24「部屋」

旅行は、とても楽しかった。


駅前の旅行案内所でカードを見せた時だ。

カードを見せた瞬間、特別な部屋へと案内され、お茶とケーキが出て来た。

そこから、きちんと整理された数多くの旅行プランが書かれた資料を渡された。

二人で見ると、植物が多い場所となった。


この近くに植物園があり、植物園に併設されてある高級ホテルの最上階へと案内された。


植物園は、数多くの植物があり、ツタはとても喜んでいた。

ツタから伝えられる言葉だが、ここの植物はとても喜んでいると言っていた。

管理してくれている人が優秀であり、肥料や水、太陽の光などを植物が喜ぶ管理をしてくれていた。


ただ、一つは、誰も話しかけてくれない事。

話しかけてくれたら、さらに、きれいに咲けると言っていた。

植物というのは、そういうものなのかと思い、一輝は目の前にある植物に声をかけた。

すると、植物が少しだけ輝いて見えた。


「これは喜んでいるのか?」

「はい。一輝に話しかけられて嬉しがっています。」


一輝は、丁寧に植物に話しかけていった。

この日を栄に、この植物園の植物達は、とても生き生きとして、さらにきれいに咲いてみせるようになったとニュースで聞いた。


一日目は、植物園で過ごした。

といっても、家を出たのが昼食前だったから、時間が無かった。


二日目は、この近くにある海岸と有名な観光施設にした。

ツタから見ると、初めて見るものばかりで、一輝に質問をしていた。

館内案内が聴ける機械もあって、片耳に差し込みながら、施設を見て回る。

機械から流れて来る声が、ツタには不思議で、その都度、一輝がどういう構造で作られて、音が出ているのかを説明した。


こんな時、勉強をしてきて良かったと思った。

「不思議だねー」と言いながらも、構造を説明出来る頭脳で良かった。

一輝の勉強は無駄ではなかったし、この先も必要になってくると思う。


三日目、午前中だけ、この辺りを歩いて見て回り、午後からは屋敷へと戻る。

滞在中のホテルは、とても、快適に過ごせた。

ゆっくりと出来たし、最上階からの眺めを見て、ツタは。


「この地球上に、自然はどれ位、この後残っていくのかな?」

「少なくなっていると訊くな。でも、増やす活動をしている団体もいる。研究をしていて、植物の事を知ろうとしている。だけど、ツタから見れば、見当違いの意見もあると思う。」

