第12話・NVE

 そんな視聴者とのふれあいの時間はあっという間に過ぎて、エビるとエルザが冒険の支度を整えて帰ってきた。

 そして、そのまま冒険へと出かけたのだった。


「今レベルっていくつですか?」


 エビるが道中に質問を投げる。


「僕は32ですよ。そろそろレベルも上がりづらくなってきたのでレイドボス捜索を始めようかなって……」


 ウニーカ・レーテのレイドボスの出現ポイントはランダムだ。ただし常に配置されている。その痕跡がエリアに散らばっていてその痕跡から場所を特定する仕様になっている。


「私は58だ……32で上がりにくいとは……」


 そう、サーディル周辺エリアの適正レベルは50~60になっている。レンは適正レベルに全然届いていないのである。


「僕、48ですね……レベル上げで到達が遅れた感じですね……」


 そうエビるも適正レベルを多少無視するプレイヤーだ。基本的にランカーは適正レベル無視する。

 なお、ディルも適正レベル帯であり、レンはかなりレベル的に格上の相手を下したことになる。


「僕が一番レベル低いんですね……。そろそろ、ソロレイド周回しようとしてたのに……」


 これがレンのおかしいところだ。レイドボスですらソロで最高効率で狩り続けるから、レイドボスですら経験値と化すのである。

 それにレイドボスは大人数で分割される前提の経験値を持っている。それがレンの場合ソロで討伐すると一人に入ってくるのだ。とてつもない経験値効率になるのである。そんなことをできるのはレンくらいであるが……。


「恐ろしいですねぇ……そのレベルでレイドボス周回とは……」


 そんな話をしていると、そのうち敵が出てくるエリアに入ってきた。


「そのレベルでどうやってこの近辺の敵を倒しているんだ?」


 レンは前方に亡霊騎士を見つけていた。


「普通に……」


 同時に、リープを起動して亡霊騎士に近づき。後ろから鎧の隙間を縫って致命部位にバックスタブを決めた。


「こうやって……」


 バックスタブよりパリィスタブのほうが火力は出る。だが、レベルが上ってきたことによってバックスタブでも倒し切れるのである。


「鮮やかだな……」


 エルザはつぶやいた。その動きには一切の淀みがなく。まるでさっきまでの雑談の延長のような流れだったのだ。


「いやぁほんと。ちなみに僕は……」


 エビるも亡霊騎士を見つけ、同じように背後から近づいた。エビるの場合高レベルによる高い敏捷値で近接しているようだ。

 ランキングに乗るようなプレイヤーの場合、使いこなせるキャラクターの敏捷値の限界が高い。そう、ウニーカ・レーテの敏捷値はプレイヤーの反射神経によって限界があるのだ。敏捷値を上げすぎると、キャラクターが早すぎてプレイヤーがついてこれないのだ。


「こんな感じです」


 ふたりともバックスタブだった。

 スタブの火力的には、短刀が一番出る。レイピアが優れているのはそのスタブに更にカウンター属性が乗ったときだけである。


「ふ、ふたりとも強いのだな……」


 それは、比べる相手が悪かった。


「だって、僕最強ですし」

「レンさん以外には負けませんよ」


 そう、二人はランキング一位と二位だったのだ。


「あれ? エビるさんって、ランク二位だった人ですか?」


 それをレンは知らなくて少しびっくりしたのであった。


「そうですそうです。まぁ、レンさんにはまだまだ及びませんけどね」


 レンとエビるの間には隔絶した差が存在する。それはソロレイドの討伐時間からも明らかであった。

 ソロレイド討伐時間第二位。エビる。その討伐時間はレンの二倍程度が最低なのである。

 そして、それでもレンに比類しようとする向上心もあった。


「うわぁ、あえて光栄です」


 それを一位が言うのだ。


「いやいや、こちらこそ光栄ですよ世界一位さん!」


 ウニーカ・レーテ世界一位それがレンである。

 ポンコツさえなければただただ上手い。それだけでコンテンツになるような人物である。それに天は二物を与えた。


「じゃあ、流れ的に……あ、いますよ」


 サーディルにいるNPCはウニーカ・レーテ上では強いと言えない。当然エルザもだ。


「私か……」


 エルザは駆け出し、そしてまずは大剣での一撃を入れた。しかし、その一撃では倒しきれず、正面向かい合っての戦いになった。

 ウニーカ・レーテのNPCは周囲のエリアの難しさに応じて生成される。つまり、ウニーカ・レーテというゲームの難易度に上限がないようにNPCの強さにも上限がないのである。

 エルザは、そのまま流れるように横薙ぎの一閃を繰り出して、二撃で亡霊騎士を沈めた。


「とまぁこんな感じだ……。私だと二人ほど美しく討伐はできないな……」


 それでもエルザは一般的なサーディル周辺のレイドボス討伐レベルに達した強さは持っている。もちろんレイドを組んで挑む前提だ。


「いや、でも十分。この三人ならレイドいけますよ!」


 否、レンだけですでにレイドボス討伐が可能なのだ。レベル30台でサーディル周辺のレイドボスが討伐可能なのはレンくらいである。


「そうか、ならば挑んでみるか……」


 もちろん蘇生アイテム所持前提でエルザが生き残れるかどうかであるが……。

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