第5話 アンタは…

「来たわね…」


 そう言う綾音の目はいつもよりも冷たく、本当に今から説教されるんだなと実感する。


「おう…待たせたか?」


「別に、今来たとこだから…それより早く横座りなさいよ」


 俺はその綾音の指示に特に返事することなく大人しく従う。


「それじゃ、早速本題にはいるけど…良いかしら?」


「おう…」


「アンタ…水口さんのことまだ好きなの?」


 想定通りの質問がきた。きたが…答えはまだ決まっていない。


「ま、アンタのことだし?分かんないとか言うんでしょうけど」


「う…はい、その通りです」


 やっぱりコイツには大体のことは見透かされてる気がする。まあ俺もアイツのことなら他人より分かってると思うが…


「ねえ、なんでアンタがその手の…他人のことどう思ってるかの質問答えられないか知ってるかしら?」


「知ってたら解決させてるだろ」


「そんな器用じゃないくせに」


 そう絢音はクスクスと笑って言った。反論しようとしたが出すグウの音が無かったため話を促した。


「で?理由ってなんだよ」


「アンタ、他人のこと考えすぎなのよ」


「言っておくけど、それはアンタの良いところだから。でも他人に縛られて自分が出せないこと結構あるのよ」


「だから改めて聞くわよ、水口さんのこと『アンタ』はどう思ってるの?」


 俺は少し考え込んで、そして話し始める。


「なんというか…住んでる世界が違うって感じで、いかに俺が水口さんとは違うタイプなのか思い知った」


「それに周りの態度の昨日までとは全然違かったろ?正直それが何より辛かった。でもそれは俺が我慢すればいいからさ…」


 綾音はそれを最後まで聞くと、ため息を吐いて言った。


「アンタねぇ、我慢すればいいとか言ってるけど…」


「水口さんはきっと我慢してるアンタと付き合いたいとは思わないわよ。少なくとも私は相手に我慢を強いたくない」


 俺はその綾音の言葉に頭を殴られたような感覚がした。


 人間は我慢してなんぼな生き物だ。だけどそれを前提にするのは健全な関係とはとても言い難い。そんなことも失念していたとは…


「じゃあ俺は…どうしたらいいんだ?」


「それはアンタが自分で決めることよ。でも、女として友達としてアドバイスするなら…ハッキリ我慢してるって感性が合わないって言うのが良いと思うわ」


 俺はその言葉を何度も反芻する。


「そうか…そうだよな。それが1番だよな。ありがとな綾音」


「感謝されることなんてしてないわ。でもまあ、頑張りなさいね」


 そして、俺たちは各々家路についた。


 ・・・・・・


「…行ったわね」


 隆哉が視界から消えたのを確認して、私はブランコに腰掛ける。


「アイツ…水口さんと上手くいっちゃうのかな?」


 その言葉と共にため息が漏れる。


 私は昔からアイツが好きだ。他人のためなら何だってやってしまう正義感が、不器用な私に呆れず側にいてくれる優しさが大好きだ。


 でも、もしアイツが水口さんと付き合ったら私の存在はきっと2人の枷になってしまう…


 こんな気持ちになってしまうくらいなら…アドバイスしなきゃ良かった。別れれば良いと言えばよかった。


 もっと素直に気持ちを伝えれば良かった…


 ああもう、ホントに私って


「不器用だな…」

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