第15話・人吉家
「お母さああああああああん! 仕事決まったあああああああああああ!」
レンの母、
そう、レンは母似だ。しかし母子で決定的な違いが存在する。胸部装甲だ。母楓
の胸は実際豊満であった。比べてレンは男であるから当然まな板であった。
レンの父など胸で判断するほどこの母子は顔がそっくりである。
「本当!? 廉ちゃん! 今行く……きゃああああああああ!」
加えて、ドジっ子でもあった。このとき廉が助けに行かなかったのは仕事が決まってパニックになっていたからである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局、楓が来たのはそれから三分ほどしてのことだった。
「廉ちゃん、仕事決まったってどうしたの? 今日はゲームしてただけでしょ?」
不安げにレンの後ろから話しかける楓であった。だが、レンは本当に仕事を決めていたのだ。
「それが、これを見てよ!」
レンはパソコンの画面を、楓に見せる。そこには先程届いたメールが映し出されていたのだ。
「どれどれ……ええ!? 廉ちゃんプロゲーマーになれるの!? そんなに上手だったの!?」
レンは家族にはそれを言ってはいなかった。
「実はね……僕、世界一位なんだ!」
だからここで初めて家族に打ち明けたのであった。
「そっかぁ……じゃあ就業祝にお母さん男装の服買ってあげる!」
そう、廉は母親の趣味で女装、しかもゴスロリを着させられていた。仕事を探しに行くときに辛うじて男性らしい服を着させてもらう程度だ。つまり、今も服装はゴスロリである。
「うーん……でも僕ゴスロリがいい」
しかし、廉もゴスロリに慣れすぎていてゴスロリになんの抵抗も感じていないのだ。
「そっかぁ、じゃあうんと高いブランドの買っていいよ!」
廉は学生時代も自宅ではゴスロリだったのだ。それは幼い頃からである。だから、なんの違和感もないのである。
そもそもが廉は男性であるといわねばわからない。男子の制服を着ていても女児に見えてしまうような顔つきと体つきである。しかし、性自認は男だ。
「やったぁ!」
これで喜んでしまうあたり、母親の趣味に染まっている。
「でも廉ちゃん、プロゲーマーってお家でゲームを配信してるだけでいいの? そんな簡単なの?」
母親としてはそこが心配になってくる。廉が騙されているのではないかとか、本当にそれで将来大丈夫なのだろうとか……。
「とりあえず、契約上はそれだけで年500万円もらえる契約にしてくれるってなってる。詳しいことは返事してみてだと思うけど……」
その時であった。
「ただいま―!」
廉の父の声が家中に響いたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
廉と楓は急いで玄関に向かった。するとそこには筋骨隆々の男が立っていた。
そう、廉の父は大工である。それも現場責任者などを任される大工の上役だ。
「ただいまーかぁさん! ん? 今日は胸が……」
「
そう、この母子は胸を見ないと父にすら判断がつかないのだ。そして胸を見るにはこの男、父の
「あ、何だ廉だったか……もうお前は母さんそっくりで可愛いなぁ……」
と、言うと爛れた関係になりそうだが、実際にはそうはなっていない。隆盛は廉をちゃんと我が子としてかわいがっているのだ。
「ふふっ、私達双子みたいよね! そう、隆ちゃん聞いて! 廉ちゃんがね、プロゲーマーになるの!」
楓は喜び勇んでそのことを伝えた。
「なにィ!? プロゲーマーって言うとアレだろ、野球選手のゲーム版みたいなもんだろ! お前大したもんだ! ただし、契約書は全部父ちゃんにも見せろ! お前が騙されたら父ちゃんなにするかわかんねぇからな!」
隆盛は二人を溺愛している。合法ロリ巨乳な妻と、合法ロリ男の娘な息子を。この二人を溺愛するなという方が男という生き物にとっては無理があるのだ。
「わわっ、父さん、そんな赤ちゃんみたいな……」
そして筋骨隆々。現場で鍛えた筋力は廉を軽々と持ち上げる事ができる。
「仕方ねぇだろ、お前が可愛いんだから!」
二人はいたって健全な親子関係である。溺愛傾向ではあるが、親子のそれを逸脱していない。
「……とりあえずわかったよ。契約書は全部父さんに見せるよ。早速後でスカウトのメール見てくれる?」
これに応じぬ隆盛ではない。
「応! 父ちゃんに任せろ!」
と、隆盛は腕まくりをした。
そして、廉を下ろすと言った。
「かぁさん! 今日は宴会だ! いいか!?」
「そのつもりよ!」
と、阿吽の呼吸の夫婦なのである。
「わーい!」
廉は、酒が一滴も飲めないのだ。酒のアルコール分がどうにもだめで喉がふわふわしてむせてしまうのである。
父隆盛は酒豪、そして母楓は廉と同じく一滴も飲めない。母子で理由も全く同じ。
この日の夕食は楓の作ったピザパーティーであったが誰も酒を飲まなかったのである。隆盛が飲まなかったのは廉のスカウトメールをしっかり読み、騙されないようにである。
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