「はい。」

「でも、人間を信じて欲しい。」

「はい。私が一輝を信じ、愛しています。だから、他の植物達にも、私の思い伝わるといいなって思う。」

「俺も、伝えられたらと思う。」


一輝とツタは、手をつないで、地上を眺めた。

そんな風にして、過ごし、ホテルを後にして、車に乗り込むと段々と眠くなって来た。

一輝とツタは、お互いに肩を寄せ合って寝てしまった。


「一輝様とツタ様、寝てしまいましたね。」


運転手は、助手席に座っている運転を交代する一人に声をかける。


「そうですね。結構、はしゃいでおられましたから。」


この二人の会話で分かるように、二人っきりの旅行ではなかった。

だが、それでも、一輝とツタは楽しめたようだ。

その証拠に、とても幸せそうな顔をしている。


「ゆっくりと帰宅しますか。」

「そうだな。」


いつもよりも安全運転をした運転手、二人であった。





帰ってきた時、運転手二人にお礼を言って、一輝とツタは部屋へと行くと、山倉が待っていた。

山倉は、部屋の前で一輝とツタを見つけると、部屋の扉を開いた。

部屋に入ると、一輝には見慣れた風景があった。


そう、あのアパートの再現である。


「山倉さん。これ。」

「この方が落ち着くと、桜身様から言われまして。」

「でも、あの部屋を三日でここまで作り変えるとは。」

「気に入りましたか?」

「ああ、とても。」


一輝は、自分が過ごしたアパートとは違うのだが、同じ間取りで同じ壁紙、そして、今までは靴を脱ぐ所がなくて土足だったが、玄関に似た場所もあった。

電子レンジや冷蔵庫、台所の場所も一緒だ。

ただないのは、トイレと風呂だけである。

トイレと風呂は、屋敷にあるものでいいと一輝は思っていたし、風呂が大浴場で大きいので気に入っていた。

トイレも、部屋を出て目の前にあるから、不便ではない。


あと違う所といったら、桜身の部屋が無い所だ。

一輝の部屋は、寝室扱いで、そこに一輝とツタの服やモノを収納も出来る。


「え?ベッド、一つなのか?」

「別に問題ないでしょ?」

「いいけど……ツタはいいの?俺と一緒に寝て。」


ツタを見ると。


「旅行のホテルでも、一緒でしたけれど。」

「そうでしたね。」


一輝は、頭を掻いて「まあ、いいか。」とつぶやいた。


「本当に便利に使えそうだ。ありがとう、山倉さん。」

「いいえ、ここまで工事をした業者がすごいんですよ。俺が指示した通りに作ってくれたのですからね。」

「確かに、これはすごいや。」


ツタは、一輝が喜んでいる姿を見ると、とても嬉しくなった。


「では、俺はここで失礼するな。一輝、後で、旅行の話聞かせてくれ。それと、今日中に神野様には、あいさつをしておくといい。」

「そうだな。早速してくる。」


一輝は、荷物を置くと、ツタと一緒に神野の所へといく。

すると、神野はとても上機嫌でいた。

手に持っているものを見ると、そこには、写真が握られていた。


「この写真は。」

「ツタさんのアルバムを作ろうかと思っての。」

「だとしても、これは盗撮っていうのじゃ。」

「何を言う。家族の写真を盗撮とは。」

「家族といっても、まだ、戸籍が。」


一輝が言い終わる前に、神野は書類を渡した。

書類を見ると、そこには戸籍の他にパスポートにマイナンバーカード、保険証などの必要な書類があった。

また、通帳に印鑑もあり、それらは清水ツタ名義である。


「もう、籍も入れて置いた。だから、家族でいいじゃろ?」

「神野さん。貴方って人は。」


この三日間、旅行を楽しんでいた間に、ツタの居場所が確保されていた。

それに仕事をしなければならない。

ツタの仕事は、この屋敷の清掃員となっていた。


「毎月、この通帳に振り込む。だから、ツタさんもツタさんで一人の人間として、存在し、一輝の傍にこれからもいて欲しい。」


その言葉を訊くと、ツタは顔を手で覆いながら、泣いた。

一輝も、ツタを見ると、少しだけ涙を瞳に浮かべた。


「ありがとう。えーと、爺ちゃんでいいのか?」

「うむ、家族といってしまったのは、わしじゃ。爺ちゃん扱いでよい。」


それから、神野と一緒に家族の会話をした。

旅行の話にこれからの話。

話が終わると、一輝とツタは部屋へと帰った。


一輝にしてみると、とても使い慣れた部屋で、落ち着けた。

ツタは、一輝が過ごしていた空間の再現と訊いて、靴を脱いで座ると、なんだか温かい気持ちになってきていた。

この部屋は違うのに、元一輝が過ごした空間とリンクしているのか、落ち着く空気で満ちていた。


「靴を脱いでくつろぐと、落ち着くな。」

「本当ですね。何か、解放される見たいです。」


ツタを見ると、正座をしていた。


「ツタも、足を伸ばしてみて。すごく気持ちいいから。」

「いいのですか。」

「この空間にいる時は、身体を解放してやってくれ。もう、だらしなくしていていからな。」

「そうですね。この空間は、私と一輝しかいないですからね。」


ツタは、足を伸ばすと、さらに解放的になったのか、そのまま体を床に転げさせた。

長い髪が床に広がり、まるで、根っこのように見える。

このまま寝てしまえば、起き上がれないのではないかと、思ってしまう位だ。

ツタの顔を見ると、それでもいいと言わんばかりに、すごく気持ちよい顔をしていた。


すると、一輝のスマートフォンが鳴った。

三城弥代と表示されていた。

一輝は、ツタの顔を見つつ、応答に応える。


「どうした?」

『一輝、明日だけど、そっちいっていいか?』

「ん?」

『勉強で分からない所があって、聞きたくてな。』

「そういえば、わからない所があったら聞きに来いっていったからな。いいぜ。」

『すまない。』

「あっと、実は引っ越してな。今、あのアパートにはいないんだ。」

『そうなのか?』

「メールで、居場所、送るから、そっちにきてくれ。」

『わかった。』

「時間は、明日の……午前十時でどうだ?」

『それでいい。』

「なら、待っている。」

『サンキュー。』


ツタは、今のやり取りを聞いていて、起き上がり、早速、服が閉まってある部屋に行くと、服を選び始めた。


「明日、ご友人が来られるのですよね?私、きちんとしなくては。」

「普通の恰好でいいよ。」

「そういう訳にはいきません。一輝の妻として、きちんとしなければ。」


ツタは、どうやら桜身と服を選んでいる時に、色々と妻としての心得を聞いたらしい。

ツタの好きにさせた。


「さて、明日は、少し、大変になるかな。」


一輝は、そう思いながら、夕ご飯の用意をし始めた。

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