第3話 好きと興味の境界線

 際どい内容はあったものの風間とのやりとりは楽しく、俺は勢いで性癖と音楽やアニメについて語ってしまう。拓也ともやりとりしていた事もあり、途中からどっちと話しているかわからなくなるほどだった。


 やりとりをしてみて分かったのだが、風間の中身はオタクで変態だ。つまりは気が合うと言うか、相性の良さでいうなら桐島兄弟をあっさり抜いて拓也と同じくらい……いや、ギターの事も話せる事を考えるとそれ以上かもしれない。


 たった数時間で、俺たちはネタを交えた下ネタまで言い合える様になっていた。今までなぜ、こんな逸材が同じ部活に居る事に気づかなかったのか。


『そろそろ夜も遅いし風呂に入って寝るわ!』

『それでは風間もお夜に備えて風呂でエクスカリバーを磨いておきますね』

『いやいや、風間にエクスカリバーは無いだろ!』

『いえいえ、エクスカリバーが凄いのは鞘の方なのです』

『でも剣は無いよな?』

『最高の剣をおまちしてますね?』

『流石に自信ないなぁ……』


 そこまで送ると、いきなり風間はパーカー姿の写真を送ってきた。


『覚醒しましたか?』

『ちょっと……』

『次は響ちゃんの凄いのをゲットしておきますね!』

『そうだな!(絵文字)』


 そうは言ったものの、鼓動が止まらなかった。まるで10年来の友達の様に話していたものの、相手は風間雪。本当にそうなのかと疑ってしまうほどに現実味が無かった。


 風呂から上がると、神崎からのメッセージが届いていた。


『ごめんね、何で送ろうか考えてたらこんな時間になっちゃった……』

『気軽に送ってくれていいのに! 風間は結構すぐに送ってきていたぞ?』

『そうなんだ……出来るだけ気軽に送るようにするね』


 神崎のやつ、もしかしてあの見た目で結構考え込むタイプなのか? 


 部活での印象は、思っている事をハッキリ言うしテンションも高い。歌声以外のイメージは見た目通りだった。結局、そんなメールが長くは続くはずも無くその日はそのまま眠る事となった。


 神崎は本当に俺で良かったのだろうか?



♦︎



「確かに俺は紹介しろって言ったけどさ?」

「俺もこうなるとは思って無かったんだよ……」

「神崎の事は秘密で、何でこっちはOKなんだよ?」

「か、風間は、と、友達なのです!」


 次の日の昼休み、何故か風間が乱入して来る事になった。


「風間はさ、こんな見た目だけど結構お前とも気が合うとおもうんだよ」

「こんな見た目って本来いい時には使わねぇだろ」

「だ、ダメでしょうか?」

「いやいやいや、大歓迎だよ! 特に可愛い女の子は!」


 メッセージでは確かにやり取りして盛り上がったものの、いざ本人が目の前にいると美少女すぎて怯む。だがこうやって彼女は本来の性格が隠れていったのだろうと思う。


「き、木本さんはモテそうですよね?」

「そう?」

「風間は俺に喧嘩を売ってるのか?」

「い、いえいえ。それで、き、木本さんは何人としたんですか?」

「したって……俺の想像している意味と合っているのか?」

「間違ってはないとおもうぞ?」

「え、えっと、営まれましたか?」

「待ってくれ、高校生の美少女が初対面でする話じゃねぇぞ」

「そのうち慣れてくるぜ?」

「は、はぐらかしても無駄ですぞ?」

「何で爺やなんだよ。……付き合った事はあるけど、そういうのはまだだよ……」


 キラキラと興味津々に見つめる風間。流石の拓也も勢いに押されてしまっている。


「な、なるほど。し、素人童貞でしたか」

「玄人もねーよ! それを言ったら亮太だってそうだろ?」

「ふ、藤原さんはまぁ……」

「まぁってなんだよ?」

「確かに近いうちに神崎とあるかも知れないしな」

「も、妄想では3回くらいはもいでますよ?」

「妄想で何したんだよっ!」


 いきなり入って来たのには驚いたが、案の定拓也とも一瞬で仲良くなった。


「というか風間ってそんなキャラだったんだな!」

「俺も昨日結構驚いたんだよ」

「ど、どんなイメージだったんですか?」

「うーん、清楚で上品なお菓子とかが好きとか? まぁ、ギターばかりしていそうな感じはしたけどな?」

「ぎ、ギターは合ってますね。あ、あとは下ネタとアニメとスナック菓子でできてますよ?」

「ある意味大変そうだな……」


 すると風間は思い出したかの様に手を叩く。


「そ、そうです。か、風間を名前で呼んでください!」

「えっ、雪って事? 神崎も名前で呼んだ事ないし、ちょっと恥ずかしいな」

「なら【ゆっきー】でいいんじゃねぇか?」

「おお、そ、それはアリですね」

「何でファイテングポーズ?」

「モ、モハメドアリですっ!」

「引き出しの幅よ!」


 談笑の中、昼休みも終わりがけに入ると風間は自分のクラスに帰るとの事だ。だが俺は重大な事を忘れていた。いや、正確に言うのなら忘れていた訳ではなく、カモフラージュにもなるし特に問題があるとは思っていなかったのだ。


「風間、教室にそろそろもどるよ?」


 しかし、風間を呼びに来た神崎の顔が明らかに怒っているのが分かった。


「神崎もまた放課後な?」

「そうだね……」


 俺のフォローも虚しく、彼女の表情は変わらないまま二人で戻っていく。もちろん状況を理解している拓也にも伝わっていた。


「神崎怒っているみたいだけど大丈夫か?」

「あんまり良くは無いよな……」

「でもお前、やたらと仲良くなっているし本当は風間の方が良かったんじゃないのか?」

「それは、どうなんだろうな……」


 正直なところ俺にも良くはわからない。神崎が告白して来なければ風間とは仲良くなってはいなかっただろうし、付き合っているからあそこまで気楽に話している可能性もある。


 とはいえ俺が付き合う前に一番話していたのは神崎だ。本来ならアイツは明るく元気ないい奴なんだ。今の神崎がやな奴に見られているのだとしたらそれは俺の責任だ。


「神崎とはちゃんと話してみるよ」

「まぁ、それがいいだろうな」


 練習の時に会う約束はある。だが、放課後を迎えるまで神崎からのメッセージは来なかった。

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