23「旅行」

一輝とツタが、地球のモノに一緒にいる誓いを立てた次の日であった。

秀が一輝に会いに、屋敷に来た。

その時に桜身も一緒に来ていた。


「お義父さんから連絡が来たわ。ツタさんの服を揃えて欲しいんだって?」


流石、屋敷の当主である。

手回しが良い。


「さ、ツタさん。服を持ってきたので、試着してみましょう。」

「え?」

「えっじゃないわよ。その服、私が、この屋敷に置いてあった着替えでしょ?でも、それだけでは、間に合わないと思って、色々と持ってきたわ。少し時間があるなら、一緒に買い物に行きましょう。」


そんな風に話しながら、違う部屋へと桜身はツタを連れて行った。

秀は、一輝と話しをしたかったから、一輝の部屋に来ている。

一輝は、腰を下ろして置けるスペースがないのを確認する。


こんな時の為に、机と椅子は必要だと思った。

それに、これからはツタとこの部屋で暮らしていくから、どのみち追加をしなければならない。


「父さん、椅子持ってきますから、待っていてください。」

「いいよ。ベッドで。」


秀は、ベッドに腰を下ろす。

それを見て、一輝は、秀にほうじ茶を淹れた。

お互いに一口飲むと。


「病院以来だな。」

「そうだな。」


秀は、とても言いづらそうにしていたが、一輝に聞いてみる。


「一輝。俺は、これからどうしたらいいんだ?」

「どうしたら、とは?」

「一輝が空けてくれた部屋は、桜身がきちんと住めるようにしてくれていた。下着や靴下、服も用意してくれて、暇つぶしのゲームやパソコンもあった。」

「そこまで用意してくれているなら、いいじゃないか。」

「暮らしていくには、それでいいんだ。けど、家での居場所がないんだ。」

「は?」


一輝は、深く聞いていくと、桜身が全てやってくれるから、何か仕事してないく、ただそこにいる物みたいになっているのが、とても、いづらい現状。


「それは、母さんが悪いな。一緒に住んでいるんだから、一人一人に仕事は必要だ。それが存在しているのを自覚させる。」

「そうなんだよ。俺がやろうとすると、桜身が座ってて……て。」

「でも、母さんの気持ちも分かるんだ。」


一輝は、飲み終わった湯呑をチェストに置くと、秀を見た。


「好きな人が生きて帰って来て、とても浮かれているんだと思う。それに、息子の俺がいないから、とても、自分をさらけ出せて、嬉しいんだよ。」

「それは、感じている。」

「だったら、今、母さんは使命の仕事を休んでいるし、父さんも退院してきて、まだ、身体が慣れていないだろ?それに、血液の検査や研究に協力をするんだろ?だったら、今、出来る幸せを素直に受け入れろ。」


