第2話 とは言ったものの

 あれから1日、俺の学校への足取りは…重い。昨日は振り切ったように言ったものの、無かったことに出来るほど軽いものではないのだ。


「どんな顔して教室入ってけばいいんだか…」


 すると不意に最背中を叩かれる。さすりながら振り向くとそこには同じクラスの白石しらいしあずさがいた。


「おはよっ!たかっち…何だか元気なくない?もしかしてフラれた?」


「お前にその事言ってたか?」


「あっ、マジでそうなん?ドンマイじゃんw」


 笑われてしまった…だけど実際これくらいのメンタルの方が良いんだろうか?


「ところで…あやねんはどしたん?一緒じゃないん?」


「アイツは日直で先行ってるとさ」


「なんだよぉ、あやねんに抱きついて匂い嗅ぎ散らかしたかったのに…」


「友人として言っておくが、キモイぞ?」


「仕方ない、今日はたかやんでいいか」


「ダメに決まってんだろ!?」


 ・・・・・・


「ついに教室まで来てしまった…」


 俺がそう呟くと、梓が自分の胸に手を当てて言った。


「ウチにアイデアがあるから任せな!」


 すると梓は教室の扉を開けて自分の席に座っていた綾音に向かって行った。


「あやねーーん!!」


「おはよう、あずs…キャッ!?」


「うーん、やっぱりあやねんの匂いはたまらないですなぁ」


「ちょ、ちょっと辞めなさいってば!あっ、助けてタカヤ!」


 なるほど、これに混ざるように入れば良いってわけね。アイツ意外と頭回るんだな、バカそうなのに…


 ・・・・・・


「どう?助かったっしょ?」


 昼休み梓と綾音と昼食をとっていると、そう話を振られる。


「ああ、かなり助かった」


「助かったって…何が?」


「なんかね、たかやんがフラれたの気にして『教室入れないよぉ〜助けてください梓様ぁ』って言って来たから…」


「そこまで言ってねぇよ!?」


 すると綾音は手をポンと叩いて言った。


「だからあんなに嗅がれたのね!」


「しょゆことー」


「じゃあもう私のこと嗅がないのね」


 その質問に梓はニヤリと笑みを浮かべて答える。


「いんや〜嗅ぐよぉ?めっちゃいい匂いだったから毎日嗅ぐ」


「なんでそうなるのよ!?」


「たかやんも嗅ぎなよ〜トブよ?」


梓はそう言うと肘で俺をこづいてきた。俺はため息をついた後に答える。


「いや、大丈夫だ」


すると綾音が大声で言った。


「嗅ぎなさいよ!」


「なんでだよ!?」


ホントになんでだよ…


 ・・・・・・


 あっというまに放課後だ。なんやかんや綾音と梓のおかげで水口さんのことを気にする暇も無かったな…


 確か今日は2人とも掃除当番のはずだ。そう思い下駄箱を開けたところ、一枚の紙が入っていた。するとそこには


 今日の放課後、体育館裏で待ってます。

                リカ



 俺は急いで体育館裏に向った。するとそこには本当に水口さんがいた。目が合うと水口さんは手を振り近づいてきた。


「来てくれてありがと♪」


 そう言って微笑む水口さんに胸が高鳴りそうになる。しかし一度フラみた身だ。冷静を装いつつ答える。


「手紙見たから…それで何の用事かな?」


 俺がそう尋ねると水口さんは、目線を外して恥ずかしそうに指をクルクルさせながら言う。


「えっとね…この前コクってくれたでしょ?」


「うん、そうだったね」


「あれからアタシ考えてみたんだけど…やっぱり断るには早いって思ったの。だから!」


「お試しでアタシと付き合ってほしいの!」


 はい?


 俺は事態をうまく飲み込めなかった。昨日フラれた相手に告白されるなぞ、万に一つも考えていなかったからだ。


 けれど、その返事は意外にもあっさりと俺の口から滑り出た。


「俺でよければ、喜んで」


 こうして俺は、晴れて初恋相手とお試しではあるが付き合うことになった…

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