第8話・騒乱
スノウ:そういえば換金とかしてなかったよね
そう、レンはまだモグリの冒険者なのである。本来であればフィーストで冒険者登録をしてチュートリアルとして体を動かすのであるが……。
ニューラゲーム:対策済みです。もちろん冒険者の両親にサーディルで育てられた子供が冒険者になることもありますから
それはベータ時代フィーストでしか受けられなかった。
そんなコメントが流れていくとは裏腹に、レンはドワーフから人差し指スタブを食らっていた。
「おい! 一銭もないってぇのは! どういうことだ!」
その一語一語、避けたら怒られそうな回避不可能のスタブが飛んでくる。
「ご、ごめんなさい!」
レンは謝ることしかできない。
「お前が! 強いの! わかったから! 取って置きを! 作ってやろうってのに! 金がねぇだ!?」
レンはそのまま人差し指スタブで店の外まで追い出された。
ドワーフとレン、身長は変わらないどころかレンの方が少し低い。だから、戦闘態勢でないと押し負けてしまうのだ。
「すぐお金作ってきますから!!」
そう言ってレンは冒険者ギルドに向かって駆け出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
冒険者ギルド、サーディルの現在はNPCのたまり場だ。だがそこに男性のひょろっとした短剣使いが一人いた。
「待ってましたよ、来るんじゃないかって!」
そう、視聴者である。
しかし、よく話がこじれるのがウニーカ・レーテだ。
「おっと待ちな、私はギルドでずっとこいつを待ってたんだ。なぁ、ボク、お姉さんとパーティー組まないか? レベルもそこの男より高いぞ!」
ウニーカ・レーテのNPCは厳密なフラグ管理はされていない。それぞれに魂とも言えるAIが搭載されて自立して動いているのだ。
赤髪の、細い体に似合わない巨大な剣を担いだグラマラスな女性だった。
「あ、剣を見せてくれた……」
そう、剣を見せてくれたNPCの一人がその女性であり、レンが剣を決めるきっかけになった人物だ。
「それじゃあどうです? 今度三人でどっか行くって!」
すると、その女性は手に持っていたタバコをふかし煙を天井に吐き出すと言った。
「いいねぇ、最近は暇してたんだ! あんたらが強いなら亡霊地帯を少しでも変えられるかもしれないね」
そう、NPCの持つAIは基本的に善良な性格をしている。ただし……。
「おいおい、そんなガキを相手にしちまうのかよ……」
そのAIは、高度に訓練されている。まるで人間のように。だからこそ、善良であっても嫉妬などをすることはある。
会話に割って入ったのは男のNPCであった。少し口調を荒くし、そして怒りの表情を顕にしていた。
「あんたは嫌なんだよ。私を女扱いしすぎる……。冒険者としての尊重をしてくれやしない……」
彼女は諦めていた。その男が自分を冒険者として尊重することを。だから深い溜息とともに男を一蹴しようとする。
ただ、短剣使いのプレイヤーはポンと手を叩いた。
「じゃあどうです? レンさん、この人と決闘をするというのは……」
「何ですか薮から棒に?」
しかし短剣使いはレンを押していく。NPCの男の方へ……。
半分は短剣使いの欲望だった。れんのPVPならぬPVNを見たいという。そしてもう半分は、レンに耳打ちした。
「無一文でしょ?」
と……。
そして、NPCの男に向き直って言った。
「どうです? 強い人になら彼女を任せても大丈夫でしょ? 雑談しながら亡霊騎士を屠るようなね……」
そう、短剣使いは視聴者なのである。レンのPVNはベータ時代負けなしと言われていた。
「ほう? それが本当なら大したもんだ、エルザを任せてもいい……」
完全に男は、エルザを自分の所有物のように語る。
それを聞いて、レンは女性NPC……エルザの方を見た。
「こうなんだ。あきれて物も言えない……」
レンもやれやれといった感じになってきた……。もうこのまま流されてPVNの一戦くらいやってしまったほうがいい気になってきた。
「ついでです。なにかかけませんか? そうだ、所持金の半分をお互いにかけるというのは?」
短剣使いはどんどん話を進めていく。レンはびっくりした顔で短剣使いを見た。
「ハッ、いいぜ。なめんなよ、これでもここらじゃ強いほうだ。レベルも60ある……」
レンから見てほぼ倍だが、ウニーカ・レーテはレベルの暴力が成立するゲームではない。ジャイアントキリングなど日常茶飯事だ。
「僕を無視して話を進めないでよ! だいたい僕は大人だ!」
なお、レンの中の人は18歳である。しかしながらレンというキャラクターは、中の人の身長から±5センチで作られている。ウニーカ・レーテが排除しきれなかったリアル要素だ。
しかしNPCの男も煽る。
「ハッ、ガキにしか見えねぇなぁ? どうした? 怖気づいたか? やらねぇで逃げるってか!?」
男は嫉妬していた。エルザに気に入られたレンという少年に。
男には焼入れがわからぬ。所詮剣を見る目もなく、腕力にものを言わせる脳筋なのだ。故、強い方であるがエルザはレンの方に目をつけた。
「今謝るなら許してあげるよ、ガキガキ言ってることを……。それともやる?」
レンは煽られて、怒髪天に達していた。
男も嫉妬していた。戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます