第3話
「……私が先に入る」
「わ、分かりました」
「……嘘。やっぱり、ルアが先に入って」
後からルアに入ってもらって、もしも私が無理だと感じてしまったら、直ぐに抜けだせなくて大変なことになってしまうから、やっぱり私が後に入ることにした。
「え? あ、はい、分かりました。……えっと、し、失礼します」
ルアは全く遠慮することなく、私のいつも使っているベッドの布団の中に入っていった。
……取り敢えず、私のベッドにルアが寝転んでも、特に何も思うところは無い。
「……奥、詰めて」
「は、はい」
……私の言葉を聞いたルアは、私の布団を抱きしめるようにしながら、奥に詰めてくれた。
なんで私の布団を抱きしめるようにしてるのかは分からないけど、これを見ても特に何かを感じることは無いし、別にいいや。
今はそんなことより、私もベッドに寝転べるかが重要だ。
そして、私はゆっくりとルアが開けてくれた空間に寝転んだ。
まだ、ルアの体には触れてないし、同じ布団にも入ってない。
……まだ大丈夫。嫌な感情なんて浮かんできてない。
それを確認した私は、今度はゆっくりとルアに触らないようにして、ルアと同じ布団の中に入った。
ルアが先に入ってたからか、少しだけ暖かい。
それ以上に、何かを思うことは無かった。
「……ルア、体ごとこっち、向いて」
「は、はい」
一番重要なルアを抱きしめられるか、っていうのを確かめるために私はそう言った。
すると、ルアはすぐに頷いてくれて、手を胸の前でギュッ、としながらではあるけど、こっちを向いてくれた。何故かまだ顔が赤い気がするけど、それはどうでもいい。
そして、とうとう私はルアを抱きしめた。
胸の前でギュッ、としてた手ごと。
私より胸が大きいくせにルアは私より身長は少し小さいから、抱きしめやすかった。
……嫌悪感は、無い。……それどころか、さっき手を触った時よりも人肌に触れていることに安心している私がいる。
「ご、ご主人様……」
何かルアが言っているような気がしたけど、初めての感情に心地よくなってきた私は、そのまま眠りについた。
今日は街にも行って、疲れてたんだから、仕方ない。
──────────────
しばらくして、目が覚めた。
「……ん」
なんか、暖かい……?
「……ッ」
少しだけ目が覚めてきて、誰かと一緒に寝ていることに気がついて、思わず突き放しそうになったけど、その直前で昨日奴隷を買ったということを思い出した。
「……んぅ、ご主人様……? 暖かい……です」
ルアもさっきの私同様寝ぼけているのか、いつの間にか私から開放されている腕で私のことを抱きしめ返してきながら、甘えるようにそんなことを言ってきた。
……まぁ、昨日まで奴隷として冷たい床で寝たりしてたんだろうし、これくらいは許してあげるか。
ちゃんと抱き枕としての役割は果たせてるし。
「……起きて」
取り敢えず次私が寝る時までは抱き枕の仕事は終わってるし、このまま寝ててもらってもいいんだけど、せめて私は離してもらわないと困る。
「……起きて」
昨日喋ったのが本当に久しぶりすぎて、まだ声が小さいからか、ルアは起きてくれなかった。
だから、私はもう一度そう言って、今度はルアの体を揺すった。
「……ご主人様?」
「……そう。……ルアは寝ててもいいけど、私は起きるから、離して」
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい。ご主人様」
「……別にいい。……でも、起きるから、早く離して」
「は、はい……」
私がそう言うと、何故かルアは残念そうに頷いて、私を離した。
……? ルアは寝てていいって言ったのに、なんであんなに残念そうなんだろう。
……まぁいいや。大分寂しいなんて訳の分からない感情は落ち着いてきてるし、私はさっさと起きよう。
「あっ、わ、私も起きます」
「……そう」
抱き枕の時以外は好きにしていいって言ってあるんだし、わざわざそんな報告なんてしなくてもいいんだけど、忘れてるのかな。
「……また夜まで抱き枕の仕事は無いから、好きにしていいよ。……今日はまだ家の中でだけど」
「は、はい。……ご主人様は今から何か予定があったりするんですか?」
「……別に、無いけど」
わざわざなんでそんなこと聞くんだろ。
「……?」
そう思いつつも、ルアを放って部屋を出ようとしたところで、私は何故かルアに押し倒された。
……もしかして、奴隷の身分ということに不満をもって、好きにしていいと言ったことを良いことに、私、殺されようとしてる?
……好きにしていいよ、じゃなくて、私に害があるようなことはしないように命令しておいた方が良かったかな。
まぁ、森の奥とはいえ、絶対に人が入ってこないなんて言いきれないから、私を傷つけようとすると自動的に反撃をしてくれる魔法を使ってあるし、大丈夫なんだけどさ。
……強いて問題を上げるとするなら、これでルアが死ぬし、また新しい奴隷を買いに行かないといけないことくらいか。
私の上から退くように今からでも命令くらいできるけど、一度でも私への不満を表に出してきたんだから、もう一緒に寝るなんて無理かもだし、別にいいや。
「好きにして、いいんですよね? ご主人様」
「…………」
「何も言わないってことはいいんですよね?」
「…………何かするなら、早くしたら」
「は、はい」
……………………? …………??? ………………?!?!?!
そして、私は何故か……そう、本当に何故かルアにキスをされた。
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