その男の娘配信者、プロゲーマーなのに芸人と呼ばれる―世界最強プレイヤーに笑いの神は微笑む―

本埜 詩織

第1話・まだ芸人じゃなかった頃1

 フルダイブ型MMORPG、ウニーカ・レーテ。そのゲームで出会うものは全てユニークと言われている。

 武器、防具、果てはエネミーの一体に至るまで全て若干の個体差が存在する。いわば誰にでも“自分だけ”を作り上げられるゲームだ。誰もが自分だけの最強を目指すためにあるといっても過言ではない。

 そのベータテストのトッププレイヤー、自分だけの最強の体現者が実況をすると掲示板に情報を流したのだから、その待機者は凄まじいことになっていた。


「やぁみんな、今日からこのゲームを初心者向けに攻略していくレンだ。さて、じゃあ早速。ゲームの勝利はいかに自分のやりたいことをやり、相手にさせたいことをさせ、されたくないことをさせないことが重要だ。します、させます、させませんがキーワードだよ」


 放送の待機画面は真っ暗だった。それで、それが晴れるとレン……。すなわちベータテストのトッププレイヤーが画面に映った。

 彼の何がトップかというと、彼はサーバー内最大のDPSを叩き出したのだ。それは、レイドボスのソロ討伐と言う記録にその名を刻んだことでゲーム内の全てのプレイヤーに共有された。


ガメオベラ:何かTASさんみたいなこと言ってる……

スノウ:それが一般プレイヤーに出来ると思っているのか……

おるとロス:人力TASみたいな配信になるのか……


「さて、ここにいちゃ話にならないからとりあえずサーディルまで行こっか!」

 そう言うとレンは走り出した。


アルバこぁ:ステ振りは?


 ゲーム開始時にもらえるステータスポイント。全ステータス最低を1として、いくつか割り振ることができる。


「もちろんALLボーナスだよ」


 このウニーカ・レーテではその最初のポイントを成長時のボーナスとして割り振ることができる。ふつうオールボーナスのキャラクター育成は第二キャラクター以降で行う。


朝神:シンプルに無茶だよ!

エビる:ALLボーナスで初手サーディルは死ぬまず死ぬ。


「大丈夫、このゲームのフィールドモンスターには相打ちがあるからね! それを使えば……」


 ちょうどその時だった。前方に狼型の魔物がいたのである。それも二体以上だ。


「いたいた! 道中経験値!」


†黒酢†:フツーに死ねるから! オールボーナスだと死ねるから。


「大丈夫! ハイ、一体を飛び箱にして二体目に蹴り入れる。そしたら、そのまま前転して逃げる! こっちは攻撃します、相手同士で同士打ちさせます、こっちには攻撃させません!」


 その二頭が自分と一直線になるように少し回り込んで、宣言通りの行動をした。すると、一頭目がレンの着地を狙った攻撃が二頭目に当たったのである。


エビる:スゲェ!

おるとロス:TASさんだ!

スノウ:一発で決めた!


 しかしである。その後、レンはコメントを見ながらまっすぐ走ってしまった。


「ね! ゲームの基本は“します、させます、させません”」

 

 と言いながら走るのだが。


ガメオベラ:前!


「まえ?」


 次の瞬間、レンは奈落に真っ逆さまだった。

 そう、コメントを見ていて景色を見ていなかったのである。ながら走りをしてしまっていたのである。しかも、自分が方向転換をしたのを忘れて。


「うわあああああああああああああああああ!?」


 レンはそのまま落下ダメージで死亡した。

 序盤の敵は攻撃力が低く耐久値はそれにしては少し高めに設定されている。これは初心者プレイヤーを楽しませるためであるが、レンには災いした。

 ウニーカ・レーテの仕様上、死亡中は経験値が入らないのである。

 つまり、同士打ちで両方が死ぬころにはレンはちょうど死亡していたのである。

 そして、その五秒後にリスポーン。

 そして……。


「うわああああ、しくじったァ! うまくやってたのに! パルクールレベリングをみんなの前で決めるはずだったのにいいいい!」


 パルクール。障害物を乗り越えるスポーツである。モンスターを障害物として、うまく同士打ちをさせながら走ることでレベリングするレンの高等テクニックこそパルクールレベリングだ。

 それをしようとしたのだが、落下したため経験値が入らなかったのである。


朝神:そういうこともあるよ

エビる:人間アピになっていい感じだって!

†黒酢†:大丈夫大丈夫! かっこよかったよ!


「本当に!?」


 レンの性格はちょっと男らしくないところがある。むしろ少女のそれのような、可愛らしいところがあるのである。


おるとロス:うん!

スノウ:そうそう、誰だってミスするって!


 と励まされ。レンはゆっくりと街の外に移動するのであった。


「じゃあ、次こそ頑張るよ。いざサーディル!」


 ウニーカ・レーテでは町の名前を聞くとそれがどこの町か分かるようになっている。開発者がユーザビリティを考えた結果だ。

 第一の街フィースト。そこが現在地であり、サーディルは三つ目の街になる。レンは今日のためにフィーストからサーディルへの道を丸暗記してきていたのである。

 準備周到で、本来ならとても上手いプレイヤーだ。だから今回のことは視聴者の間で、初配信の緊張で片付けられていた。まだ、この頃は……。

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