第7話・芸人爆誕

 それからもレンはせっせと亡霊騎士を探しては致命攻撃を叩き込み順調にレベルを上げていた。


「いやぁ、レベルの上がりっも! 悪くなってきたね……」


 そう、雑談しながらである。本来集中力を必要とするはずの作業である。当然コメントはそのことに言及せざるを得ない。


エビる:おまw息するみたいにパリィ……

ニューラゲーム:決して簡単ではないんですよ! 本当ですよ……。

スノウ:運営さん、それ知ってる……


 そう、パリィは難しい技術なのだ。タイミングはシビアでその代わり、それを決めた時に相手の態勢が崩れることによってたたき込める致命の一撃の威力補正は極めて高い。

 そんなことを続けて、レンもレベルがサーディルに追いついてきていた。


――――――――――――

Lv32

生命力1 HP30/30

集中力10 MP300/300

体力10 スタミナ300/300

筋力16

技量40

敏捷38

知力16

耐久1

リープⅡ(ユニーク)【消費MP3】

カウンタースタブ(ユニーク・パッシブ):カウンタースタブ時攻撃力×150%

――――――――――――――


 それが現在のレンのステータスであった。


「だって、予備動作もちゃんとあるし見てればできるよ!」


 それができるのは、このゲームを極めたもののみであった。

 が、しかし……。今は二体の某励起子が同時にレン補足している状況。そして崖際だった。


朝神:前!


「まえぇ?」


 そう言いながらもまるで手癖のようにパリィからのスタブを決めるレン。スタブを決められ、後ろによろけた亡霊騎士は、そのまま崖から落ちたのである。

 もちろん、剣を刺したレンをつれて……。


「あぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 サーディルの街の中にリスポーンするレン。冷や汗をだらだらと流し、そして言った。


「デ! デスルーラだよ! レベリングを切り上げるのにちょうど良かったでしょ? そろそろメイン武器も欲しいんだよ!」


 苦し紛れであった……。


おるとロス:いや、レンきゅんは笑いの神に愛されてますなぁ……

アルバこぁ:もはやここまで来たら芸人だろwwww

ガメオベラ:ニューラゲームさーん、意図した挙動じゃないっすよねwww

ニューラゲーム:はい、全部レン様だけです。


 その頃東京某所、ニューラゲームの社内では笑いが巻き起こっていた。レンを監視する理由は、ゲームの難易度の上限拡張機能がうまくレンに追いつけるかのテストも兼ねてだ。

 そう。ウニーカ・レーテには難易度の上限が存在しない。もはやゲーム自身がゲームの続編を開発するように作られているのだ。そういったAIシミュレーション的なゲーム作りの為、冠した名はニューラゲームなのである。


 閑話休題


 レンはぶつくさと文句を言いながらも鍛冶屋に向かった。最低限大鎌系の武器を扱える筋力を手に入れたからだ。


†黒酢†:しかし、AIが耐久系ステータス推奨辞めるの初めて見た。

ニューラゲーム:調整しました!


 AIは誰に対しても、最適のステータス推奨を行う。それがウニーカ・レーテのAIの開発理念である。それをみたせないのであればウニーカ・レーテにAIなど必要ないとすら思ってるのがニューラゲームだ。


「そうだね、ベータの頃はずっと耐久系ステータスにポイント振るようにおすすめされ続けたからね……」


 ベータ段階ではそれでもまだAIの調整が甘かったのだ。決して攻撃を喰らわないのであれば耐久系ステータスは必要なかったのである。

 しかし、決して攻撃を喰らわないなんてことがあると信じていなかったのがニューラゲームだった。

 しかし、レンのプレイを見て、AIにかけていた制約を外したのである。


ニューラゲーム:調整したのはつい今しがたです


 そうたった一人のプレイヤーのためにそんなレンもベータの時は普通に攻撃を食らっていた。


「ちなみに、HP30の耐久1って値だけど。鎧も装備してないから誰の攻撃でも死ねるね。知力16はとりあえずで、自己強化系の魔法のために振っておいた感じ」


 そんな話をしていると鍛冶場にもたどり着くもので、店の奥ではドワーフの店主が退屈そうに座っていた。

 だが、レンを見るとその退屈も少しどこかに消えてなくなったようだった。


「戻るのが早ぇな坊主! んで? 俺のなまくら見せてみろ!」


 ドワーフは知りたがった。レンがどんな戦いをしたのか。それは一流の鍛冶師にとっては剣に刻まれる。


「あ、はい……」


 レンはほくそ笑んだ。最高の鍛冶師を見つけたのだと。

 ドワーフは剣を撫で、綺麗な刀身が、わずかながら命を奪った形跡を持っていることに気づいた。


「……お前さんはつよいな。まるで戦いになっとらん。一方的に命を刈り取る一撃だけを叩き込んだ。そういう摩耗の仕方だ。つばぜったことなんてこいつは一度もない……。それどころか、鎧の隙間からするりと叩き込まれたようだ……」


 ドワーフはレンの戦い方を言ってのけた。


「なぜ、あなたのような鍛冶師がサーディルに?」


 レンが最終装備を任せられるかもしれないと思わされた。


「ここで生まれた……。それだけだ……。それより、ほれ、今度は金を出せ。素材もだ。いい武器を作ってやろう!」


 しかし、ここでレンは気づく。


「あ、僕一銭も持ってなかった……」

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