第6話 贅沢な悩み
結局俺は優柔不断なせいで、人生最大のチャンスを逃してしまったのかも知れない。学校生活は、元に戻ったどころかただバンドが解散してしまっただけとなってしまった。
「だから言ったろ? 神崎と付き合えるチャンスなんて人生そうそうないんだから。お前はモテた事で浮かれすぎたんだよ!」
「はい……ごもっともです」
「とはいえ、桐島兄弟は先輩とバンド始めるみたいだし再結成は無いだろうけどな」
「プラマイゼロ……むしろマイナスだよな」
「まぁでも、そうとはいいきれないぜ?」
拓也はそう言って廊下のある窓へ視線をやった。そこには可愛らしい
「き、聞きましたよ! ふ、藤原さん付き合うの辞めたって」
「ああ、すっごく正確な表現をありがとう」
「で、では、貞操は守られたんですね!」
「まぁ、守りたくは無かったけどな」
「か、彼女が欲しいのであれば、か、風間に言って頂ければ弄びますのでい、いつでも言ってください!」
「弄ぶのかよ!」
確かに、完全にマイナスとは言い切れないのかも知れない。神崎との事があったおかげで【インサイトシグナル】のメンバーとの仲は深まっている様に思う。
「なに、ゆっきーちゃんも亮太が好きな訳?」
「そ、そ、そう言う訳じゃないです」
「なら俺でも良くね?」
「き、木本さんみたいない、イケメンはカップリングしてた、楽しむ派ですので……」
「カップリングって、せめて女の子としといてくれよ?」
「ちょっとまて、相手は俺じゃ無いだろうな?」
「ち、ちょっと魔が挿して2回だけ……」
「どう魔が差したか聞かせてもらおうか?」
見た目は美少女なのだが、中身が残念過ぎる。ある意味気は合うのだが恋愛関係となるとどうなるのかが想像できない。
「ゆっきーちゃんは彼氏作らないの?」
「そ、そもそも風間にはオ、オスの知り合いはお二人しかいないので……」
「オスかよ。でも、声かけられたりするだろ?」
「は、はい。で、ですけど、大概は人見知りしている間にいなくなるか、は、話すとイメージが違うみたいで」
「なるほど。そう言えば基本的には人見知りだったな」
「俺がそう感じないのは亮太と先に仲良くなっていたからか」
「そ、そうなのです」
まるで紹介制の料亭みたいだ。しかし俺も、神崎が接点を作ってくれるまでは孤高の天才と思っており、話しかける勇気が無かったから分からなくも無い。
彼女とは気が合う。とはいえ、神崎とは完全に別れた訳ではなく一旦保留という状態だ。付き合えるか付き合えないかは別に、風間を選ぶとしても真摯に向き合って行かなければならないだろう。
そのためには、何より一番の問題を解決しなければならない。それは、俺が東高に入学した理由、桜庭楓の存在だ。
楓さんとの出会い。とは言っても俺が一方的に知っただけなのだが、中学三年生の時に見た高校を宣伝する動画だった。
ギターの練習に明け暮れていた俺は、高校に入ったらバンドがしたいと思い軽音部のある高校を探していた。
「おい亮太、来年の東高はやべぇぞ?」
「いや俺等が行けるレベルじゃないだろ……」
「甘いな、俺は去年から目星をつけてたんだよ」
「は?」
「一昨年に制服が変わって、可愛い子がいっぱい入ったって聞いていたからな!」
「お前、勉強してたのかよ……」
「まぁな。おかげであと少しで合格圏内に入れそうなんだよなぁ……」
「まだ入ってはないのかよ!」
拓也の女の子好きもここまでするなら文句は言えない。軽音部のある学校と言うこともあり、俺はなんとなく東高を調べて見ると、広い講堂でのライブをしていたり、機材が充実しているのが分かった。
東高……アリだよな。
とはいえ、今の学力で受けるにはかなりの覚悟が必要だと言う事もあり、半ば諦め気味ではあった。そんな時にふと開いたのが桜庭楓が宣伝している動画だったのだ。
まるで有名なアーティストのミュージックビデオの様な始まり方で可愛い女子高生が三人で演奏している。曲や歌もキャッチーで耳に残るフレーズは、ギター少年を奮い立たせた。
「君も一緒に青春をするのだよ!」
そう言って締めくくられた30秒にも満たない動画は、俺の胸に深く刻み込まれていくのが分かった。夢中になって彼女の事を調べてみると、テレグラムというSNSで人気の桜庭楓は東高の高校一年生だと言うのが分かる。
つまりは同じ時期に彼女と高校生活を送れるチャンスがある。今の時代にそんな憧れの有名人と話せるきっかけなんてまず無いだろう。
こうして俺は、人生最大の努力を勉強とギターに費やし、この学校に通う事となった……。
思い出に浸りながらも、俺は練習を見にいく事となった。神崎との関係が保留になった今はこれと言った理由は無くなったのだが、風間の一言に便乗する事にした。
「んあ? 藤原くんは今日も来たのかい?」
「ゆっきーに無理矢理連れてこられたんです」
「や、やっぱりオスが見てるとき、気合いが入るじゃないですか!!」
「まぁ、雪がそう言うのなら構わないのだよ」
バンドのメンバーだから話すのかも知れないが、楓さんの反応はまるで神崎とのやりとりを知っているかの様に感じる。だが、ウォーミングアップをしている楓さんに俺を気にしている様子はない。
期待していなかったかと言われると嘘になるが、やはり彼女が俺に気があると言うのは、神崎が俺を試すために言った事なのだろう。
「おっ? 雪は言った通りに藤原を連れて来たみたいだな!」
そう言って現れたのは玲さんだ。だが、言った通りというのが気になる。風間は俺を連れてくる様に玲さんに言われていたのか? だとしたら拓也を誘わなかった事とも辻褄が合う。
「玲さん、それはどういう意味なんですか?」
「なぁに、うちが連れて来るように言っていたんだ。藤原を【インサイトシグナル】のマネージャーに誘うためにな!」
「俺をマネージャーに?」
はっきり言って意味が分からなかった。確かにバンドは解散しているのだが、それとこれとは話が違う。そもそもバンドのマネージャーって何をさせるつもりなんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます