第4話 赤い目の通り魔
血の匂いがする――。
人間の傲慢と、見栄と、堕落が、仮面をつけて踊る舞踏会。
しかし今宵も、どこかで誰かの血が流される。
理由も分からずに怯える目と、理由もなく血を求める目。
いつまでも続く輪舞は、終わりない憎しみの連鎖か、悲しみの連鎖か。
いつも華やかなロンドン街は、あまりに大きすぎて、
か弱き者の小さな声は、いつもかき消されていくのだ。
***
大都会ロンドンの中心部に近い路地裏。
夜中でも電灯の光で明るく人通りの多い表通りから数ブロック奥に入ったあたりに、野良猫すらも通らないゴミが散らばった寂しい通りがある。
「誰か…誰か…助けてっ…」
息を切らせながらその袋小路に駆け込んできた一人の女と、その女を追ってきた黒い影。
この先が行き止まりだと知った女は怯えた顔で振り返り、黒い影を見ながら後ずさりした。
そこからは音もないモノクロ映画のようだった。
女に近づく黒い影。
逃げようとする女の腕を掴む。
振りほどこうと抵抗する様子を見せるも、影はびくともしない。
やがて、黒い影の目が、赤く光る。
恐怖に戦慄し、死を悟った女の顔。
黒い影が女の首元に嚙みついた時だけ「うっ」と小さな呻き声が漏れる。
だらんと力が抜けて動かなくなった女の体。
赤目の影が女の手足を切り裂きながら、その血を吸っていく。
暗い路地裏に、赤い目と、女の赤い血だけが鮮明に映える。
――翌日。
ゴミを漁りに来た浮浪者が干からびた棒のようなものを見つける。
よく見ると、その先端には5本の指のようなものがあり、それが血の抜き取られた細い腕だと気付いて悲鳴を上げる。放り投げたその腕が転がった先に、目を見開いたままの女の顔と、バラバラになった胴体や足が乱雑に転がっていた。
やがてその路地一帯を多くの警察官が取り囲み、物々しい警備が敷かれた。
しかし、既に街の情報屋たちの手によって、その惨状はロンドン市民にセンセーショナルな事件として伝えられた。
”三人目の被害者を発見”
目撃者の証言からの現場の状況が描かれた挿絵の入った速報誌は飛ぶように売れ、立て続けに3人が不幸な目にあったこと、そして、その無残すぎる変死体の様相に、街全体が騒然とした。
そしてその一連の事件は、誰もが”人ならざる者の仕業だ”と考えるには十分だった。
そして、その日のうちに、街中に広まったのは、こんな噂だった。
”三人目の被害者が出た。――犯人はヴァンパイアだ。”
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