第17話 実力
「同じ軽音部なんですけど、上手いですよねー!」
「いや、上手いってレベルじゃないだろ。今のアドリブだったよな?」
「そうですね……今日は彼女を見てもらいたいなと思って連れてきたんですよ」
「なるほど、そういう事か」
俺は悠さんに、それまでの経緯を話した。ほぼ完成されている彼女のスタイルをどうすれば進化させられるのかと。
「俺が知る限りだと、ギターヒーローと呼ばれる奴らにはどちらかの特徴が有ると思っている。一つは圧倒的な正確性だ、ポールギルバートやジョンペトルーシ、日本だと松本さんの様に聞いただけで分かる正確さだな」
「風間はそれを目指すべきなのか?」
「そうとも限らん、もう一つは圧倒的な存在感だ。ジミヘンなんかが対照的だな、日本だとken yokoyamaとかだな……」
「なるほど……難しい所ですね」
「後者は技術的な上手さはわかりづらい。だが、影響を与えた事で言えばこちらの方が多いと俺は思っている」
「それで、ゆっきーはどうすれば?」
悠さんは腕を組み、頭を傾げて険しい顔をする。
「わからんな。瞬時に弾ける正確性とフィーリングを形にできる力は正直どちらにも行けるし、どちらも難しい感じもするんだよな……」
「両方の要素が有るって事ですよね?」
「まぁ、最終的には代表曲の人気とかも関わってくるから曲次第にはなるんだよな」
残酷な話だがそうだ。売れた曲やカリスマ的な曲が無い事で彼らより上手いがギターヒーローになれなかったギタリストもいるだろう。
「だがな、俺はその曲を名曲にできるのもギターヒーローの力だと思っているぞ? いくら駄作でもギターで作り替えるレベルのアレンジ力が無ければ本当のギターヒーローとは言えないんじゃ無いかな?」
「確かにそれはありますよね」
つまりは、風間一人で出来る事では無い。楓さんの作る曲によっても変わってくると言う事だ。だが、そう思っていた矢先風間は意外な事を呟いた。
「ほ、本人が作るのはダメですか? い、今も一曲は風間が作った曲です」
確かに、風間も曲を作っている。しかも採用されていると言う事は楓さん自体も認めているんじゃないか?
「もちろんいいと思うよ、さっき言ったギターヒーローたちも自身で曲を作っているからね」
「そういえば、ゆっきーの曲ってどの曲なんだ? 作っているのは知っていたけど、練習でやってたか?」
「えっと、す、ストロベリーって曲です……」
その曲は、てっきり楓さんが作った曲なのだと思っていた。
「か、歌詞は書いていないのであんまりわからないかも知れないですけど……」
「えっと、ゆっきーちゃんだっけ? その曲のリフを弾いてもらっていいかな?」
「そ、それは構いませんけど……」
そう言って弾き始めたリフは、いつも通りの風間だ。変則的かつまさに今の【インサイトシグナル】のギターの音。強いて言うならレスポールカスタムで重厚感が出て雰囲気は違う。
「うーん、さっきのアドリブの方がいいな。ああ、そうかちょっとそのギターを見せてくれないか?」
「か、風間のギターですか? か、構いませんけど……」
悠さんはいつに無く真剣な表情で何か考えている様だ。
「いやいや、渋いな! グレコのスーパーサウンズかよ」
「なんか特殊なギターなんですか?」
「俺が生まれる前に出ていたギターだ。78年……グレコは型番で年代がわかるんだ。それにしてもこんな色見た事無いけど、ネイビーが焼けているのか?」
言われてみれば色むらのある不思議な青色だ。
「さっきのフレーズ、ミュートの入れ方からストラトをメインで使っているんじゃ無いかと思ってな。やっぱりギターに合わせて弾き方を変えていた訳か……」
「これっていいギターなんですか?」
「好みはあるけどいいギターだよ。当時でも安いモデルなんだが、ヴィンテージの音を再現している造りで今や再現ですらなく普通にヴィンテージだな」
「なるほど……」
「まあ、これでちょっと弾いてみてくれ。さっきのフレーズだとドラムやベースがかなり上手く無いと成り立たない気はするんだけど上手いのか?」
「まぁ……とんでもなく……桐島兄弟じゃ比べ物にならないですよ……」
普段普通に聞いているが、上物が一本しか無い状態でここまでタイトな入れ方をしているのはあの二人が上手いからだ。
「なるほど、桐島君たちも結構上手いんだけどな。それなら納得かな……グレコの良さを良く引き出しているよ」
「悠さんがそこまで言うなら、やっぱりゆっきーは完成しているんですかね?」
「プレイヤーとしてはかなり完成していると思う。プロでもここまで技術があるのはいないと思うよ?」
「えっ? プロ超えているんですか??」
「技術だけならね? プロの能力はそれだけじゃ無い。需要に対して応えられるからプロとして仕事になるんだ」
はっきり言って意外だった。風間自体はとんでもなく上手いとは思っていたがプロはもっと上手いのだと勘違いしていた。
「そうだな、売れているバンドの音を常に再現出来るとか、ステージングで存在感が出せるとか、売れる曲が書けると言うのもプロの能力だ」
「スタジオミュージシャンや、パフォーマンスや作曲って事ですかね?」
「そうそう、ギターの技術だけでプロというのはどちらかと言うとスタジオミュージシャンになるかな? アレンジが得意ならバックバンドというプロもある……それ以外にも機材を使いこなすのが得意な人もいる。だから、彼女自体は凄いのだけど全国で見れば同じ年くらいでいない事はないと思う」
「……そうなんですね」
「そう落ち込むなよ。さっきのアレンジを聞いた感じだと、メンバーもかなり近いレベルなんだろ?」
「は、はい。か、風間のバンドは、す、凄いメンバーです!」
「大抵、このレベルのギターは実力の合ったメンバーを見つけられない。高校生ならなおさらだ、藤原くんですら高校生な
充分過ぎるくらいだ」
「そんな、俺なんて……」
「まぁ、それでも彼女が伸び悩んでいるから俺に見せに来たんだろう?」
「何かあるんですか?」
「俺がその子に勝てる唯一の物を見せてやるよ!」
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