第36話 繋がり

 俺が抜けてから数日が経った。あれから俺は部活には行っていないし、風間も昼休みには来なくなっていた。


「ゆっきー最近来ないよな」

「ライブも近いからな……」

「それより亮太、何かあったのか?」

「そう言えば拓也に言って無かったな。俺、マネージャー辞めたんだよ」

「はっ? マジで?」

「ああ……」

「って事は、神崎さんと付き合ったのか?」

「いや……そう言う訳じゃなくて」

「じゃあなんでだよ。仲良さそうにしていただろ?」

「まぁ、色々あったんだよっ!」


 そう言うと拓也は、いつもみたいに茶化す様な事はせず真剣な表情を浮かべた。


「本当にそれでよかったのか?」

「なんでだよ……」

「いや、お前高校で思い出作りたいって言ってたし、次のバンドのあてもないんだろ?」

「思い出なら出来たよ……多分。まぁ、バンドに関してはまた拓也をボーカルにしてだな」

「いやいや、俺はもうやらねぇから! 言い忘れていたけどバイト先で会った子とデートする事になったんだよ」

「なんだよそれ!?」

「俺は、予定どおりラブラブな高校生活に近づいているって事だよ!」


 そう言えば拓也は恋愛が目的だったよな。俺も恋愛……いや、今はそんな事考えられないな。彼女達より好きになれそうな人を見つけられそうもない。


「でもどうすっかな……」

「なにが?」

「いや、俺その子に【キザ苺】と【インシグ】のライブのチケット取れるって言っちまったんだよな……」

「ゆっきーに言えばいいだろ? お前だって仲いい訳だし多分喜ぶとおもうぞ?」

「確かに……一人で行っても拒絶されないかな?」

「するわけないだろ! 普段ぼっちなんだから」


 風間ならきっと、拓也にチケットを用意してくれるだろう。デートと言えば張り切って分けてくれるはずだ。


 正直俺も見に行きたいのだけど、今風間に声をかけたらせっかく纏まっているのに壊してしまう事になるかもしれないからなぁ……。


「拓也、すまん。 風間の所に行くなら俺の分も頼んでいいか? もちろん、俺が買うと言うのは秘密で……」

「ふむ。まぁ、いいぜ、カップルで行くって言うより頼みやすいからな! 事情は聞かないでおいてやるけど、話せる様になったら話せよな!」



 正直行くかは分からなかった。どうなっているのかが気になる所ではあるのだが、見る勇気が出るかわからない。拓也はバイト先の女の子を誘うと言うと、何も疑われる事なく風間からチケットを買ってきてくれた。


 ライブに行くべきか……いっそ記念にとっておくべきか。



 だが、ライブ当日。俺は結局来てしまった。

 拓也はデートと言う事もあって別行動だ。二人の姿が見えたものの俺は深く帽子を被り遠くから見守る事にする。ライブハウスには思っていた以上の人が来ているのが分かった。


 流石は人気バンドだよな……。


 メンバーは出てくる様子はない。人数からして出てくるわけにはいかないのだろう。


「チケットを見せてもらえますか?」

「……はい」

「ドリンク代五百円です」

「はい、」


 ドリンク代を払い中に入ると既に人は満員。三百人を超えるひとの集まりは圧巻だ。本来なら、俺は楽屋で彼女達と盛り上がっていたのかも知れない。そう思うと、少しだけ寂しくなってくる。


 開演し、ライブが始まる。出演者がインディーズバンドばかりと言う事もあり、それぞれが個性と実力を持ち合わせたバンドばかりでステージの盛り上げ方も上手い。こんなバンド達を相手に高校生で戦えるなんて、やっぱり凄いな。


 ライブハウスの角でコーラを片手に見ていると、あっという間に次は【インサイトシグナル】の番になった。もうすぐ始まるのか……一体どんな感じになっているのだろう。前のバンドが終わり、ステージが暗転する。何やら準備をしている中でざわざわと観客の話し声が聞こえる。


「やっぱり少年は来ていたんだね?」

「? ……ってチハルさん?」

「しーっ ちょっと見えたからね。変装しているからわからないよ?」

「いや、チハルさんもすぐライブですよね?」

「私は経験値がちがうからね!」

「それで、何の用なんですか?」

「君には本当に申し訳ない事をしたと思っている」

「今更何言われても、もう気にしないですよ」

「ただ、それでも私は間違ってはいなかったと思っている。それほどに今の彼女達は凄くなっているよ」


 それってどういう。

 というか、チハルさんってもしかして……。


 BGMがフェードアウトするとSEが爆音でかかり始める。微かに四人の影が定位置に向かっているのがみえた。すると、SEを切り裂いていくかの様な音圧響き、ステージが明るくなった。


 ……なんでだよ。


 ステージには大きな旗。四人の服の色にあわせペンキを塗られ白い背景に赤、青、黄色、ピンク色が鮮やかに彩っている。


 最後に渡していた旗が完成されていたのだ。


 キレのあるギターリフ、グルーヴがあるリズムたいに乗っかって行く様に神崎の声が響くとそれまでのライブとは違い一瞬て会場に一体感が生まれる。


「ゆっきー、いつからあんな感情的なギターになったんだよ」

「本当、ギタリストには恐怖でしかないわね。あのステージは君のアイデア?」

「いや、大きな布を使うまでは提案してましたけど……」

「楓のセンスが乗っている訳ね」


 一人一人の演奏が、まるで手に取る様に感じられる。一緒に練習していた記憶や、アレンジを考えてアイデアを出し合っていた時、一つ一つの思いが紡がれている。


 だけど、何かを訴えている様なそんな感じがした。


 演奏が終わり、神崎にスポットライトが当たる。


「今日はありがとうございます!」


 観客の声援が響き、MCが始まる。


「本当ならもう一人、一緒に頑張ってきたメンバーがいたんです……」


 いきなりのカミングアウト。だが、観客はそれがではなくチハルさんだと思ったのか声援からチラホラと彼女の名前が聞こえて来る。


「その人はいつも私達に寄り添って、真剣に考えてくれていました……」


 ちょっと待って。

 この状況でそれは……


「だけど、その事に甘えてしまったせいで一緒にいる事が出来なくなってしまいました。だから今日はその人の為に一曲だけ歌わせてください……」


 もう、充分だよ……


 そう言って、始まったのは俺が神崎や玲さんと作っていた曲だった。色々な感情が溢れて俺は彼女達を見れなくなっていた。


 そんな中、今までで一番優しい二人の歌声が俺の中に響いて来るのを感じた。

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