第13話・遭遇
レイドボス討伐の第一人者になることがレンは多かった。だからこそ、レンはレイドボスの索敵方法を熟知している。
そのボスごとに残す痕跡が違うことも熟知している。そのはずだった……。
それは突然現れた……。
亡霊騎士によく似た立ち姿だった。だから誰もそれがそうだとは気づかなかったのだ。製品版で追加されたレアエネミー程度の認識だった。
「リープ……」
レンはそれに気づかずに一気に距離を詰めてしまった。
「グ……」
異変に気づく前段階は声だった。亡霊騎士は声など上げない。だが、それは、レンのバックスタブを受けて声を上げたのである。
「な、声……」
レンが驚いている瞬間だった。
「一閃!」
それは振り向きざまに、まるで音を置き去りにするかのような鋭い攻撃を放ってきた。
「ぐっ……」
なんとか防御するもレンは吹き飛ばされ。地面に数回叩きつけられながら体勢を立て直す。
「レンさん!?」
それに反応し、そのレイドボスの前に立ったのはエビるだった。
しかし、レンはまだレイドボスに挑む準備が整っていない。今日は痕跡の探索で終わろうと思っていたのだ。
「ふたりとも逃げてください! それは……レイドボスです!」
故に撤退が正しい判断だった。その細剣ではレイドボスのHPを削り切るには足りない。それ以上に、あの鍛冶屋の中ではなまくらの武器を買っていたのだ。それでは折れてしまう。
「弧月!」
レイドボスは、そのまま目の前に来たエビるに袈裟斬りを放った。
エビるはそれになんとか反応し、短剣でそれを防ぐ。だが、短剣は粉々に砕け散りエビるもレンよろしく吹き飛ばされる。
エルザの大剣ならそれを受けきれるであろう一撃だが、エルザではすべてを守りきることはできない。それどころか死亡、ロストしてしまうだろう。
ウニーカ・レーテにおけるNPCは死亡後10分間の蘇生受付時間に入る。だが、それを超えるとNPCは完全な死亡状態に陥り、蘇生不可能になる。それをロストという。だからしんがりはレンしかありえない。
レンは止めようとするエルザを無視し、スキルを起動させる。
「リープ!」
瞬間、レイドボスとの間にあった隔たりは解消される。
「円……」
レイドボスが次の一撃を放とうとするまさにその瞬間。レンはその手を掴み攻撃の勢いを殺そうとする。
「負けるわけには!」
しかし、腐ってもレイドボス。そう簡単に素手でのパリィなど決められるわけもない。
「閃!」
レイドボスはその一撃を振り抜く。
レンは仕方なく、それを飛び越えるように身を翻して躱した。
「エルザさん、行きますよ! このままじゃ足手まといです!」
「しかし、レンが……」
エルザはレンを気にした。
レンの心臓は高鳴っていた。生死の境界線上でダンスを踊るようなその状況に一種の高揚感を覚えていた。
「足手まといになるんですよ!」
そう、準備のできていないレンにとってエルザの存在は特大の足手まといだった。せめて彼女だけでも逃げてくれれば良い。そんな思いだった。だが、エビるももはや戦えない。ならばいっそ一人で戦いたかった。
なにせ、死んでもいいのだから……。
「くっ……そうか……」
エルザとエビるはその場を逃げ出してくれた。
「さて……今の僕でどこまでできるかな……」
レンはその高揚を笑みとして表現した。
「雷槌!」
レイドボスはまるで学習するかのように両腕から剣に至るまでを雷で覆った大上段の一撃を放つ。
「ふっ……」
息を吐くとレンはまるでそこに攻撃が来るのをわかっていたかのように躱す。
だが、半身の状態にレイドボスさらなる攻撃を繰り出した。
「雷円閃!」
触ってしまえばレンは致命傷だ。だからレンはそれをなんとか逃げるように躱さなくてはいけない。
「リープ!」
目線で対象位置を定めて瞬間移動するスキル。それは本来攻撃用として取得したものだ。それを防御用に使わされるとあとから辛くなるのは当然だ。
「弧月!」
雷の効果は途切れたが無理な体勢のままリープを使用しその先についてくるような攻撃。それは、どうしても受けるしかなかったのである。
「ぐ……う……」
パキン、と音がしてレイピアが折れた。その片割れは、しなった勢いを糧に空の遥か彼方に飛び去った。
「はぁ……はぁ……楽しいや! もっと、もっと! お前とやりたいよ……」
しかし、レンはそんな窮地を楽しんでいた。レンは重度のバトルジャンキーだ。だからこそウニーカ・レーテが上手いのだ。
「円閃!」
しかし、レイドボスはレンのそんな思いにこたえない。
「リープ!」
もはや武器も失い。避けるしか道はなくなったレン。
本当は折れない武器で戦いたい。運営が用意してくれた今の自分と同格のレイドボスだ。β版のサーディルのレイドボスよりはるかに強い。そんな相手にレンは舌なめずりをしていた。
しかしである、その決着はあまりに意外な方法でついてしまう。
レンがリープした先。もはや体勢は崩れ、まともに立ってすらいられなかったレンが転んだ所だ。その尻に向かって先ほど折れたレイピアの先端が突き刺さったのである。
「ふぎゃあああああああああああああああ!」
やはり笑いの神はレンを心の底から愛していたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます