな感覚なのかな。

 

 そんなことを思いつつ、私は何となく、そう、本当に何となく、さっきまでルアが着てたその服をギュッと抱きしめてみた。

 

「……ん」


 ちょっとだけ、悪くないかも。

 ……当たり前だけど、私がルアを好きだから、みたいな変な理由じゃなくて、私が寂しいなんて意味の分からない感情を抱えていて、人肌を感じたいと思っているからこその感想だ。

 

「……ご主人様? もう出ようと思うんですけど、もしかして、まだ居ますか?」


「ッ……もう、出る」


 そうして、ルアが着ていた服を抱きしめていると、突然お風呂に入っていたルアからそんな声が聞こえてきて、私は動揺しながらも直ぐに服を抱きしめるのをやめて脱衣所から出た。

 ……良かった。昨日見られたからって理由でルアが恥じらいを忘れてなくて。

 もしもあんな姿を見られてたら、私にそんな気がなかったとはいえ、ルアに変な誤解をされてたかもしれない。

 ……さっさとこの服はあっちに置いておいて、後で洗おう。

 私の手元にあったら、また変なことをしてしまうかもしれないし。

 

 こんな服よりも、今はルアが来るのを楽しみにしていよう。

 さっきお風呂を上がるって言ってたし、もうそろそろ来るだろうしね。

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