第16話 このギターは!?

 バンドには役割が有る。音を支えるリズム隊と、音や世界観を作る上物の存在だ。お互い交わる事はあるが、それでも基本的には特性を活かしていかなければいけない。


「ふんふんふふーん」

「なんかゆっきー、上機嫌だな?」

「そ、それはもちろん、ふ、藤原さんとデートだからですよ」

「デートって、そんなんじゃないけどな」

「で、でも世間からはそ、そう見えているんです!」


 確かにそれは間違いではない。側から見れば男女ふたり、俺も見つけたらデートだと思う筈だ。強いて言うなら風間がギターを背負っているくらいか?


「お、お買い物しますか? え、映画とか見ちゃいますか?」

「それ本当にデートじゃねぇか!」

「えへへ」


 風間はちょっと不思議な感じはするものの、メンバーの中で一番価値観が合っていると思う。ギターだからというのも有るのかも知れないが、高校に入りいきなり頭角を表したからというのも有るのだろう。


 とにかく、風間は一番気を使わずに話せる存在だ。


「最近練習はどうなんだよ?」

「そ、そうですね。ふ、藤原さんが指示してるのは意外でしたけど、ぎ、ギターを分かってくれてますし」

「俺自身、ギター目線過ぎるきもしたけどなぁ」

「か、風間はやりやすいですけどね」


 本来なら、俺がアドバイス出来る事なんて何もない。現に今日の練習でも俺以上に周りの音を聞いて、その中で彼女の音を出していた。玲さんが言う様に仕事は完璧だったのだ。


 ただ俺は、これが本当に風間の実力なのかと疑問を抱いているだけに過ぎない。


「ちょっと楽器屋さんでも行ってみるか?」

「い、いいですね! か、風間も試奏するのは好きですよ?」

「高い楽器とかテンション上がるよな!」

「ふ、藤原さんもいいギター使ってますよね」

「バイトして頑張って買った物ではあるけど、そこまでいいギターと言う訳でも無いけどな」


 俺のギターはエピフォンのレスポール。簡単に言えば、ギブソンの廉価版になるわけだが、高校生にとっては結構頑張って買ったと思っている。


 だが、風間に関してはもっといいギターを使っていてもおかしくないと思っていた。


「風間はグレコだったよな?」

「そ、そうですよ? メイドインジャパーンです!」

「そのギターで凄くいい音鳴らしているけど、何かコツでもあるのか?」

「も、もしかしてぐ、グレコを舐めてますか?」

「いや、そういう訳じゃ無いけど……」

「こ、このギターでではなく、こ、このギターだから・・・・・・・・あの音がだせるんです」

「そうなのか?」

「ふ、藤原さんは、ほ、骨太な音がお好きですけど、そ、その楽器が出せる雰囲気みたいな物がありますよね」

「確かに……ヴィンテージだと雰囲気あるよな」

「と、特に影響を受けたバンドがか、海外の60年代〜90年代の人には刺さる雰囲気ですよね」

「そうだな……」

「そ、その雰囲気が一番良かったんです」


 彼女のグレコはどこか古い感じがする、ストラトタイプのギターだった。これじゃ無いと出ないと言われた瞬間、風間はあえて使っているのだと分かった。


 楽器屋に着くと、二人で迷う事なくギターのエリアに向かう。有名なメーカーからエントリーモデルまで並んでいる絵は圧巻だ。


「あれ? 藤原くんまさか彼女連れ? って、めちゃくちゃ可愛い娘じゃん!?」

「お久しぶりです……」

「し、知ってる方なのですか?」

ゆうさんって言って、以前ブッキングライブした時に知り合ったんだ」


 一般のライブハウスのブッキングでは、さまざまなバンドが混ざる事も多い。その中で社会人バンドとして出ていたのが悠さんだった。


「こないだ桐島くんがスティック買いに来ててさ、そん時に彼女が出来たって聞いたんだけど、まさかここまでとはねぇ」

「いや、ゆっきーは別に彼女じゃないんですけど……」

「またまたぁ、青春してんなぁ。今日はかっこいい所も見せたいだろうし、どんどん試奏していってよ!」

「……はい」


 悠さんの勢いにまけ、弁解するのを諦める。神崎ならまだカッコいい所を見せてやろうとなるのだが、風間の前でドヤ顔で試奏なんてできる訳がない。


 だが、ここに来たのには理由がある。悠さんは30代のギターマニアだ。若い時にはインディーズバンドだった事もあり、実力も知識もギタリストをみる目もかなり肥えている。


「ちょっと藤原くん。彼女にギターを持たせるのはナンセンスだとおもうぞ?」

「いや、だから違いますって……でも、何かオススメのギターあります?」

「じゃあ、レスポールカスタムでも弾いとく?」

「アホほど高いギターじゃないすか!」

「いいからいいから、それっぽいソロ弾いとけって!」


 サクサクとセッティングを進めると、黒色のレスポールカスタムを手渡した。お値段なんと80万……。俺はチラリと風間をみると俺にというかギターに目を輝かせている。


「この倍音はこのクラスじゃ無いと味わえないんだよなぁ」

「流石に弾きづらいですよ」

「ほら、彼女も藤原くんのギターにうっとりしてるよ!」


 いや、ギターにうっとりしてるんですよ!


「あ、あの……風間もいいですか?」

「えっ、弾くの? でもこれ結構するんだけど?」

「に、68年モデルの2000年代のギターですよね?」

「ま、まぁ……そうなんだけど」


 悠さんは異変を感じたのか俺に視線を送る。すかさず俺は頷くと彼にギターを渡した。


「ゆっきーのは持っておくよ」

「そ、そうですね」

「待って、本当に大丈夫なの?」


 風間はギターを受け取ると、悠さんは物凄く不安そうな表情を浮かべる。だが、そんな事に構う事なく彼女は軽く音をならした。


「うーん、ちょっと歪みすぎかな」


 そう言ってマーシャルのアンプをいじり出す。ここまで来ると自然過ぎて悠さんも固まっていた。


「こ、これくらいですね」


 すると、彼女は普段とは全く違うフレーズを弾き始める。ギターの存在感をフルに活かしたフレーズ、アドリブで弾いているにも関わらず完成された音源の様に仕上がる技術はゆっきーにしか出来ない弾き方だと思っている。


「さ、流石に重いですけど、に、人気のギターで音は完璧ですね……」

「ちょっと藤原くん、この子何者!?」

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