第22話・決着
第三段階のレイドボスはその攻撃の苛烈さも、リーチも桁違いだった。
「冥槌! 円閃!」
これまで単発の攻撃が繰り出されていたのが、二連、三連の攻撃が主体になる。しかも、しかも常にエンチャント状態だった。
「くっ……」
エビる耐えきれずそれを、防御してなんとかしようとする。だがその瞬間に剣から無数の亡霊が湧いてエビるを攻撃したのだ。
「回復を!」
レンはそれを見てレイドボスに接近する。そうして後ろにエビるをかばい、確実な回復タイミングを作った。
「雷蛇!」
しかし、そんなことはお構いなしレイドボスはエビるに直接攻撃ができてしまう。
剣から左手を離し地面につけると、亡霊たちが蛇のように地を這い、雷を纏って進んでいく。
攻撃の多彩さが増していた。これまではただパワーだけのボスだったのにテクニカルな攻撃を繰り出すようになっていた。
「くっ……」
レンはその首をすくい上げ、地面から手を離させる。雷蛇はそれで止まるが、最初の数瞬の間に放たれた雷はエビるを追った。
「厄介ですね!」
エビるもそれでもソロレイドの踏破者。それを見て、即座に飛び退きながら回復薬を握りつぶした。
レイドボスはレンの攻撃によって直立した。そして次の瞬間……。
「冥円閃!」
そう、レイドボスはこれまでのエンチャントの誓約から開放されていたのだ。これまでのエンチャントは雷であることから大上段の一撃でエンチャントを開始しなければならなかった。それが今はエンチャントの材料は剣の中に眠っている。
「強い……」
レンはその強さに愚痴をこぼすが、決して圧倒されることはなかった。回転斬りの上をすり抜け、鎧の隙間に鎌の刃を通して着実にダメージを与えていく。
「化け物だ……」
エルザは言った。そう、レンはまるでレイドボスの攻撃をすべて読みきっているかのようにすり抜け、自分は一撃を与える。相手の弱点にずっと低空で張り付くかのように……。
「βよりだいぶ強いですねッ!」
そんな隙のない攻撃の嵐の中をエビるはすり抜け、そして一撃を稼ぐ。しかし、稼いでは離れ、稼いでは離れを繰り返すような攻撃だ。レンとはダメージ効率が全く異なっていた。
瞬間、レイドボスは構えを変えた。一瞬の隙ができるも、これを近づくプレイヤーは上位では一人。レンだけだ。
「大連撃来ますよ!」
そう、人形のレイドボスが構えを変えたら大連撃が来るのだ。一瞬のうちに数発の攻撃が飛んでくる殺しの一瞬。
「弧月! 円閃! 冥槌! 雷蛇!」
流れるような四撃。それをレンは至近距離ですべて躱した。
「うーわ、本物の化け物……」
その一撃でも躱しそこねれば死ぬというのに、それでもその攻撃の標的を全部自分に集め躱しきり。そして、その相手の攻撃の隙間に自分の鎌を通す。それはまるで、胡蝶の羽ばたきのようだった。
「攻撃を!」
しかも、それをしながら相手の隙ができる瞬間を他の二人に伝える。
エビるはそれを知っていて、すでに短剣の届くところまで来ていた。そしてエルザは、言われて即座に反応し、大剣を大上段に構えていた。
「疾ッ!」
「はぁっ!」
二人の攻撃が命中した。
次の瞬間だった。
レンは一歩離れそして、力を貯めて飛び込む。
すれ違いざまに首に鎌をかけ、そしてそのまま勢いを利用して引く。
大鎌のフィニッシュ演出が入った。
レイドボスは、そのまま首を斬られ、膝から崩れ落ちたのであった。
そう、決着だ。
強力だったレイドボスは、たった三人によって討伐を完遂されてしまった。
その瞬間、レイドボスから無数の亡霊たちが解き放たれる。今度はそれはすべて天へと登っていくのであった。
「終わりましたね……」
レンも流石に疲れて息も絶え絶えだ。
「いやぁ、きつかった……一人だったらどれだけ時間かかったか……」
エビるもこのレイドボスを一人で倒せる自身はあった。だが、レンは明らかにおかしい速度でダメージを与えていた。だから自分だったらと考えると、少し想像したくはないのであった。
「レン……あなたは本当に化け物だな……」
エルザは、本当に一撃も喰らわずにレイドボスを下してしまったレンに驚いていた。そう、討伐中レンのHPはずっと1のまま動かなかったのだ。
三人は今、レイドボスの経験値を分配され猛烈なレベルアップの渦中にいる。
「あはは……慣れですよ!」
それは慣れと言うにはあまりに強すぎた。
そしてレンは、その疲れを癒そうとパタリと地面に倒れた。そう、倒れてしまったのである……。
「いやぁ、でも討伐できてよかったですね……」
「あぁ、清々しい気持ちだ……」
二人は気づかなかった。だが……レンはそれに返事することができなかった。
「あれ? レンさん?」
最初に気づいたのはエビるだった。レンからの返事が無いのだ。
「ん?」
エルザもまさかとは思った。
「死んでる……蘇生アイテム!」
そう、パタリと倒れた衝撃で死んだのである。なにせHP1の上、防御力を限界まで犠牲にしているのだから。
「何!? あ、あぁ!」
エルザは急いで蘇生アイテムを使った。
「し、死んだああああああ!」
最大の功労者が最大のしょーもない死を経験した瞬間だった。
薄暗かったサーディル周辺のエリアに、清々しい陽光が注ぎ込む。そんな演出を台無しにする死であった。
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