一輝の言葉は、とても素直に心に入ってくる。


「確かに。今は、この束の間の幸せを受け入れるか。」

「束の間じゃない。永遠にだ。」

「一輝。」


一輝は、秀の肩にしがみついた。

秀の服が乱れる。


「父さん、もう、いなくならないでくれ。母さんは、毎日、寝る前に父さんの写真を見て泣いていたんだ。もう、あの声は聴きたくない。」

「一輝。」


一輝は、泣きはしないが、その時の状況を話した。

一輝から聞かされる話は、秀にとっては、とても心に重く感じていた。

そこまで思われていたとは、申し訳ないのと、幸せな気持ちがのしかかった。


「一輝、ありがとう。」

「別にいい。」

「一輝が言うんだから、まあ、大丈夫か。」

「母さんも、それ、よく、言う。」

「どれ?」


一輝は、秀を見て。


「一輝が言うんだからっていうのだ。俺、そんなに信用されているのか?」

「信用ってより、自分の子供を信じない親はいないと思うぞ。」

「そういうのか。」

「それに、老いては子に従えという言葉もあるだろ?まあ、そんな感じだと思ってくれればいい。」


ほうじ茶を追加して、もう少し話しをする。


「入院中に、この十八年間の事を谷から教えてもらったよ。中でも、一輝の事は重点に基本情報を見せてくれた。」

「そう。」

「優秀なんだな。一輝。」

「そんな事ないぞ。普通に育ってきただけだから。」

「でも、あの成績に人間関係、それに目立った問題はなく……本当に、すごかった。」


秀は、情報を思い出していると、少しだけ悔しい顔をした。


「その時の……育っていく姿を見えなかったのは、辛いな。」

「父さん。なら、子供作る気でいるから、孫が出来たら、孫の成長を見守ってよ。」

「孫か……。結構、年をとったものだ。」

「年か。そうだ!父さん、ゲームってやる?」

「ゲーム、やるぞ。でも、この十八年間の間に、新型のゲーム機出たんだよな。触って見たけど、いいな。あれ。」

「俺は、つい一年前からゲームやり始めたから、一緒に出来たらいいな。」

「そうだな。一緒にやるか。」


それから、一輝と秀は、ゲームの話で盛り上がり、秀が知るだけのゲームの知識を一輝に教えた。

一輝は、違う世界の話を訊いているみたいで、とても嬉しかった。





ツタが着替えて来て、一輝の前にくると。


「その服、すっごく似合う。ツタ。」

「え?あーありがとう。」


ワンピースの裾にフリルがついていて、胸元には大き目のリボンがついていた。

色は、緑色をしていた。


「ツタって、フリル似合うな。母さん、これ系の服、揃えてくれないか?」

「え?いいけど。」

「それと、ツタ専用に下着や靴、それとカバンも用意してやって欲しい。母さんの見立てなら、間違いはないと思う。」

「そうね。一輝が言うなら、そうかもね。」


その言葉を秀が訊くと、微笑んでいた。


「それと、この部屋、ツタと暮らすには、少しだけ狭いんだ。どうすればいい?」


桜身は、山倉を呼ぶと。


「この部屋と隣の部屋、ぶちぬけないかしら?」

「出来ますよ。」

「なら、早速、明日からしてもらっていい?」

「はい。手配しておきます。」

「その間だけど、一輝とツタさんは、旅行でもしてきたらどうかしら?」


桜身の提案に、一輝とツタは驚いていた。


「旅行?」

「そ、新婚旅行……っていっても、国内ね。」

「国内しか無理だし、お互いにパスポートは作ってないから、海外は行けない。……そうか!ツタ、戸籍がないから、色々な書類作れないじゃないか!」

「戸籍……そうね。戸籍だわ。すっかり忘れていたわ。」

「戸籍の取り方、調べないと。」


一輝は、パソコンを起動させようとしたが、山倉が止めた。


「大丈夫ですよ。一輝。それらは既に、神野様が手配なさっています。時期にツタさんがこれから生活するにあたって必要な書類は、揃えられます。パスポートもその揃える中に含まっていますので、ご安心を。」

