第2話・まだ芸人じゃなかった頃2

 レンは走っていた。フィーストから、セカンダの町をスルーしてサーディルへと走っていた。

 しかも数十匹という狼型のモンスターを連れたまま……。


アルバこぁ:どうすんのこれ!? 狼型は敏捷高いよ! 追いつかれる!


「ちょっと多いけど、だいたいここらへんに当てたい相手がいるんだよ!」


 ウニーカ・レーテは仕様上、相打ちによって死んだモンスターはその相打ちを引き起こしたプレイヤーに経験値が入る。

 レンは一切慌てていなかった。だが緊張していた。それは、配信をしてない時ですら超絶技巧なのだ。


†黒酢†:食らってないのがやばい

スノウ:食らったら死ぬからね……

朝神:シンプルに無茶だよ!


 そう、レンは無茶を通している。


「ここも“します、させます、させません”だよ。相手が姿勢を低くする時のあしずりの音を聞いたら横に動きます。それで、攻撃モーションを解除させます。攻撃は、させません!」


 そんな離れ業をやりながらコメントを見て返事もしているのだ。対モンスターの攻略技術は半端ではない。落下死こそしたが、本来はこういったプレイヤーだ。自分だけの最強の体現者、ソロレイドボスキラー。


エビる:人間卒業してる……


 といっても過言ではない。

 そんなレンが言った。


「黙るよ! 見つけた!」


 レンは見つけたのだウニーカ・レーテの初期配置のユニークモンスター。

 ウニーカ・レーテに発生するユニークモンスターはNPCのイベントに関連して起こる。NPCが名をつけるからユニークになるのだ。

 そして、高速で攻略するプレイヤーを飽きさせないためにNPCに名付けられたユニークモンスターが最初から配置されている。その名を……。


「群狼:森の主! この世界にもいたか!」


 そこからレンは森に入り。引き連れた狼たちをかく乱する。それでいて一匹も減らさないようにうまい逃げを続けていた。

 レンは調整していたのだ群狼と相打ちできる狼の数を。群狼は名のとおり複数の狼型モンスターの集合体であり。リーダー個体がユニークだ。

 レンはその痕跡を上書きするように木に傷を付けながら走る。


 そうすること三分。群狼はレンの前方に突進の体制で現れた。ただし目測を誤っているように思えた。突進をするにはあまりに近すぎたのだ。

 レンはそれを飛び越え、ユニークであるリーダー個体の上で前転をする。

 同時に直線的になったレンの動きを捉えるべく後ろから複数の狼の飛びかかりがリーダー個体に炸裂する。


「ふぅー……成功! これがトレイン型ユニークパルクールレベリング!」


 レンは逃げる。だが群狼はレンどころではなかった。自分たちのリーダーが何発も爪を牙を受けたのだ。


おるとロス:やっぱスゲェ!

スノウ:TASさんも真っ青だよ!

エビる:なんでできるんだよ……


 そのコメントにニンマリと笑って答える。

「します、させます、させませんだよ、へぶっ!!!!!!!」

 森の中でのカメラ目線は要注意である。木々がいっぱい生えているのだから。

 ニンマリ笑顔はその瞬間に歪んで、木にぶつかったのである。


朝神:ま、まぁそういうことも……

†黒酢†:ぶつかるまではかっこよかったよ……


 まだ視聴者は気を使っていた。なぜなら、レンがその気になればPKなんてお手の物だと思っていたし実際そうである。今回のようにトレインしてのPKなんてことも簡単にできるのだ。そのくらい超絶技巧である。

 視聴者は知らないのだ。レンが大会や決闘形式でのPK以外に興味がないことを。

 大会や決闘。つまりプレイヤー技術を真正面から競い合う、PKペナルティーの無いPKである。レンにはそれ以外興味ない。


「ま、まぁここらへんで一旦止まって素材になるのを待つつもりだし……」


 レンは強がった。


アルバこぁ:なんかかわいい……

朝神:生意気可愛いショタっけが……


 レンは調子に乗りやすかった。そして、中の人も一緒に褒められているというのに気がつかなかった。


「僕、可愛いだろ? ほら、待ってる間にポーズとってあげるよ!」


 そして視聴者は徐々に気づいていく。“案外親しみやすいな”と……。


スノウ:いいよぉ! レンくんいいよぉ!

エビる:目線くださいー!

おるとロス:今度外し気味でー!


 そして、ネトゲ名物であるキャラクリスクショ大会が始まったのである。

 しかして、声も合わせて可愛いが醸し出されているのがレンだ。そう、中の人の声がちゃんとショタしているから可愛いのである。


「はいはいー順番に答えていくからね!」


 レンはうまく話題を誘導した。木にぶつかったという黒歴史からスクショ大会へと……。

 しばらくそんなスクショ大会が続くと、レンは経験値を得て群狼が死んだことを確認する。


「経験値ログ的に一体余ったか……。まぁこのレベルなら勝てるから回収に行くね」


 何体連れているのか全てを把握していた。一体余るのは計算外だったが大した計算外ではなかった。相手は満身創痍。そしてこちらはレベルをあげて、ステータスを割り振ってから戦える。これがパルクールレベリングのいいところでもあった。

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