第24話 秘密

「あのね……お願いがあるのだけど」


 神崎は新曲のお披露目で、俺にギターを弾いて欲しいと言った。


「それはいいけど、楓さんは打ち込みだろうし風間のギターの方がインパクトはあると思うぞ?」

「私が伝えられるのはみんなの前で歌う事だと思う……だから直接伝えるしか無いかなって」

「なるほどな。それじゃあ、お披露目までに今の感じで詰めておくよ。だから歌詞を作っておいてくれ」


 今までにないバラードであれば、確かに神崎の声と歌で伝えられるかも知れない。それでも今のままではあの二人が作る新曲への勝算はほとんど無いと言ってもいいだろう。本当にこの形でいいのだろうか?


 やる事が多すぎてパンクしそうだ。


 とりあえず俺は、次の候補になりそうなライブをピックアップして、内容を纏めると神崎と作った曲を詰めてみる事にした。


 メロディはいいと思う。展開だって悪くはない。だが、何かが足りない。バンドサウンドとしてやるにはどうしても平坦になってしまっている気がする。


 だが、かと言っていい案が浮かぶ気がしない。


 すると俺のスマートフォンが鳴った。


「はい、玲さんどうしたんですか?」

「ああ……次のライブを決めかねているんじゃ無いかと思ってな……」

「一応、リストアップはしてます。ブッキングより人が入りそうなイベントを二件ほど」

「そうか。流石にバンド活動していただけに、ライブ関係は問題なさそうだな!」


 現状確認……なのだろうか?


「そういえば玲さん、新曲を作る様に言ったんですか?」

「まぁな。チハルさんの前で昔の曲をやるわけにもいかないだろう?」

「それはそうですよね。チハルさんって大学に行くから抜けられたんですよね?」

「それ聞いちゃうか? まぁ、ざっくりと言えばそうだな。受験というのもあるが、高校生じゃなくなるわけだし、音楽室での練習も出来なくなるからな……」


 確かに卒業してしまうと、スタジオ代がかかるというわけか……高校生にとっては切実な問題だな。


「というのは建前だ。実際、チハルさんがいた時にはスタジオ代位はライブやグッズの販売でお釣りが来るくらいにはなっていたからな」

「それならどうして……」

「挫折したんだよ。正確には楓がな……」

「楓さんが?」

「あいつはああ見えて繊細だからな。学校の宣伝のPVは見たことがあるか?」

「はい……それでこの学校に来ましたから」


 そう言うと、玲さんは考えているのか少し間を置いた。


「……あれでうちらは結構知名度を上げたわけだが、それと同時に自分たちは間違えていなかったと自信になったんだ」

「あれは、プロにも負けないPVでしたしね」

「高校生……と言う先入観があるからそう見えたんだ。うちらもそれを狙っていたわけなんだがな……」


 高校生にしては・・・すごい、プロみたいな・・・・高校生が出て来た。つまりはそう言う事だ。


「それで、知名度が上がったうちらはメジャーバンドが出るイベントに出たんだ。それぞれが上手いのは当たり前、その中で戦って行けるのは高校生の間だけなんだと思い知った」

「だからチハルさんを……?」

「それもあるが、楓が今のクオリティではダメなのだと、せめて自分の楽器だけならその壁を抜けられる可能性はある。だが、その為には今のままではダメだと言い出した」

「それで楓さんは……」

「そこに響と雪が来て音を片っ端から見直して今の形になったわけだ」


 クオリティが劇的に上がっていたのは、あの二人が入ったからじゃ無い。時間をかけて作り上げて来ていたのだ。


「今なら勝ち上がれると?」

「だが、チハルさんは演奏以外の方が凄かったわけだ」

「だから意識しているって事ですか?」

「彼女の実力を見誤っていた訳だからな……まぁこの話はこれくらいにしておこう」

「そうですね。これからどうするかを考えないとですね」

「そう言う事だ。それで、亮太は楓とヤッたのか?」

「ゴホッ、なんでいきなり……」


 急な振りについ、むせてしまう。


「だって、楓が好きだったんだろ? あいつからも一緒に寝たってきいたぞ?」

「いやいや、一緒に寝ましたけどしてないですよ」

「なんでだよ? 楓の身体は結構気持ちいいんだぞ? 本当にお前付いてんのか?」

「ちょっと待って、玲さんまるでヤッたみたいに言ってますけど女ですよね?」

「何言ってんだ? うちが男な訳ないだろ?」


 あれ? 俺が悪いのか?


「そんな普通に返されても……」

「まぁいい。それはいいとして、亮太は響と曲を作っているらしいじゃねぇか?」

「神崎が作りたいって言っているのを形にしているだけですよ……」

「それで、どうなんだ?」

「どうって、難しい所ですね。楓さんや風間も作っているならそっちの方が採用される可能性は高いですけどね」

「そうか……」


 玲さんが知っているのが意外だった。と言うより、神崎はちゃんと作曲すると玲さんに言っていたのかと思った。


「確かに分は悪いか。そうだ、うちも手伝ってやろうか?」

「玲さんが? それはある意味助かりますけど、何でまた?」

「理由は単純だ。その方が面白そうだろ?」


 そういうと、彼女は明日朝練するといいだし、神崎と俺は朝早くから呼び出される事となった。


「おはよう藤原くん」

「おう……」

「なんか、眠そうだね?」

「いや、眠いだろ! 朝練とは聞いていたが、学校が開く七時からとか起きる時間は六時だぞ!?」

「私は五時には起きたけど? 六時だと準備が間に合わないよ?」

「……神崎は確かに時間かかりそうだな」

「それにしても、玲さんも曲作りに参加するって何言ったの?」

「いや、急に乗り気になったんだよな……」


 すると背後から威勢のいい声がした。


「おうおう、やっとるか?」

「おはようございます!」

「いや、何でそんなおっさんみたいに……」

「なんだ? おまえら気合いが足らん様だな?」

「部活の顧問すか!」

「玲さん、ありがとうございます」

「まぁ、うちもそろそろ何かせんといかんだろ?」

「そう言うのは普段何もしてない人のセリフですよ?」

「まぁ、今日は仲良くやろうや!」


 そういうと俺たちの肩に腕を回しニッカリと笑う。まるで男の先輩みたいな彼女は意外にも柔らかく、短い髪からは甘く可愛らしいシャンプーの匂いがした。

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