第20話 コミュ力とは?
誤解は解けたものの、風間と母親は何故か仲良くなっていた。お母さんと普通に呼ぶし、食卓まで囲う始末だ。母親も母親で可愛い娘が出来たとよろこんでおり、お互い音楽好きという事で何故かチャットまで交換していた。
こいつってコミュ症だったはずだよな? コミュ力というものが全くよくわからなくなってくる。
「そろそろ暗くなってきたから亮太送ってあげなさい?」
「わかってるよ」
「それで、雪ちゃんは気持ちよかったの?」
「いや、どさくさに紛れて何聞いてんだよ」
「そ、それはもう!」
「ゆっきーも乗らなくていいからな! 何にもねぇから」
「孫の顔は見たいけど、仕事に就くまで出すのは我慢するのよ?」
「何をだよっ!」
俺はとりあえず風間を送って行く事にした。聞いたところ、自転車で行く方が早い事がわかり二人乗りで送る事にした。
「ふはー、た、楽しかったです!」
「それは良かったな。でもまぁ、手伝ってくれてありがとな!」
「い、いえいえ。か、風間のバンドですし」
「確かに。それもそうか……」
外は日が沈み、街灯が点き始め風も涼しくなっている。ママチャリを漕ぐのは少し大変だが腰に手を回ししっかりとくっついている風間が可愛いと思った。
「藤原さんは、か、風間に興味はないのですか?」
「ん? そんなわけないだろ?」
「そ、それなら興味あるのですか?」
「いや、聞き方よ! ゆっきーはすごいギタリストだし、出てくるフレーズも俺が考えつかない物ばかりだ。頭もいいし、はっきり言って尊敬してるよ」
「ンフッ。そ、そんな風に思ってたんですね」
「だから今日も悠さんとこに連れて行ったんだよ」
「そ、それなら、女の子としてはど、どうですか?」
今日の風間はやたらとグイグイくるな。彼女ももしかしたら不安な部分があるのかも知れない。
「女の子としても可愛いと思っているよ。多分だけど【インシグ】の中では一番仲がいいだろ?」
「さ、触りたいとか、ふ、触れ合いたいとか思いますか?」
「そりゃ、ゆっきーみたいな可愛い子なら触りたいさ。って
何言わせんだよ!」
「ふ、藤原さんならいいですよ?」
「またまた、そんな事言って」
「い、いえ、藤原さんがいいです……」
「ちょっとゆっきー?」
俺は漕いでいた自転車を止めてしまった。振り向くと俯いている風間の姿があった。
「か、風間はほとんど人と話す事が出来なかったんです」
「今はどちらかというと話に行ってるよな」
「藤原さんが、か、風間を受け入れてくれたからです」
「そんな大層な話じゃないけど」
「こ、この話し方でバカにされたり、いじめられたりした事もあって……それでどんどん話せなくなっていったんです」
「そうだったのか。でも、乗り越えたのはゆっきー自身だろ? 俺はただ単に面白い奴だったから話しているし、仲良くもなれただけだよ?」
彼女のバンドに入る前を知らない。入部した時には存在を認知していなかったから本当に話せないタイプだったのだろう。
「と、友達以上にはなりたく無いですか?」
ドクッ……
その言葉に胸が苦しくなる。
今まで意識していなかったと言われたらしない様にしていた。神崎とも仲がいいし、今は意識してはいけないのだと思っている。けれども彼女の気持ちを考えると、それは俺のただのエゴだ。
「ご、ご飯も割り勘でいいです。ど、道路側だって歩きます、え、エレベーターのボタンだって押します……」
「なんか凄く細かいな……」
「……エッチな事も望みます、だ、だから……」
「望むのかよ!」
今にも泣きそうな風間に、俺は心が揺らいで仕方ない。普通に考えたら風間が一番いいだろう。顔は好みだし、気を遣わなくても仲良くできる。なんなら母親とも仲良く認められてもいる女の子だ。
神崎に匂わせるのだって風間でもいいんじゃないか?
「ゆっきー……」
「い、嫌だったら思いっきり殴ってください」
「は? なんで?」
そう言って彼女は抱きついてきた。少し汗の混じった女の子の匂いがする。柔らかい彼女の身体はギターを背負っているせいかずっしりと重さを感じる。
「ゆっきーの事は好きだよ。だけど今は【インシグ】の夢を叶えたいと思っている。何も出来なければあと一年しかできないんだ……」
「そ、それで、神崎さんとも?」
「まぁ……そんな感じなのかな?」
「そしたら、わかりました……」
納得してくれたのか、俺は彼女の頭をポンポンと撫でると再び自転車に跨ると、彼女は自転車に近づきいきなりキスをした。
「ちょっとゆっきー?」
だが、そのあとすぐに俺の手を取り自分の胸に当てる。小さいものの確かな柔らかさが伝わってくる。一体何をしようと……その瞬間、彼女はズボンに手を突っ込み握った。
「ダメだっていってんじゃん……」
「え、AとBは私としました。コレでCがしたくなったら風間を攫ってくださいね?」
「ちょっとやりすぎ……」
「ち、ちょっと大きくなってきたのでここまでです。藤原さんのキノコを知っているのは風間だけです」
そう言うとズボンから手を抜いた。動悸が止まらない……風間に色々と掴まれてしまった。それまでの気持ちは一気に彼女に傾いている。
彼女は後ろに乗ると、何食わぬ顔で腰に手を回す。さっきの事が頭から離れずまたいつ触られるかと期待と心配が錯綜している。
「か、風間は今からでもいいんですよ。ふ、藤原さんが一年我慢したいって言っているだけですからねー!」
「この子鬼だ……」
「ほらほら大きくなってますけど、が、我慢ですねー」
「ちょこちょこ触るのやめてくれ!」
「す、すぐに風間を選ばないからです……が、我慢する度に風間を思い出して下さいね」
そう、風間は頭がいいのだ。一年我慢すると言った手前、他の人と何があるかわからない。だから彼女は記憶に残す事を選んだのだろう。
俺は多分、一番敵に回してはいけない子に目をつけられてしまったのだ。結果俺は、女の子とどうにかなりたいと考える度にこの日の事を思い出してしまうのだろう……。
また一つ、俺は彼女たちに翻弄されて行く。軽音部の才能溢れるキラキラとした雰囲気に憧れてしまった事で、青春バンド女子たちの素性を知る事となってしまったのだ。
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