第5話
ルアへの怒りを冷ますために、私は家を出てきた。
家を出てきたと言っても、あくまで結界が張ってある庭の内、だけど。
私は一人でここまで来て、ここに家を建ててるんだし、別に結界の外に出ようと思ったら余裕で出られるんだけど、それは嫌だった。
だって、おかしいじゃん。奴隷のせいで予定も無いのに家を出ないといけないなんて、絶対おかしいに決まってる。
だから、確かに家の外には出たけど、家の敷地内からは絶対に出ない。
そんな決意をして、魔法で椅子を作ってそこに座りながらゆらゆらとしていると、かなり顔の熱さが引いてきた。
「ご主人様、ここにいたんですか」
そして、そんなタイミングをまるで見計らっていたかのように、後ろからルアの声が聞こえてきた。
その瞬間、反射的に私は座っていた椅子から立ち上がって、ルアから距離を取った。
……相手は奴隷なのに、なんで私はこんなに警戒しなくちゃならないんだ。
「ご主人様? もしかして、初めてのことがいっぱいで怖くなっちゃいましたか?」
「……は? ……そんなわけ、ない、でしょ」
何を言い出すのかと思えば、奴隷の癖にルアはあんなふざけたことを言ってきた。
意味が分からないけど、私は反射的にそう返した。
「……そもそも、なんで、初めてだって決めつけてる」
キスくらい、私だってしたことがある可能性くらいあるでしょ。……実際したことなんてないし、ルアの言っている初めてだってことだけは当たってるんだけどさ。
……だからこそ、奴隷相手なのに、あんなに動揺させられたわけだし。
「……違うんですか?」
「……違う」
素直に本当のことを言ったらただでさえ絶対に舐められてるのに、更に舐められそうだから、私はそう言った。
「初めてじゃないのに、ご主人様はあんなに顔を真っ赤にして、あんなに幸せそうな顔をしてたんですか?」
すると、ルアはご主人様であるはずの私に向かってそんなことを言ってきた。
……確かに、顔は真っ赤にしてたかもしれないけど、それはルアに怒ってたからだし、幸せそうな顔に関しては絶対してないし。
それなのにそんなことを言ってくるってことは、やっぱり、舐められてるよね、私。
「……してない」
「してましたよ?」
「……してないって私が言ってる」
奴隷のくせに、なんでご主人様のいうことを信じないんだ。
……あの時、ルアに好きにしていいなんて言わなかったら、こんなことにならなかったのかな。……後悔してももう手遅れだし、そのことを考えるのはやめよう。……どう考えても、善意で言ってあげた命令を私が知らなかったからって理由で悪用してるルアが悪いんだから。
「してましたよ?」
「…………もういい。話にならない」
違うって言ってるのに、全く同じことを言ってくるルアを放って、私は家の中に戻った。
……放ってと言っても、ルアはピッタリと私の後を付いてきてるけど。
「ご主人様、待ってくださいよ」
さっきまであんなにふざけたことを言ってきてたのに、待つわけが無い。
「本当のことだとしても、もう言いませんから、待ってくださいよ、ご主人様ぁ」
そう思っていると、ルアはまた私を舐めたような発言をしてきた。
……一回、これ以上舐められないように力を見せつけてやろうかな。
今日の夜は抱き枕としてのルアに命令して、仕返しに絶対辱めてやるつもりだけど、力を見せて私を怖がらせて、言うことを聞かせるのも悪くないのかもしれない。
「……お風呂」
「あっ」
そう思いつつ、お風呂場まで来た私は、そう言ってお風呂場の入口をルアが入って来れないように大袈裟に凍らせた。
さっき思ってた通り力を見せつけるっていうのもあるけど、こうしておかないとルアが怖い……違う。ご主人様の私が奴隷を怖がってるわけが無い。怖いじゃなくて、ルアが危険だから、だ。
勝手に服を脱がせて、私を辱めようとしてくるような奴隷だ。
お風呂にいきなり入ってきて、私の裸を見てきて、辱めて来る可能性くらい全然あるし、これでいいんだ。これなら、安心してゆっくりとお風呂に入れるし。
そう思いつつ、私は氷が透けてないかをよく確認してから、服を脱いでお風呂に入った。
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