第9話

「…………食べにくい」


 少しだけではあるけど、私の方が早く食べ始めたはずなのに、何故かルアの方が早く食べ終わっていて、私が朝食を食べている姿を無言で見つめてきているから、思わず、そんなことを呟くように言ってしまっていた。


「どうかしたんですか?」


 そして、そんな私の呟きを聞いた原因であるルアは不思議そうにそう聞いてきた。

 ……どうもこうも、あなたのせいだよ。

 

「……食べ終わったのなら、お風呂、入ってきたら」


「まだ早いですし、今はこうやってご主人様のことを見ていたいんです」


「……訳わかんないこと言ってないで、早く行ってきて」


 私の食べてるところなんて見てたって何も面白くなんて無いでしょ。

 

「嫌です」


「……なら、もういいから、こっちを見ないで」


 自分で言うのもなんだけど、別に私は食べ方が汚い方なんかでは無いと思うし、もしも私が人嫌いじゃなければ、普通に誰かと一緒に食べることくらい出来てたと思うけど、相手が食べ終わった状態でジロジロと見られながら食べるのは話が変わってくる。

 変なことをしているわけではないんだけど、なんか、恥ずかしい。


 ……いや、よく考えるんだ、私。

 相手は奴隷で私の所有物なんだから、恥ずかしがる必要なんて無い。

 うん。そうだ。相手は奴隷。私の所有物。私の物。

 ルアなんか気にしないで、早く食べちゃお。


 そう考えて、私は私の言葉を無視して未だに見つめてきているルアを気にせずに朝食を食べ進めた。



 

「……そういえば、ルアは美味しかったの?」


 そして、本当に私が朝食を食べ終わる最後の最後まで……どころか、今も尚私を見つめてきているルアに向かって、私はそう聞いた。

 

「はい、もちろん、美味しかったですよ。ご主人様が作ってくれたものですし、そもそも、奴隷になってからは味の無いよく分からないものしか食べさせてもらっていませんでしたから」


「……そう」


 まぁ、奴隷なんてそんなものだろうし、そりゃそうか。

 ……それにしては私より胸が大きいけど、味が無くても栄養はちゃんとあったのかな。

 

「……一応、良かったね」


 そう思いつつも、まぁ、奴隷の感情なんてどうでもいいけど、幸せそうにしてるし、私はそう言っておいた。


「はい! ご主人様に買われて良かったです」


 だろうね。

 自分で言うのもなんだけど、私はかなり心が広い方だと思うよ。

 だって、命令を聞かなかったり、勝手に私の……は、初めてを奪ってくるような奴隷を特に物理的なお仕置は無しで私の奴隷で居させてあげてるんだから。

 これが私じゃなかったら、何かしらの暴力を振るってたかもしれないし、そもそも、奴隷商に返されてたよ。

 ……まぁ、奴隷商に返さないのは、私が人と会いたくないからなんだけどさ。

 どうせ家を買う予定だから、その時は人に会わなくちゃなんだけど、ルアを返しになんて行かなければその最低限で済むし。


「ご主人様、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」


「……大丈夫、だから」


 ルアに初めてを奪われた時のことを思い出してしまったから、また顔が熱くなってしまった。

 ……今更そのことをルアに対して怒っても私が変に気にしてるみたいになるし、何も言わないけどさ。

 ルアには私が経験豊富だってことで通してあるし。


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