故に、作者が自らの創作物を軽々に『駄作』と論じるのは誉められた行為ではないように思う。芸術とは『価値』で推し量るものではないのだから、世に出した以上、そこにある『意味』を尊重しなければならない。作者の一存で取り下げる・無かったことにすることなど到底許されないのだ。
本作では、ギャラリー併設カフェを営む岬陽子というイラストレーターが、イラストレーターとしての需要の低下や客層に対する理想とのすれ違いから自身の創作を否定しかけてしまうところから始まる。佐々木冬也という学生は『岬陽子』の絵が好きだと言い、この店で個展を開きたい、だから残してくれと頼み込むのだ。陽子にとっては息苦しさしか感じないこの店を、作品を、大切と彼は言い張る。その熱意に負けた陽子は微かな希望を覚えながら冬也に付き合うのだが、進展しないまま一年も待たされることに。果たして彼の真意とは。そして、彼の描く作品とは――。
冒頭でも語ったが、創作者自身が自身の作品を否定することはその作品を受け取る人間のためにはならない。
その作品を目にし、影響を受けた『誰か』はこの世に存在するし、存在すると信じなくてはならないのだ。
そういった意味で、本作はとても素晴らしいエンディングを迎える。人に感化され、人を感化する芸術。そこに『価値』で語る優劣はなく、与えた『意味』が尊敬に変わるのだと。
とても素敵な作品でした。
ぜひ皆様もご一読ください。