第34話 雷身は雷神となり得る

クソがっなんなんこいつズルやで!ズル!


ライネルは内心悪態をつく


大賢者は音速の風の刃でライネルを迎え撃つ。

視認が難しい上に音速

彼で無ければ直ぐに肉塊となっているだろう


ライネルは半身を雷として高速移動している

天啓〈雷身〉は魔力が雷に代わるというもの。それは天からのギフトであり呪い。なぜならライネルは魔法が使えない。


ならばこそ幼き頃の彼は雷を扱い、魔力が体内で雷に変わる過程を利用し、己の体を雷にすることができるようになった。


しかしそれは変えても四肢に限ったもので、全身の雷化などはしたことは無い。それは雷になる時、体は雷に置き換わる。つまり全てを雷にすることは自己を失う可能性があるからだ。


彼は1度、聖国を救ったことがある。それは

聖国の霊峰に突如として現れた魔王軍暗殺部隊

各国の主要要人を何人も暗殺してきた恐るべき

部隊。それをライネルは1人で駆逐した。


霊峰で雷鳴が轟き、閃光が走る様を見て人々は彼をこう呼んだ。〈雷身〉と


しかし彼が魔法を一切使えないことを知ると彼を人々は見下した。彼は舐めた口を聞くヤツを実力で分からせた。彼の行き過ぎた性格故か、

その過激な暴力による理解の強要は

彼を英雄としてでは無く怪物とするに相応しく

そして聖国に居る司祭はその悪名を利用し

自分達を守る用心棒として扱い

果てには何でも屋として扱われる。


元来の粗暴さゆえか、はたまた欲望を実現できる実力故か逆境という逆境に立ったことの無いライネル


そんな彼は今、分岐点に居る。


◇◇◇


こんな部の悪い賭けしたくないんやけどなぁ


強固な魔法障壁により、既存の技を使っても破れそうにない。ならばこそ新しく生み出すしかない。それは己が雷になること


彼は風の刃を避けつつ決断をする


閃光と共に彼は大賢者と向き合う


「おや?どうしたんだい?それとも死ぬ決心が着いたかな?」


大賢者の眼は今も黒く、ライネルを見ていない


「いんや、違うんや、お前の態度は気に食わんし、戦っとるとも思われとらんのも気にいらんのよ」


ライネルの挑発に大賢者は訝しんだ顔で言う


「そうなのかい?しかし君は私に決定打を与えれないだろう?」


大賢者の言うことは最もや、でもなァ!


ライネルの体から雷が帯電する。


バチッバチッ!


溢れる雷は付近の雑草を焼き、焦がす。


「決死の一撃って訳かい?」


大賢者は杖を幾度か振るい盾を張る


「いったやろぉ!お前みたいな英雄負かすんが夢やってんなぁ!!」


ライネルは己の全てを雷に変える。


〈雷神〉


そう形容するのが相応しい轟雷が光の速さで

発射される


大賢者に命中すると思われたそれは

大賢者を逸れる


周囲一帯は焼けただれ、焦土の中心にはライネルと大賢者が居る。


「残念、当たらないよ」


ライネルは魔力を使い切ったからか両膝をつき、大賢者を恨めしそうに見る


「なんで当たってないねん、ワイはお前に向かって動いたはずや」


大賢者の顔には微笑が生まれ、そして呟く


「それは簡単さ、雷というのは湿度や温度などの条件が適している方へ向かう性質がある。私はそのための道筋を作ったのさ」


大賢者が胸に手を当て誇らしそうに言う


それを見てライネルは顔を伏せて笑う


「クックックっ、、、」


大賢者は何がおかしいんだい?と聞き返す


「いやぁ、滑稽やとおもてなぁ?ありがとなぁ!ご丁寧に騙されてくれて!」


そう言われ大賢者は後ろを振り向く

そこにはあったはずの家は雷により焦げて

今にも崩れ落ちそうな様子だ


「最初から狙いはこっちやってん!お前の負けやなぁ!」


ライネルはまんまと引っかかったとばかりに

口にする


大賢者はあきらかに動揺する

手は震え、目を見開いている。

そして正気に戻ったと思えば、ライネルの事など無視して、一軒家に魔法で雨を降らし消火する。


「え、るぐ、、えるぐ、エるグ、エルグ!」


大賢者は一心不乱に残骸の中からエルグを探す

そして見つかったのは焼け爛れて、黒く染った人型のそれである


「あっ、、、あぁ、、、、」


大賢者は膝をつき人型の煤まみれの手で

それを抱える

そして両目から涙をこぼす

その涙は黒く、そしてその両目も黒く染る


「ァ、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


黒く染まった異質な魔力がその身からは溢れ出す。


「なんなん、、、それは、?」


ライネルは人には見えない異質な姿に畏れを抱く


呪いは蠢く

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