第20話・レイドボス
亡霊系のモンスターがNPCをロストさせた場合、そのNPCの魂はモンスターに縛られる。血痕に触れた者にはその魂が見せる痕跡が見えるようになるのだ。
「いきましょうエルザさん、エビるさん。ディルさんが呼んでます……」
レンの瞳にはレイドボスのいる方向を指差すディルの亡霊の姿が見えていた。
「あぁ、彼の無念を晴らそう……」
エルザはそう言って立ち上がった。そしてもう一言つぶやいた。
「悪くは思っていなかったよ……」
と。
それもディルに届いているのかどうかわからなかった。
「一刻も早く討伐しないといけませんね。長く放置するとたくさんのNPCがあのレイドボスに殺される危険があります」
そう、それは偶然出会い、そして理不尽に殺してくるような相手だ。エビるの言葉は正しかった。
「正直強い相手です。エルザさん、何回か死ぬと思いますが、必ずロストはさせません」
レンは言った。
「あぁ、私とて冒険者だ。死くらい、もう経験している……」
そう、ウニーカ・レーテの冒険者はその生涯で何度も死を経験する。サーディルにいるほどの冒険者だ。死を経験していないほうがおかしかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レンは視界に映るディルの亡霊の指差す方向へと進む。そう、このサ―ディル周辺で血痕に触れることは呪いに近い。亡霊がいつまでもつきまとい、自分を殺した相手を指差し続けるのだから。
だが、レイドボスを探すのにこれほど楽になる手がかりも他になかった。
そして、とうとう見つけた。崩れた街の中に佇むレイドボスの姿を。
「初撃は僕が与え、その後の反撃でHPを調整します。二人はその後に参戦してください」
初撃を与えるまで動かないレイドボス。だから、その眼の前で、悠々と作戦会議が行える。
「わかりました。基本的にHP1で居たいんですよね?」
エビるはそれを理解するが、エルザはそうはいかない。
「それは危険だ! アレは強いぞ!」
確かにレイドボスは強かった。しかもβ版とはかなりレベルの違う強さをしていた。
普通のプレイヤーなら死亡前提、蘇生し合うのが前提。だからこそレイドを組む。だが、レンは……。
「実は前回負けたのは剣が折れたからで、レイドボスの攻撃は一度も受けていないんです」
そう、レンはレイドボスに直接殺されたわけではない。折れたレイピアが尻に刺さって死んだのだ。なんとも、締まりの無い死に方である。そんなことを自分から言う訳もない。
「そうか……一撃も喰らわずに攻略できるのか?」
それこそレンの腕の見せどころだ。
「もちろん。任せてください!」
こう胸を張って言えるのはレンくらいのものである。
「わかった任せるが、私も蘇生アイテムを持っているからな」
ウニーカ・レーテにおけるパーティーのメリットの大部分が蘇生アイテムの所持だ。基本的に他者蘇生はできるが、自己蘇生はできないのである。
「使う機会はきっと無いですよ。さ、いきましょう……」
レンは歩いて、そのままレイドボスの首の前に鎌を下ろした。
「いつでも準備はできてますよ!」
とエビるが言うからレンはそのまま始めた。
「行きます!」
レンはレイドボスを蹴飛ばし、そのまま大鎌を引く。首を一撃で狩るような強烈な一撃だ。
だが、レイドボスは首を引っ掛けられ体勢を崩すがすぐに立ち直り、反転する。
「円閃!」
レンがレイドボスから見て後ろにいたこともあり初撃は回転斬りだった。
「ぐっ!」
それをレンは大鎌の一撃死無効の効果で受け。HPは1となる。
同時にエルザとエビるが参戦する。
「後ろッ頂き!」
エビるはその高い敏捷を活かし、レイドボスの後ろに回り込むと、首元の鎧の隙間に短剣を差し込んだ。
しかし、レイドボスは膨大なHPで耐える。
「グ……円閃!」
二連続の回転斬り。それをエビるは躱した。
「うおおおお!」
続くエルザの攻撃にレイドボスは叩き潰され、一瞬は終わったのかと思わせる雰囲気が漂った。
「離れてッ! 第二形態来ます!」
しかし、レンは叫ぶ。これが今まで誰も到達したことのないこのレイドボスの真の力。レイドボスの足元から亡霊が溢れ出し、幾千という大群を成した。
そう、そのレイドボスは人形などではなかったのだ。鎧の内に閉じ込めた亡霊の大群こそその真の姿だったのである。
「早いですね、第三形態も見据えたほうが……」
エビるが言った瞬間だった。その瞬間、エルザに向けて放たれた亡霊の一体にディルがいた。
「すまない……」
そう言いながらも、ディルの長槍はエルザを突き刺してしまう。
「蘇生します!」
しかし次の瞬間、レンは蘇生アイテムを握りつぶし、蘇生効果をばらまく。
「ぐっ……」
瞬間的に蘇生され、エルザは続く短槍の攻撃を辛くも避けた。
レンの方にも数多の亡霊が押し寄せている。その攻撃はまるで斬撃の膜のように見えるがその僅かな隙間を縫いレンは縦横無尽に駆け巡る。
「やばい! ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」
そう言いながらも、エビるはそれを避け続けていた。だが、どこに攻撃していいかわからない様子だった。
「エビるさん、防御に専念! 僕がやります!」
レンはその無数の攻撃を避けながら、本体である騎士の体へと到着する。その姿はまるで亡霊だった……。
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