第52話 司祭ヤイバ3

飛びかかるようにヤイバが襲いかかる。

普段ならば簡単に避けてカウンターを決めるが、あの高温のヤイバがそれを許さない。


単純に剣の重さや見た目が変わらず、範囲だけが広くなったようなもの。


不可視な癖して、掠れば肉を焦がし、炭に変える凶悪なそれに近づくことは叶わない。


スピードを上げてようとも剣により近づけず

身体能力を上げても攻撃をする前に焼き殺される


まさに天敵とも言える能力に舌打ちが漏れる


「チッ!」


ギルディアは高速のまま、バックステップで距離を取るも、ヤイバは先程より跳ね上がった身体能力でギルディアへ肉薄する。


剣は限界まで力を引き出されたが、〈武具強化〉による限界を超える分の強化は

身体能力に反映されている


「シィィッ!」


剣を大きく振り回す

柱のような大きさの高温が迫り来る


「ッ!〈私は熱に強い〉」


避ける事が無理だと考えたギルディアは熱への耐性を上げるも


本体の剣がギルディアの腹部を切り裂く

空中に鮮血が舞い散る

しかし傷は深くは無い。浅い訳では無いが

腹を切り裂かれる直前にバックステップにより

臓物を切り裂かれることは免れた。


だが追撃をヤイバは行う


素の身体能力のままナックルダスターで剣を

迎え撃つ


両方の拳で乱雑ながらに振り回される剣を迎え撃つ


数多の剣戟と金属がぶつかり合いによる火花が飛び散る


熱による耐性で高温はどうにかなれど

〈オーダー〉による身体強化のない状態では、攻め手に移れず、ギリギリのところで攻撃を

弾いている。


ギルディアは防ぐのに精一杯だがヤイバは肩から多量の血を流しながらもギルディアに手傷を与えている。体中を切られて、出血量が多く、このままではギルディアが敗北するだろう。


このままであれば


上段からの剣戟を拳により叩きつけて剣が土に埋まる、それによりギルディアには幾許かの猶予が与えられる


両手のナックルダスターを握りしめ、両拳をぶつける


途端ナックルダスターが光を放つ

紫色の光は高濃度の魔力が可視化されたものだろう。


魔力は収束し、ギルディアの両腕を覆い尽くし

篭手のように変形する


「おいおい、なんだよそれ」


ヤイバは血がどくどくと流れる肩に気を使いながら、変形した篭手に警戒を寄せる。


「これは私が宰相に昇格した際に大賢者様が用意してくださった物だ」


大賢者という名前にヤイバは露骨に警戒心を寄せる。


大賢者は勇者パーティの一員であり、現存する大英雄の1人だ。


そして大賢者は魔法技術が卓越している

そんな大賢者が作った魔道具が普通の物であるはずが無い


「これは私の欠点を補う為に作られたものだ、能力は単純だ」


ゴォォォォッ


とてつもない吸気音が響く


ヤイバは何かが来ることを予見して、片手で剣を持ち上げて構える


ドパァン!


何かが放出される音が聞こえる

高温による影響を受けず、それは高速で飛来する。寸の所で剣で弾いた。


「これは魔力を圧縮して放出する魔道具だ、これにより遠距離攻撃手段を得る事が叶った」


ゴォォォォォッ


両手から吸気音が響いている


地響きのような吸気音にヤイバは身構える


「さぁ、決着をつけようか」


ギルディアは勝気に笑う

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