第32話 秘心

 まさか……な。


「なぁ、最近の玲さん色っぽくなったとおもわねぇか?」

「なんだよ急に……」

「いや、お前マネージャーだろ? 亮太なら何か知っているかと思ったんだが、そう言う話はしないのか?」

「別に、恋愛の話とかはしてないからな」

「そっか。俺は絶対何かあると思うんだよなぁ……」


 拓也の言葉に、俺はチハルさんが言っていた事を思い出してしまう。とはいえチハルさん自体が見るからに恋愛の話とかが好きそうな事もあり、玲さんにはきっと当てはまらないだろうとも思っていた。


「玲さんに恋愛とかは無いと思うけどな」

「なんでだよ?」

「だって玲さんだぞ? あの人は確かにドラムは凄いし、人を纏める能力も高いとは思うけど、恋愛とか考えるタイプじゃ無いだろう?」


 そう、強いて言うなら少年マンガの主人公みたいな考え方をする様な人だ。


「お前は分かってねぇな。ああゆうタイプほど、恋愛の事を密かに意識していたりするんだぜ? ツンデレって奴だな」

「なんで拓也にわかるんだよ?」

「まぁ、俺は普段から女の子の事しか考えてねぇからな!」

「自慢げに言う事じゃねーし!」


 だが、普段から女子とも積極的に話す拓也には説得力がある。本人の恋愛には繋がってはいないものの、恋愛的な話はしている方だと思っていたからだ。


 バンドの事を考え無ければいけないのに、変な情報ばかりが入って来てしまう。こんなに気になるのは俺も玲さんの事が好きなのだろうか……いやいや、あくまで俺は仲がいいだけだ。


 神崎や風間とだって仲がいい。二人の事がすきでは無いかと言われたらきっと好きなのだろう。なんだかんだで楓さんだってそうだ。彼女達は知れば知るほど魅力的だから、どうしても拭い切る事は出来ない。


 男女の友情は存在しないのかな……。


 いくら考えても答えは出ない。付き合いたい気持ちはあるものの、誰かを選ぶと誰かは無くなる。贅沢な悩みなのかも知れないのだけど、俺にとっては全て大切なんだ。


 そんな気持ちで放課後を迎えてしまう。楓さんも気持ちに整理がついたのかこの日は登校していた。だが、予想もしていなかった人物まで姿を現した。


「こんにちは、初めて合う人もいるよね」

「ふぅ……チハルは何しにきたのだよ?」

「部活のOBが遊びに来た……ではダメかしら?」

「まぁまぁ、楓もそんなツンケンするなって。今のバンドがどんな感じなのか見たいって言うからちゃんと先生の許可も取って来てるんだぜ?」

「玲は対バン相手だと言うのを忘れているのだよ」

「あら? そんなに秘密にする様な曲やパフォーマンスでもあるの?」


 チハルさんは、楓さんが居るからなのか前回会った時とは違い少し好戦的な態度を取っている。だが、確かに彼女の目的がいまいちわからない。


「か、風間の前のギターですか?」

「そうね。君があの天才的な今のギターなのね」

「て、天才だなんて……そ、そんな事はないです」

「玲さん、チハルさんに演奏を見てもらう気なんですか? 私もそれはちょっと反対です」

「あら、思ったより警戒されているみたいね……」


 ライブハウスで会った時の雰囲気なら、すんなりと受け入れられたのだろう。だが、楓さんと衝突した事で神崎も警戒してしまったみたいだった。


「それで、チハルさんはどうして来たんですか?」

「うん? 亮太くんに会いにきたに決まっているじゃない?」

「俺に会いにって……ライブハウスで会ったばかりですよ?」

「少し興味が出ちゃってね」


 チハルさんは不敵な笑みを浮かべる。きっと何かを企んでいるに違いないと感じた俺は、さっさと目的を済ませてもらった方が良さそうだと考えた。


「演奏を見たいって言うならいいんじゃないですか? ライブは見られている訳ですし……」

「確かに藤原くんが言うなら……見てもらってさっさと帰っていただくのだよ」

「亮太くん、ありがとうね」

「いえ、練習も進めないといけないので」


 俺は玲さんに合図を送り、練習に入ってもらう事に。新曲はとりあえず伏せたまま、普段の曲を演奏してもらうとチハルさんは細かく頷きながらそれを聞いていた。


「うん、やっぱりレベルがたかいわね」

「もうチハルが居た時とは違うのだよ」

「楓さん、喧嘩を売らないで下さいよ!!」


「それでチハルさん……うちらはどうなんすか? チハルさんのバンドと比べて……」

「そうね。演奏力は圧倒的じゃないかな。楓もかなりベースを理解しているし、ギターの子も私にはあんなフレーズは弾けないわね……とはいえドラムとボーカルもうちのメンバーに負けてないと思う」

「社交辞令は要らないからはっきりいうのだよ」


 チハルさんのコメントは、演奏に関してただ褒めただけだ。うちの方が実力があると言うのはなんとなく分かっていた事だった。


「知名度を覆せるかどうか……次のライブ、会場はほとんど私達のファンになると思う。もちろん客数で言えば3割は【インシグ】が呼んでいるのだけど、曲の知名度で言えばこちらの方が有利だと思っているわ」

「新メンバーの発表を合わせに来てる位だから、その位は覚悟をしているのだよ」

「あとは……今の時点では纏まりきれていないわね」


 確かに、現状楓さんとの間に亀裂が生まれている。そもそも今日はそれを解消するための話し合いからするつもりだった事もあり分かっている事だった。


「何がいいたいのだよ?」

「うん……そうね。スタンドプレイなのは構わないのだけど、戦う相手を間違えているのではないかしら?」

「いや、そんな事は無いと思いますけど? 確かに個性が強い分纏まりきれてはいません。だけどそれは、纏めて行っている段階だからで……」

「本当にそう? 新曲ならともかく今のは私が居た時からやっていた曲よね?」

「そう……ですけど」


 以前玲さんはチハルさんの事をしたたかだと言っていた。もしこれがそのしたたかな部分なのだとしたら、今のメンバーとは相性が悪すぎる。


「例えるなら……特定の人に良く思われたいとか?」

「チハルさん、何がいいたいんすか?」

「あら、玲も例外ではないのよ? 以前ほどガサツな感じが無くなって居るのは彼が居るからではないの?」

「いや、落ち着いただけですよ……」

「そうやって、感情を押し殺して居るうちは纏まる事はないとおもうの? 好きなんでしょ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る