第4話・パーフェクトコミニュケーション
レンはサーディルの街へたどり着いた。そこにプレイヤーは居らず、現在の最前線である。
通常、次の街までの目安は八時間。サーディルとなるとサービス開始三日目に賑わう町だ。そこにレンはサービス開始一時間でたどり着いてしまったのだ。
スノウ:たどり着いちゃったよこの人……
おるとロス:やべぇ人だ……
と言う旨のコメントは後を絶えない。
もちろんウニーカ・レーテではNPCにもレベルが設定されている。その平均は40~50がサーディルだ。つまり……。
ニューラゲーム:Lv8のプレイヤーがこの町を訪れるのは想定してないんですよね。ALLボーナス型ですし……
公式は、レンの動向を監視するつもりでいた。プレイヤースキルが高すぎてバランスブレイカーなのだ。
「でもあと一時間もすれば何人かは来ると思いますよ?」
そう、オンラインゲームには時折バランスブレイカーなプレイヤースキルを持ち合わせるプレイヤーが出ることは必定なのだ。
ニューラゲーム:あんまり運営をいじめないでくださいね……
「アハハ……そのつもりはないんですけどね」
運営はいじめられるものである。
このゲーム、ウニーカ・レーテでは現実の運動能力はほぼ関係ない。それをゲームに持ち込ませないのが開発の手腕であると、ニューラゲームは掲げている。
だからこそ、ゲーマー達に好まれるのであるが、そういうゲーマーこそやり込み気質なのである。
レンもその一人だ。やり込んでやり込んで、更にたまたま才能があり頂点に君臨したものである。
レンは町を歩く。そして、NPCに話しかけたりもした。
「急でごめん。この町にきたばかりなんだ。剣を見せて欲しい」
その相手は、NPC冒険者だった。
「ということは、鍛冶師を探してるのか? ほら、俺の剣だ」
基本的にウニーカ・レーテのNPCは親切なAIを搭載している。よって、NPCは剣を抜いて見せてくれた。
「うん、いい剣だ。この剣を売ってくれたのはどの店かな?」
ウニーカ・レーテの鍛冶師にはあたり外れが存在する。
「槌と炎だよ!」
とNPCは答えた。剣を褒められて機嫌よさげに。
「ありがとう!」
だが、レンはその店に向かおうとはしなかった。
朝神:どうして槌と炎に向かわないの?
ニューラゲーム:さすがとしか言いようがないですね……
当たり外れの他に向き不向きもあった。
「槌と炎は多分いい鍛冶屋。だけど、火入れより冒険者向けの機能を盛り込むのがうまいんだ。ほら、根元がギザギザしていただろ? あれはセレーションと言ってね、刃を手入れできない状況が続いても最低限の切れ味を保証してくれるものだよ」
レンは見ていた、その鍛冶師が何が得意なのかを。
スノウ:そんなとこまで見なきゃいけないのか
おるとロス:ゲームなのに細かいなぁ……
そして、何人かNPCに剣を見せてもらい。ようやく、レンは言った。
「目指す鍛冶場は土と鐵だ。火入れがすごい。レイピアに重要なのは火入れの技術。土と鐵は日本刀に近い火入れをしてると思う」
そう、レイピアは細い剣である都合上戦闘中にしなってしまうことがある。そんな時に壊れないためには火入れが最も重要でありレンの選択は正しいものであった。
そんな数分後、レンは鍛冶屋土と鐵を訪れた。そこにはずんぐりむっくりのドワーフの鍛冶職人がいたのである。
「坊主……か? それとも嬢ちゃん……か?」
そう、ドワーフの鍛冶職人が訊ねるように、レンのキャラクタークリエイトは超中性的である。
「坊主ですよ。外であなたの剣を見ました。あの完璧な火入れを……」
レンが言うと、ドワーフの職人はカッと目を見開きそしてレンの手を掴んだ。
「なんでぇ、槌の一回も振ったことない手だな! いいだろう! 俺が鍛えてやる!」
ここにすれ違いが生まれていることをレンはまだ知らない。そしてコメントすら見ていなかった、ドワーフの職人に認めてもらうために。
「あなたが鍛えてくれるなら百人力です! ぜひ、お願いします……」
その時のコメントがこうである。
朝神:鍛冶師として鍛えられる流れになってない?
スノウ:パーフェクトコミニケーションだけど着地点が間違ってるよ!
ニューラゲーム:あ、製品版実装ですので……
エビる:【朗報】製品版ではNPCに弟子入りできる……って違うこれを見に来たんじゃない!
そう、視聴者はレンの人力TASを見に来ているのだ。だがレンは変なルートに入ってしまっていた。
「よいっしょっと。こいつが何か知ってるか?」
ドワーフの職人が取り出したのは精錬済みの鉄であった。
「うわわ! こんな炭素の含有量! これはいい焼きが入りますね!」
そう、それも高炭素鋼の塊。鉄は炭素量が多い方が焼きを入れた時に硬くなる。同時に折れやすくなる。
「ナハハ! おめぇさん目は確かだ! どんな武器がいい? 作り方を見せてやる!」
ドワーフが聞いたのはどんな武器を作りたいかである。
「レイピアがいいです!」
どんな武器を使いたいかではない。
「そりゃ面倒だがいいだろう、しっかり見ておけ! そして、盗め! 俺の技術を!」
「へ?」
そしてようやく魔法が解けるように誤解が露見したのである。
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