第6話 ちょっと

「急に呼び出してどうしたのかな?タカヤくん?」


 綾音に相談に乗ってもらった次の日、俺は水口さんを教室に呼び出した。


「えっと…調子どう?」


「なにそれwああ…でも何であの人と付き合ったの?ってよく聞かれるかな」


「そっか、そんな質問ばっかりで付き合うの辞めたいって思わないの?」


 俺がそう尋ねると水口さんは、あっけらかんとした表情で言った。


「ううん、全然。だってそんなのは周りの人が勝手に言ってるだけでしょ?」


「結局は私たちがどう感じるか、だよ♪」


 俺は、その言葉に打ちひしがれてしまった。


 ああ、どこまでも俺と水口さんは似合わないんだな…俺はそんな前向きで自分中心の考えはできない。


「俺は、そうは思えないな…」


「えっ、今なんて…」


 俺は咄嗟に手で口を押さえて水口さんの顔を見た。すると彼女は驚きの表情を浮かべて目には涙を浮かべていた。


 それを見た瞬間、自分が取り返しのつかないことを言ってしまった事を悟り、鼓動が早まるのを感じた。


「えっ、えっと今のは…」


「言って、思ってること…全部言って」


 そう言う水口さんの目の真っ直ぐさに俺は一瞬動揺してしまったが、すぐに冷静さを取り戻して話し始める。


「えっと…まず前提に言っておくけど、俺は水口さんに魅力は感じてるしお試しとはいえ付き合えて嬉しいと思ってる」


「でも、付き合ってみて周りの目が好奇とか嫉妬のそれに変わって、友達も俺に距離置くようになったのが俺には辛かった」


「あと…デートした時、水口さんはお互いを知っていきたいって言ってただろ?なのにあの時は水口さん自身のことばっかなのも気になってて…」


 俺はそこまで言い切ると1つ息を吐いた。水口さんはそれを俯きながらもしっかりと頷きながら聞いていた。


 そして彼女はそのままポツリと呟いた。


「あなたは違うと思ったのに…」


「それってどういう…」


 尋ねようとする俺に水口さんは叫んだ。


「もう関係ないことなの!」


 そう水口さんは顔を上げた。その顔は涙で歪んでいて、今までの水口さんからは想像もつかないものだった。


「そんなこと言ったって…泣いてる人をほっとけないだろ!」


「ほっといてよ!」


 俺はそう叫ぶ水口さんを無意識に抱き寄せる。


「なっ!?なななななななっ!??!?!?」


 その言葉から少しして俺が何をやらかした理解する。


 しまったーー!つい昔綾音にやったことを…で、でも他に泣いてる女の人に遭遇したことないから!それしかサンプルがなかったから!仕方ないだろ!?


 こ、こうなればここから何とかするしかない!俺は落ち着いた風を装い声をかける。


「水口さん、まずは落ち着いて、ね?」


「おっ!落ち着けって!急に抱きつかれたら誰だって動揺するよ!」


「それは、ごめん…」


「だったらまず離れて!!」


 そう言われて俺はすぐに水口さんを解放する。水口さんは顔を真っ赤になっていた。


「まったく、話聞いて欲しいからって…アタシじゃなかったらケーサツ行きだから!」


「それは、ホントにすみません…」


 俺はそう言いながら水口さんから目線を外す。


 すると、水口さんはため息を吐いて言った。


「はぁ、こりゃ話さないとダメそうだね…」


「アタシね、昔からなんでも出来たんだ…」


「だから周りから頼られるのもしょっちゅうだった。それに…自分で言うのもアレだけど見た目も良い方だからさ、人前に出るようなことも多かった」


「それで、中学1年の時に彼氏ができたの。小学生のときは自分にはまだ早いと思って作んなかったんけど…そろそろアタシもそういう青春したいって思ったの」


「でもその人のことを学年の全員がジロジロ見るようになって、それが嫌でその人から別れを切り出された。そんなのが何回が続いて気づいたの」


「アタシ、目立ちすぎなんだって。でももう周りの人はアタシが目立たないようにさせてくれない。だからアタシは恋愛しないって決めたの」


 そこまで言うと水口さんは息を吐いて言った。


「それが理由、つまらないっしょ♪」


 そう笑顔で話す水口さんはいつも通りの美しさだった。


「それでも俺と付き合おうとしたのは、俺が極度にお人よしって知ったから?」


「まあそれも…あるかな。だからこそ今日の君には驚いたよ!誰かに入れ知恵された?」


 入れ知恵という言葉に一瞬だけ綾音の顔がよぎったがすぐに頭から振り払って言った。


「入れ知恵というか…他人ばかりじゃ誰も幸せにならないと思ってね」


「ふーん?ま、何でもいいけどさ♪それじゃあ今度こそお別れだね…」


「ちょっと待って!!」


 俺の突然の言葉に水口さんはキョトンとした表情を浮かべるが、俺は構わず続ける。


「俺たち友達に良いなれると思うんだ」


「経緯は違くてもお互い極度のお人よし、きっと良い関係になれると思う。どうだ?」


 すると水口さんは涙と喜びの表情になり。ご機嫌に言った。


「アタシも実はそう思ったんだ!」


 そして続けて手を握って言った。


「じゃあ、よろしくね♪友人タカヤくん」

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