第3話 まるで夢のような

 朝、俺はいつもより早く身支度を済ませていた。そして余った時間を何に活かすでもなくただソワソワしていた。


 そんな光景を妹は白い目で見ていたが、そんなのは些細なことだ。やがてチャイムが鳴る。


「おはよう♪タカヤくん」


 開けると水口さんが笑顔で挨拶をしてくれた。


「お、おはよう…水口さん」


「うん!それじゃっ!一緒に行こ♪」


 そして、俺たちは2人並んで歩き出す。こんなに浮かれる予定はなかったが、実際に事象を目の前にしてしまうとどうも心が浮ついてしまう。


 そんな中、先を歩く綾音を見つけた。声をかけようとしたが綾音は俺たちを見つけると逃げるように先に行ってしまった…


「今の…同じクラスの綾音ちゃんだよね?仲良さそうだけど、どんな関係なの?」


「幼馴染だよ、仲良くなってから…10年は余裕で過ぎてるな」


 すると水口さんは何とも言えない微妙な表情を浮かべて言った。


「そっか…でも今は幼馴染じゃなくてアタシのこと見て欲しいな」


「だってアタシ、彼女。でしょ?」


「う、うん…そうだね…」


 ・・・・・・


 学校に着くと、俺には多くの好奇の目線と嫉妬のそれを集めていた。最初は気にしないように努めていたが、あまりのガヤの多さに嫌気がさした俺は昼休みに用事があると言って1人で隠れ家の木陰へと向かった。


 するとそこには先客がいた。俺はその見慣れた姿に声をかける。


「来てたのか、梓」


 俺が声をかけると、梓は食べていたサンドイッチを飲み込んでから答える。


「うむ、1番落ち着くし天気もいいからね!ところでぇ…水口さんは?」


「ああ、えっと…用事があるって言って別行動させてもらってる」


 そう答えると俺は梓の横に腰掛け話し始める。


「誰かと付き合うって意外と大変なんだな…勿論付き合えたのは嬉しいんだけど、周りが嫌な方向に変わっちまった…みたいな」


 今朝の綾音だってそうだった。昨日までなら少なくとも手を振るくらいはしてくれた。けど、彼女ができただけであんなに…


 すると梓が『たかっち』と声をかけてきた。その声に反応して梓の方を向くと、彼女はいつもとまるで違う冷たい表情をしていた。


 驚きと困惑に声を出せずにいると、梓は冷たく言い放った。


「じゃあ別れた方がいいよ」


 その言葉に、俺は驚きを隠せなかった。梓はそんな俺の反応なんか気にも止めず言葉を続ける。


「誰かと付き合うってことはさ、今までの関係を変えて特別なものにするってこと。まして相手はあの水口さん。こうなることも容易に考えられる」


「なのに、たかっちはそれを受け入れようとしないどころか前の方がいいと思ってる」


「それが…全部だと思うよ」


 そこまで言うと梓は立ち上がり去っていった。


 俺は…ただその背中を呆然と見送ることしかできなかった。


 水口さんのことは好きだ。けれど、この変わってしまった今は好きじゃない。ならば俺は水口さんと付き合うべきじゃないのか?


 分からないまま授業の予鈴が鳴ってしまった…

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