第19話 先輩

 【刻まれた苺】通称【キザ苺】は今年有名になり始めたバンドだ。内宮果実うちみやかじつという大学生インフルエンサーを中心に結成され、元アイドルや、元インディーズをメンバーに備えている。


「まさか、こうなるとは思わなかったんだがな」

「チハルさんも大学生なんですよね?」

「そうだ。あの人は顔が広いからな、大学生のイベントあたりで何かしら繋がったのだろう」

「分かりました、返事しておきますね!」

「すぐに頼む! メンバーにはうちから言っておくから心配しなくていい!」


 風間は拍子抜けしたのか、魂が抜けた様な表情をしている。


「ゆっきー、イベントが決まるぞ!」

「は、はい……」


 俺はすぐにメールを返し、ライブハウスに電話をかけた。


「なるほど、マネージャーね。まぁ、元メンバーがでるから焦ったのかな?」

「まぁ、そんな感じですけど……」

「オッケー、チケット用意しておくからヨロシク!」


 今回のイベントはライブハウスが主催だ。とは言ってもここの店長は元々なの知れたバンドマンで、自主企画などもやっていた人物との事。【ファーストペンギン】というイベント名はその頃からの名残なんだそうだ。


「か、風間は大丈夫ですけど……ち、チハルさんが入ったって本当なのですか?」

「本当みたいだな。問題はそうなると相手はギター二本になるというのが気になる所だがな」

「そ、そうですね……藤原さんも出るというのは?」

「あくまでガールズバンドだし、俺が出るのはマイナスにしかならない。それにゆっきーの足を引っ張る事になる」

「そ、そんな事はないです。れ、練習の時もちゃんとまとまってましたし!」

「あれは無難に弾いていたからだよ。重ねる程度であればいいかも知れないけど、悠さんも言っていただろ?」

「ぎ、技術以外の部分……」

「そう、ゆっきーはパフォーマンスは苦手でもルックスは最強なんだよ。それだけで魅せる事が出来る」

「藤原さんは、風間のファンですか?」

「そりゃもちろん。【インサイトシグナル】のポスターが有れば部屋に飾っているさ!」

「そ、それ全員じゃないですか!!」


 とはいえ、ライブが決まった事でやる事は盛りだくさんだ。俺は玲さんに現状のグッズの残数と、販促なんかで使える予算の確認を入れる。グッズに関してはどれほど用意すればいいかわからないが、物販に置ける程度にはあるみたいだ。


『予算は10万だ。ただし、継続して使う衣装を考えた上での予算だからチラシなんかを作る場合はデザイン混みで一万くらいで抑えて欲しい』


 衣装代というのは以外だったが、チラシ代は思っていたよりシビアな金額だ。手書きでコピーをするなら充分すぎるが、デザイン費混みという事は印刷しろという事だ。


 ネットで色々調べてみるしか無いか……。


 家に着いた俺は早速作業に取り掛かる必要がある。だがしかし、俺には違和感があった。


「ただいま……」

「おかえりなさ……亮太? その子は誰?」

「は、初めまして風間雪といいます!」

「ええっ!? ゆっきーなんで付いてきてるの!?」

「だ、だって、お、お別れしてないですよね?」

「……確かに!」


 母親が興味津々な顔をしている。


「もしかして亮太の彼女なのかしら?」

「何母親感だそうとしてんだよ。普段そんな喋り方しねぇだろ!」

「い、いえ、か、彼女ではありません」

「あらそうなの?」

「そうそうゆっきーはバンドの……」

「し、強いて言うなら、性奴隷かおもちゃですね!」

「おいっ! これうちの母親なんだからな!」

「亮太……話があります……」

「ありません! 誤解というか、ゆっきーの冗談です!」

「そうなの? ならいいのだけど……ちゃんと避妊はしなさいね?」

「は、はいっ! お母様!」

「ゆっきー、頼むから黙っていてくれ!」


 何事も無かったかの様に風間は俺の部屋へと入り込む。すると案の定ベッドにダイブしだ。


「ふはー! お布団!」

「お前、せめて靴下は脱いでくれ!」

「……はい」


 しゅんとした風間は、靴下を脱ぎ始める。いや、こいつが履いているのは黒タイツだ……ゆっくりと生足が出てくると俺はつい、息を呑む。


「ぱ、パンツ見るなら今ですよ!」

「ちょ、楓さんみたいな事言うのやめてくれる?」

「えっ……か、楓さんってそんな事言うんですか?」

「あ、いや……」


 つい口を滑らせてしまった。彼女達の中では抜けた事は言ってもエッチな事を言うイメージは無いのかも知れない。


「も、もっとSっ気のある、や、ヤバい事言うイメージでした」

「そ、そうなの?」


 一体あの人女子同士の時どんな会話してんだよ。


「まあいい。折角だからゆっきーにも手伝ってもらうか」

「はい! よろこんで!」


 だが、ベッドで寝転がりながらも彼女が手伝ってくれた事で、サクサクと作業が進む。計算なんかも早くアドバイスも的確にしてくる。


「やっぱりお前って頭良いよな? 成績とかも良いのか?」

「さ、参考になるかはわ、分かりませんけど、テストは学年では一位ですよ?」

「うん、充分参考になるな。すげ〜頭いいんだな」


 確か噂で、風間が吃音なのは思考が早すぎるからだと聞いた事がある。彼女の成績なんかも加味しての噂だったのかも知れないな。


「あ、IQ2000くらいありますから!」

「いや、頭悪そうだな!」


 風間のおかげで、依頼する場所や金額。チラシの内容なんかがサクサクと決まると、一つの問題が出てくる。


「こ、今回で配り切るので有れば、ら、ライブの予定も入れたいですよね」

「確かにそうだな。ただ今すぐに決まるわけじゃないし、こればっかりはどうしようも無いな」

「で、でしたらプリンターでに、日程だけ印刷出来る様にするのはどうですか?」

「確かに、それは良さそうだな」

「こ、この艶なしの紙にしておけばプリンターでも出来るとおもいます」

「ナイスだゆっきー!」


 その瞬間、部屋のドアからの嫌な気配に気づき振り向くと母親が覗いているのが見えた。


「ちょ、何みてんだよっ!」

「仲がいいのはいい事なのだけどね、女の子を脱がしてベッドというのは心配しちゃうのだけど?」

「は? 別にそんな事は……なんでゆっきースカート脱いでるの!?」

「か、カサカサしますし、い、家ではいつもこうですよ?」

「お前んちじゃねーから!」

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