第22話 母親と世界観

 悔しい所だが、母親の言っていた事は的を得ていた。全く違う世界かも知れないが、そのジャンルで求められている物は絶対にある気がする。


 ルックスを生かして握手会やチェキ会とかか? いや、アイドルではないんだよな……ならガールズロックバンドに求められている物って何なんだ?


 一晩色々と考えてみた結果、結局何も思いつかなかった。俺も言うなれば楓さんに憧れていた。だが、当時思っていたのは可愛くて好き勝手にやって才能があるという自由な感じを、俺も出来る様になりたいと思っていただけだ。


 だが、マネージャーとして中に入ってみると、かなり印象は違っていた。それぞれストイックにプライベートを犠牲にして頑張っている。風間もある意味、高校生になるまでをギターの為に犠牲にして来たというのは凄くよく分かったのだ。


「ガールズバンドの魅力?」

「いや、魅力というか求められている物って拓也はなんだとおもう?」

「俺は可愛くて上手いな位にしか思ってねぇからなぁ……それこそ桐島兄弟に聞いてみるのが良いんじゃねぇか? あいつらはずっとガールズボーカルを求めてただろ?」

「気は引けるが……確かにそれが一番だよなぁ」


 ファンの気持ちはファンに聞くのが一番。だけど、多分というか確実にあいつらは俺の事嫌いになっているだろうしなぁ。


 とにかく、ダメ元で聞いてみるしかないか……。


 気が進まない中、俺は桐島兄の教室にむかう。兄の欽也きんやはドラムで、弟の銀二ぎんじよりは温厚な性格をしている。


「よっ……久しぶり」

「亮太か、珍しいな」

「最近はどうよ?」

「一応、夏川先輩とバンドを組む事になったかな」

「マジかよ? あの人結構上手いし、ガールズボーカルバンドじゃねぇか!」

「まぁな……それで? 別にそんな事聞きにきたんじゃないだろ? 【インシグ】のマネージャーさん?」

「知ってたのかよ……お前らに聞いてみたい事があってな。本当は銀二にも聞きたいんだけど、あいつにはブロックされているから話しかけるのもな……」


 すると欽也は笑った。二人揃うと息がピッタリで被るのだが、一人で会う時の彼はどこか大人びている。そこで俺は拓也に聞いた質問と同じ事を聞いてみた。


「求めている物か……なんかマネージャーらしくなったな」

「それはいいから、やっぱり抱きたいとかか?」

「ネタでもそれは銀二なら手が出てるぞ?」

「悪い悪い、それでなんかあるか?」

「俺は強いて言うなら世界観だな。ガールズボーカルなら何でも良い訳じゃなくて、神崎のあのウィスパーボイスなのに全力で歌える感じが独特な世界を作っていると思うんだよな」

「確かにあれはあいつしか無理だろうな」

「唯一無二なんだよな。俺的には女性ボーカルってほとんど4パターン位で声質が別れるだろ? 高い音域だからある程度は縛られるのかも知れないけどな」

「確かに、アイドルとかほぼ同じ声だらけだもんな」

「もしくは有名な奴のマネみたいなのだな。そんな中で完全なオリジナルでそれに世界が有る奴ってそうはいないと思うんだよな。それに他のメンバーもその世界をしっかりと広げている……」


 とりあえず欽也が神崎の声が好きなのは伝わってきた。なんとなくだが、彼が言った『世界観』というのがヒントになる様な気がしたものの曖昧過ぎて具体的な事はなにも思い浮かばなかった。


「神崎の良さはだな──」

「わりぃ、そろそろ教室にもどらねぇと間に合わなくなる」

「そうか……まぁ、銀二も抜いた刀を戻せなくなっているだけだから、さりげなく話してやってくれ」

「時間はかかるだろうけど……わかったよ。ありがとな!」


 一言で世界観と言われてもな、名前にしているアーティストもいるのだけどそれを作るのが一番難しい気はするな。とりあえず一番のファンであろう桐島兄弟が言っているのだから求められているのだろう。


 という訳で、俺は練習でとりあえず言ってみる事にした。


「そこが合わなくなると世界観が崩れてしまうだろ?」

「そうか……分かった」

「もっとコード感だして世界観を作っていけないかな?」

「ふむ……私はかなり作れていると思うが、亮太の言う世界観とはどんな物なのだよ?」


 さすが楓さんというか、彼女自身の世界観を俺が連呼する事で崩しているのを察したのだろう。


「と、とりあえず神崎の声を活かす様な……」

「私も玲もそれは意識しているし、雪に関しては以前よりはるかに雰囲気が作り込まれている。藤原くんは、どこが違うと感じているのかい?」

「……見た目とか部屋とか?」

「それは流石に演奏では無理なのだよ!」


 追い詰められ苦し紛れに出たのは、全く音楽に関係のない部分だった。だが、それと同時に俺は気づいてしまった。


「衣装は楓さんが考えてくれるから良いですけど、ライブハウス自体で変えられる事は無いですかね?」

「ふむ……確かに証明や衣装だけではありきたりなステージというのも分からなくはないのだよ。しかし、予算をかけずにとなると他のバンドもいる中では中々難しいのだよ……」

「そうか、撤去する事も考えなくてはいけないですよね」

「風船とかを使うという手も有るのだけど、演出でつかうときの塩梅がわからないからどの位用意するかという話だよ」


 ここはもう一度母親に聞くか?

 ステージといえばV系だ。あまり売れていなくてもセットを組んだりステージでの演出が凝っているのは多いのは、小さい時から何度も見ている俺は知っていた。


 家に帰ると直ぐに聞いてみる事にした。


「安価にステージを作る? セットはどこもお金をかけているわよ?」

「ワンマンじゃ無い場合とかはどうしてるんだよ?」

「その場合は旗や小道具ね! バンドのロゴをドラムの後ろに掲げるだけでも専用のステージに見えたりするし、心臓のオブジェを握りながら歌ったりすると雰囲気でるわよ?」


 神崎が心臓持って歌ったらインパクトはあるかも知れないがサイコパスキャラ確定演出だな……。だが、旗というのは確かにいいかも知れない。ロゴのデザインで世界観も演出出来るし、背景が変わる事で明らかにステージが変わったのだと見せることが出来る。


「他は……そうね、白衣に血をつけたり──」

「もう、大丈夫です!」

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