「それで、どうするのさ」

「うーん」

今日も今日とて、私は音楽を耳に運んでいた、うたと対面しながら。

あれから、数日が経った。数日といっても、片手で数えられるくらい、まぁ、それを数日と呼ばなければどれを数日と呼ぶのかというところなのだけれど。

唄はユニットでのボーカルで、私は作曲をすることになった……のだが。


「結局私は作曲だけするんでしょ?」

「うーん、いやさ、それだとステージ何するのかってことになるじゃんか」

「別にいいよ、裏方で」

「いーや、ダメ……あっ! 私ギターするから、キーボードやってよ」

「そんな簡単に言うけど、そっちはギター弾けるの?」

「大丈夫大丈夫! 何とかなるって」

「ねぇ、何——話?」

二人で話していると、同じクラスの女子生徒が話しかけてきた。

「バンドだよ。唄とやろうって話」

「へー! 私もやってみようかな、なんて」

さち! やめときなよ……」


もう一人の女子生徒が話しかけてきた女子の腕を掴んで何やら話しながら去っていった。

「なんだったんだろうね」

そう言って彼女の顔を見る。


人間味のない、そう表現するのが一番正しいと思えるほど、放心していた。

「え、大丈夫?」

「あ、う、うん。平気だよ」

そうやって無理やり笑みを浮かべた彼女の顔には苦みが残っているのがはっきり分かった。

でも今ここで追及はしない。それが、この場で一番いい選択だと思ったから。

「ほら、しけた顔しないで、えーと、次はユニット名だったね」

私が音楽の話に戻すと、唄の表情は心なしか少し軽くなった気がした。それだけ、音楽が好きだということなのだろう。私と同じように。

「ユニット名か……。なんか、好きな言葉とかある? あ、花言葉とかもいいかもね」

「音楽の花言葉を持つ植物はアシってやつらしいよ」

「なにそれ、おもしろー。まぁでも少しダサいね。咲奈はなんかある?好きな言葉」

好きな言葉。あの日からずっと考えていた言葉。

「おんしょく……」

「え? オンショク……どういう字」

唄は机からルーズリーフを取り出し、と書き、「これ?」と私に尋ねた。

私は唄の持つ杏色あんずいろのシャーペンを借りて、白い紙に文字を付け足した。

。音楽を食べると書いてオンショク。唄が私に教えてくれたことをユニット名にするのはどうかな?」

彼女の機嫌を伺う。気分を損ねたらどうしよう。

……、めちゃくちゃいいじゃん! 咲奈天才じゃん! よし、これから私たちはだ! 早速SNS作ってくる! 一緒に頑張ろうね!」

そう言って唄はさっきまで落ち込んでいたのがウソみたいに、ハイテンションで教室を出て行った。階段を転げ落ちないといいけど。

何はともあれ、気に入ってくれてよかった。機嫌を損ねてしまうだなんて考えは杞憂だったようだ。

……そういえば、今日は躑躅色つつじいろの髪紐をしていたな。新しく買ったのだろうか。


彼女がこの教室にいないことを確認してから、私は先程話しかけてきた女子生徒に声をかけた。

「あの」

「うん? どうしたの?」

「さっきはなんで離れて行っちゃったの? 一緒に音楽やってみない?」

先程も割り込んだ女子生徒が再び会話を遮った。

「……甘菜唄あまなうたさん。吹奏楽部に入ってるんだけど、彼女、熱中し過ぎて純粋に楽しみたくて入った人に強く当たってたみたいで……。有名だよ、唄さんとは音楽やらない方がいいって」

……成程。熱中しすぎ……ね。

「……木立きだちさん、だっけ。あまりこんなことを言うのもあれだけどさ、唄さんと関わるのはちょっと考えた方がいいよ」

その嫌味なのか心配からなのかよく分からない言葉に対して笑顔で返した。

「忠告ありがとうね」

そうして席に戻り、イヤホンをして再び音を耳に含んだ。


とりあえず自分を音楽というもので浸してみる。私が暇なときはいつもそうする。

やらないといけないことができるまで、やることがわかるまではそうする。

だってそれが一番楽しいのだから。


「ほら、これ見てよ」

戻ってきた唄がこちらに向けたスマートフォンの画面には動画投稿サイトのアカウントが写っていた。アカウント名は

「曲ができたらここに投稿するから」

そう言って、唄はまたどこかに行ってしまった。

全く、唄はああいう人遣いの荒いところがある。


そしてまた、やることが分かった私は、持ってきていたノートパソコンに作曲ソフトをダウンロードした。

モニターに映るプログレスバーは私に次は調なのだと実感させてくれた。

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