第5話・笑神様は微笑む
「なんだ、おめぇ武器が欲しいだけだったのか。じゃあこれを持っていけ……」
ドワーフの鍛冶師は非常にがっかりした様子でぶっきらぼうにレイピアを渡した。
「抜いてみても?」
レンの欲しているレイピアは刺突のカウンター補正と致命攻撃補正とクリティカル補正を合わせて亡霊騎士を一撃で葬れるものだ。
亡霊騎士のレベルはサーディルの冒険者と同じく50~60。レンにとってかなり格上だが、ウニーカ・レーテはそこまでレベルを重要視するゲームではない。よって武器さえふさわしければ倒せるのだ。
「構わねぇ。どうせ、火入れの加減もわかるお前だ。そいつなら満足してくれるだろうよ」
レンはそのレイピアを抜いた。
鋼の結晶が繊維のように引き伸ばされ、強靭な刃を形成している。それだけではなく、切っ先や刃は白く、硬くなっている。
「素晴らしすぎる逸品だ……」
レンはそれを見て呟いた。そう、それはレンには過ぎたるものだった。どうせ最後には使わなくなってしまう。ところがそれは、鍛冶師の傑作だったのだ。
「不満か?」
鍛冶師は訊ねた。
「はい、これほどのものを打てるのは生涯数度でしょう。僕が欲しいのは、あなたの中での粗悪品です」
そう、レンの技術であれば、そしてこの鍛冶師の作品であれば粗悪品で十分である。それを理解してこの店に来ていた。
「じゃあ、そこの籠から一本もっていけ。代金はいい。お前はこの店に戻ってくるだろうからな……」
鋭い刃を求めれば必然と火入れのうまい鍛冶師にしか頼めない。レンは確かに鎌系統に必要な筋力が育成できる頃にここに戻るつもりであった。
そんな話をしている間にもレンはその刀身を確認していた。確かに火入れは上手いがあの鍛冶師にしては失敗作だろうということがわかった。
「分かりました、では次はあなたの最高傑作を求めに来ます……」
レンは少し嬉しかった。その鍛冶師は少なくともサーディルでは最高の鍛冶師であると確信していた。だからそんな鍛冶師の粗悪品を持って、街の外に走った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
亡霊騎士、ベータテスト時代から存在する敵の種類だ。ゲーム開始時点、サーディルの周辺には亡霊地帯と呼ばれる場所が存在する。
もちろんそれもプレイヤーやNPCの活動により変化するようにゲームは設定されている。変化すると出現する敵のパターンも変わってしまう。だからレンは真っ先にサーディルを目指した部分もある。
「さて、敏捷というステータスについてだけど。これはプレイヤーが行う行動の速度を%で上昇させる。今の僕は1.15倍速ってことだね。ここはどうしても運営がどうすることもできなかった部分。敏捷が上がりすぎるとプレイヤー自身がキャラクターを操作しきれなくなる……」
そんな道中、レンは敏捷の話をしていた。
ニューラゲーム:汗顔の至りです
エビる:でも本当にリアルの運動神経がほとんど関係ないよね。反射神経すら……
ウニーカ・レーテでは反射神経は強化される。本来人間の体は、目から脳へ、脳から全身へと言う神経伝達がある。その伝達の時間がカットされている分、反射神経のゲームへの関与率が軽減されているのだ。
スノウ:リアル運動音痴に優しい運営さんしゅき♥
「正直僕も、リアルだと運動音痴だよー。ゲーム内だとできるのが気持ちいい!」
そんな話をしている時である。レンは前方に亡霊騎士を発見した。
亡霊騎士は剣と盾を装備し、鎧を纏う敵モンスターである。だからレイピアで攻撃する場合鎧の隙間を通すと倍率の高いクリティカルが発生する。
「あ、じゃあ攻略ね。こっちに気づかせます!」
レンはそう言って石を投げ当てる。すると亡霊騎士は気づき、剣を構えて突進してくる。
「間合いに入ることで攻撃モーションを発生させます!」
しかしレンは見失っていた自分の投げた石を。意識の外においてしまっていたのだ。
「モーションが発生したら、手を掴んで体を密着させつつ……いてっ!」
そう、その投げた石は。跳ね返り、レンの目に当たったのである。
「あ……あぁ……」
そんなこと起こるだろうかと言う稀有な可能性を引き当ててしまった。
結果亡霊騎士はレンのつかみを振りほどき、レンの首を両断したのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「死んだあああああああああああ!」
レンのモンスター攻撃による初死亡である。しかし、死因は実質小石。モンスターは関係ないのである。
エビる:笑いの神に愛されているんじゃ……
おるとロス:普通あるか? こんなこと
スノウ:めちゃくちゃうまいのに運が悪すぎたり詰が甘かったり……
ニューラゲーム:どんな確率ですか!? 確かに物理演算は現実準拠ですけど……
そう、レンは各所で笑いの神に愛されているとしか思えない確率を引き当て続けている。
レベル8で亡霊騎士狩りは基本的に無茶である。よって亡霊騎士の一撃で死ぬのであるが、その原因を気づいてもらうために投げた小石が担う可能性は運営すら考えていなかったのだ。
基本的には無茶であるがレンのプレイヤースキルをもってすれば本来は可能だったはず……。
「どうしてこうなるの……?」
不憫であった……。
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