第4話 会うorアウェイ

 モヤモヤとした中、放課後を迎える。普段で有れば俺たちもバンドの練習があるのだが、解散した今となっては練習をしに行くだけと言う事になる。


 軽音部は基本的に、機材を置いている準備室の隣にある第二音楽室で練習する。バンドの練習をしたい時には音楽室や視聴覚室を予約して練習させてもらう形だ。


「おはようございます!」


 挨拶をすると、桐島兄弟が見えた。彼らは空いていた先輩に声をかけバンドを組んでいないメンバーでしている課題曲を練習するつもりなのだろう。


「亮太も練習か?」

「いや、今日はあっちの見学予定なんだよ」

「拓也は来ないのか?」

「アイツは今日からバイトを探す予定らしい」

「なるほどな」


 見学予定とは言ったものの、神崎と連絡は取れていない。メッセージも一応送っては見たのだが既読もついてはいなかった。


「おっ、藤原か?」

れいさん、おはようございます」

「今日から見に来るんだろ? 響と一緒じゃないのか?」

「それが、連絡がついてなくて」


 スネアを抱えたショートヘアのボーイッシュなお姉さん。彼女は、【インサイトシグナル】のドラムで事実上のリーダーでもある若宮玲わかみやれいだ。口調は荒いものの面倒見が良く、イケメンと美女のハイブリッドの様な見た目をしている。


「うちが連絡してみてやろうか?」

「いえ、来てないって事は無いと思うので」

「そうか。ならちょっとコレを運ぶのを手伝ってくれ」


 練習で視聴覚室を使う時は、バスとタム以外は準備室から運ばなくてはならない。一人で運ぶ時は大体三往復くらいしなければならず、空いている部員が手伝う事になっている。


「手伝ってもらって悪いな!」

「いえ、運ぶのは大変ですからね」

「うちはさっさとコイツを組み立てるから、藤原はそのあたりで適当に待っていてくれ」

「組み立ても手伝いますよ?」

「そうか、そう言えば欽也のを手伝い慣れているか」

「桐島兄弟を名前で呼ぶのは玲さんくらいですよ?」

「うちはドラムで銀二の方とはあんまり接点ないからな。大して顔も似てないし双子のイメージはねぇんだよ」


 確かにいつも一緒にいるが、パート練習の時は片方だけになる。そこでしか会っていなければ兄弟の認識も薄れていると言う訳なのか。


 すると風間がギターを背負い走って来るのが見える。


「れれれ、玲さん! たたた、助けて下さーい!」


 そう言って風間は玲さんに向かってダイブする。だが玲さんはまだ振り向いておらず立ちあがろうとしたタイミングでタックルを食らう。すると、彼女は体勢を崩し俺の方へと飛ばされてしまった。


「いててて……」

「おい、雪。いきなりダイブするのはライブだけにしろ!」

「す、すみません!」


 すると玲さんは下敷きになっている俺に気づく。


「すまん藤原、怪我はしていないか?」

「……はい。玲さんの女の子を感じます」


 彼女は俺に被さる様に乗っかっており、腕には胸が太腿には玲さんの股間がピッタリとフィットしておりすごくいい匂いがしていた。


「ばかやろう、早く離れろ!」

「離れられるのは玲さんの方ですっ!」


 慌てて離れると、彼女は少し照れた様子で風間を見る。すると冷静に怪我やギターを確認してから口を開いた。


「雪、一体何があったんだ?」

「か、神崎さんに追いかけられてて」

「いつも言っているだろ? うちは何で追いかけられたかを聞いてんだ?」

「ひ、昼休みに、藤原さん達とご、ご飯を食べた話をしていて……」

「ほう。今の所で話を切るなら響が勝手に嫉妬して追いかけて来たって事になるわな? それで、続きは?」


 玲さんの詰め方怖え……。


「ふ、藤原さんがど、童貞だって話をして……」

「ちょ、ゆっきー何はなしてんの!?」

「それで?」

「ま、毎日聞いたらし、シた日がわかるねって言いました」

「おい、やっぱりテメェが悪いんじゃねぇか!!」

「ひぃぃ!!」


 玲さんは軽く風間の額を小突くと、落ち着いた口調で囁く。


「あのなぁ、響は響でナイーブな時期なんだ。そうおちょくってやるな。藤原も、変な情報をコイツに与えるんじゃねぇよ」

「は、はい!」


 いや、言ったのは拓也なんだけどね!

 だが落ち着いた口調と、圧倒的なオーラに当てられた俺は言い訳をする気にすらなれなかった。


「ほら、ちゃんと言ってやったから響も入ってこいよ?」


 そう言うと、ドアの影から気まずそうな神崎が顔をだした。


「すみません」

「まぁ、響は悪くねぇよ。ただ、次は先に相談しろ、無闇に追いかけて怪我でもしたら大変だろ?」

「……はい」


 見た目だけじゃ無く、中身もイケメンだ。だが、それが余計にさっき感じた玲さんの女の子らしさのギャップが刺さる。


 もしかして神崎から連絡が無かったのは、風間が変な事を言ったせいだったりするのだろうか? 彼女はまだどちらかを気にしているのか、俺とは目を合わせようとはしなかった。


「おっはよー諸君!」

「このタイミングで楓は最悪だな……」

「あれ? みんなお葬式みたいに暗いのだけどどうしたんだい?」


 そう言って現れたのは、このバンドの絶対的中心人物で俺の憧れでもある桜庭楓さくらばかえでだ。もちろん何度も見た事はあるのだが、彼女が来る事で一気に空気が変わった。


「まぁ、色々あってな。解決済みだから楓は早く準備しろ」

「なかなか玲ちゃんはつれないのだよ……」


 ふわふわしたロングの髪を靡かせアンプに向かう。シルエットやスタイルのいいメンバーに紛れてもやはり頭一つ抜けている。これでもかと言わんばかりに付いているピアスも絶妙なギャップを生み出していた。


「そう言えば今日はお客さんがいるのだね?」

「あ、藤原です。お邪魔してます」

「ふふん。もちろん知っているのだよ」


 明らかに異次元の存在の彼女だが、神崎が言っていた事が本当なのだとしたら俺の事が好きって事になるんだよな? 全くそんなふうには感じないし、何ならみんなに平等に愛を振り撒いている様にすら感じる。


 改めて好きだとは思うのだが、どちらかと言うとテレビの中の有名人が好きと言うのと同じ様な感覚なのだと思う。だが、セッティングが終わり振り向いた彼女と目が合うと、彼女は何もいわずにウインクをする。その瞬間俺は射抜かれてしまったのを感じた。

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