「すまないな。なんだか、そこまで気が回らなかった。」

「別に普通ですよ。孫が困らないように、手配するなんて事は、お爺ちゃんにとっては、とっても普通で当たり前だから。甘えて置けばいいのです。」

「そんなもんなのか?孫と祖父の関係って。」

「そんなものなのです。それに、して貰っている事を素直に受け止めるのも、子供や孫の義務ですよ。しっかり甘えて置きましょう。」

「……まあ、山倉さんが言うなら、俺は、それに従おう。」

「そうしてください。」


山倉は、神野から言われていた。


「もしも、一輝が生活する未来の道が、とてもスムーズにいかない障害があれば、それを取り除き、導いてやって欲しい。」


一輝にとって、もはや、山倉はとても大切で必要で大きな存在となっている。

第二の父親と言ってもいいのだが、一輝から見ると、一括りしてしまえば、師匠である。


だから、師匠である山倉は、弟子である一輝を、これからも導くのが仕事だ。

山倉の視線から見ると、一輝は、これからもどんな道へ進むのかが、とても楽しみである。


その一輝は、ツタに神野が用意してくれる書類の内容を話していた。


「人間には、その様な手続きが必要なのですね。」

「ツタ、今は人間の姿だが、また、光の玉になれるのか?」

「ええ、なれ……なれないわ。」

「え?」

「確かに、なれると思ったのです。でも、人間の姿で留まってしまったみたいです。」

「説明できる?」

「はい。」


ツタは、少し頬を赤く染めて、両手の指を絡めながら。


「つ……つまりです。」

「うん。」

「一輝が、毎日、私に、く……口づけをしてくださって……その、力が、そのー私の中で大きくなってしまって、光の玉でいるのが出来なくなってしまったの。それで、人間の姿になると、中に溜まっていた力が落ち着いて、もう、この、姿のまま、留まりました。」


ツタの説明で、ここにいる山倉、桜身、秀は理解した。

一輝も理解したが、いたたまれない気持ちになっている。


「へー、一輝、口づけ、毎日していたのか?」


山倉が言うと。


「まあ、いいんじゃないか?好き合っていることだし。」


秀が言うと。


「そうね。別に不思議ではないわ。」


桜身も二人と同じく、良い事だと言った。

肯定して、受け入れてくれるのはありがたいが、その気持ちがさらに一輝の中では、恥ずかしさに変わっていく。


「あー、その事ではなくて、ツタの姿が光の玉にならないって事だ。そうなると、やはり、部屋は大きくしないといけないのか。」

「そうだね。この部屋と隣の部屋をぶち抜いて、家具とか入れると、一輝とツタさんは、その間、何処に?となるから、旅でもしてくれると助かるんだよ。」

「ぶち抜く他に方法は?」

「一輝が、この部屋にこだわらなければ、大きな部屋は数室あるんだが、この部屋がいいんだろ?」

「まあな。」

「だったら、ぶち抜くしかない。」

「そうなのか。」

「ということで、一輝よ。明日から工事に入るので、今から、荷物まとめて旅に出かけろ。」

「今から?」

「今からです。このカード。」


山倉は、内ポケットから、カードケースを出して、一枚のカードを一輝に出した。

カードは、ゴールドに光っていて、名前は神野と書かれている。


「このカードがあれば、全国の旅行会社、とても小さい店でも、希望の旅行先へとその日に案内してくれます。」

「なんと!」

「つい、今日、出来たばかりの小さな家族経営の店であっても、対応しますよ。」

「そんなカードなのか。」

「そんなカードです。お持ちください。また、旅費についても、そのカードで支払いが出来ます。一輝の今まで稼いだお金もありますが、それはこれからの生活に生かすべきだ。この旅行の費用は、結婚祝いだと思って使うと良い。」


山倉は、一輝の手に持たせる。

そして、その確認の書類だと言って、山倉の指示の元、名前と住所、それと印鑑などを数点の書類にした。


そして、いつの間にか、桜身がツタの荷物を用意してあり、秀が一輝の荷物を用意していて、二人に旅行鞄を持たせた。


「さ、今日から、三日間。いってらっしゃい。」


山倉は、桜身と秀と一緒に、屋敷の車庫へと見送り、車の運転手に一輝とツタを任せた。

一輝とツタは、車の後部座席に乗ると、二人して微笑んだ。


「まったく、おせっかいな。」

「本当ね。でも、一輝の家族、いい家族ね。」

「もう、ツタの家族でもあるんだぞ。」


ツタは、時間をおいて、頬を赤く染めた。

その様子を見て、一輝も赤くなり。


「夕焼けが赤いな。」

「そ……そうね。」


走る車の窓から、オレンジ色に染まっている空を見て、二人は、手を繋いで見ていた。

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