第11話・秘伝のタレ

 レンがインベントリから取り出したのは亡霊騎士のレアエネミーが持つ剣だった。


「呪怨の鉄剣か……坊主、よほど血に飢えた武器を作りたいのか?」


 呪怨の鉄剣、それはプレイヤーがそのまま武器として使うこともできるものだ。だがそれには防御力低下のバットステータスが付与されている。同時に高い攻撃力を持つというステータスも付与されている。故別名諸刃……。


「はい、これを素材にしたら作れるんじゃないですか? すごく攻撃的な武器が……」


 そう、レンはそもそも一撃も攻撃を喰らわない前提だ。だから防御力低下は問題にならない。そもそも一撃喰らえば死ぬのである。


「で? どんな武器にこいつを仕立てればいい? 出してくるってことはこの方向性でいいんだよな?」


 ウニーカ・レーテでは武器をリメイクする武器づくりができる。その際、元の武器の特性が継承される。この場合、その諸刃の部分が継承される。それに加えて何かしらの効果が出る可能性もあり、それは使った素材に依存する。


「大鎌にしてほしんですけど、これも使ってほしいんですよね……」


 レンが追加で取り出したのは、群狼から取り出された魔石だった。ネームドモンスターは決して一撃死しないように設定されている。群狼はネームドモンスターだ。その魔石から得られる効果はプレイヤーを一撃死から守る効果である。


 レンは考えていた。ダメージを追わない前提ならHPが1あればいいと。それ以上あっても無駄であると。そう、神域のプレイヤースキルにのみ許されたプレイをしようとしている。


「保険か?」


 と鍛冶屋の店主は勘違いするも、そもそも初手HPをかなぐり捨てて戦うつもりでいる。

 ウニーカ・レーテでは戦っているときの状態に合わせてスキルが提案されていく。HP1で戦っていたら必ずそれに適したスキルが手に入るのだ。


「いえ、これで一発耐えてから戦おうかと」


 レンはそのスキルが目的だ。要は火事場の馬鹿力のようなスキルである。


「よっぽど腕に覚えがあるんだな? まぁ、このレイピアを見ればわかる。じゃあ諸刃は強化方向にできるんならしたほうがいいか?」

「はい、お願いします」


 レンとしては防御系の性能は死に性能なのである。


「明日までに仕上げてやる」


 基本的に武器を一日で仕上げてくれる鍛冶屋NPCは好感度が非常に高い。レンは鍛冶屋のドワーフ店主からの高い高感度を獲得していたのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 所変わって冒険者ギルド。レンは待ち合わせがてら視聴者とのふれあいの時間を取っていた。というのもエビるもサーディルに到着したばかりで冒険の準備ができていなかったのだ。


スノウ:よくそんな構成作ろうと思うよなぁ……

朝神:ほんと、普通なら怖くて作れない……


 上級プレイヤーの構成は基本的にHPが完全な状態なら一撃を耐えられる構成だ。一撃を耐え、回復してまた一撃を食らうまでに火力を叩き込む。それが常識である。

 ところがレンはその一撃すらHP調整のためにしか食らう気はない。


ニューラゲーム:レン様、一つお伺いしたいのですがレン様にとってプレイヤーキャラクターとは何でしょうか?


 それは、ウニーカ・レーテの運営としてぜひとも聞いておきたい質問だった。


「秘伝のタレですかねぇ……。自分の戦いにほしい要素を継ぎ足し継ぎ足しで無限に積み上げていく。まさにそんな感じだと思います」


 そう、レンにとっては普通のゲームが窮屈で仕方ない。どんなに火力に特化してもウニーカ・レーテ以外は一撃も喰らわない前提でも防御性能が上がっていってしまう。

 レンにはそれが必要ないのだ。


おるとロス:秘伝のタレわかる……

†黒酢†:最終的に自分の戦い方にベストマッチする秘伝の極上タレが出来上がる感

アルバこぁ:本当にニューラゲームさん最高やで


 そう、そんな無制限の自由度を誇るアクションRPGを作ったニューラゲームのファンは多い。

 しかも、難易度の上限も無制限に上がる。よって人間がプレイできない領域までこのゲームは難しくなるのだ。


「本当に楽しいよね! 自分の実力のギリギリまでゲームを楽しめる。もちろん武器も防具も、プレイヤースキルが許す限り無限に強化できる!」


 本当に無限なのだ。なにせニューラゲームが作ったのはゲームの続編を無限に作り続けるAIなのだから……。


ニューラゲーム:本当に楽しんでもらえてるみたいで良かったです。AIなどはどうですか?


 これが公式にマークされたプレイヤーの末路だ。徹底的にプレイ感覚をアンケートされるのである。


「AIの会話β版より自然になりましたよね。それに嬉しい不便さは出てきて頑張れば頑張るだけ気持ちいい感じです!」


 しかし、レンも嬉しかった。なにせ自分が大好きなゲームの公式が自分に話しかけてくれるのだ。


おるとロス:今後世界大会とかあるのかな?

†黒酢†:なにそれ、レンが対人やるところ見れるじゃん!

スノウ:でもレンの全力を出させられるプレイヤーいるかなぁ……


 そのくらい隔絶したプレイヤースキルだった。エビるですら基本的にボロ負けするだろうという状況だ。


ニューラゲーム:レン様には弊社開発の理不尽NPCを当ててみたいです


 こうしてレンの世界大会の場合の特別マッチが決まったのである。

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