20「計画」

「この屋敷に就職した日に、桜身様が花に水をあげているのを見て、一目惚れだよ。」


一輝は、思い出した。

あのビニールハウスのドームの時、山倉は、とても愛おしく、あの場所を好きでいたのを。


「それだけ?」

「それだけ。でも、桜身様をお守りするべく、訓練した。桜身様をお守りするボディーガードに任命された。けれど、任命される為には、桜身様の基本情報を頭にいれるのが試験となっていて、そこで、桜身様の全てを知ったんだ。漫画やゲームが好きなのは意外だったけど、薄い本の存在を知って、内容をみたら、桜身様のイメージが崩れたんだ。」

「わるかったわね。」


山倉は、少し怒っている桜身を見て。


「でも、それでも、桜身様の顔を見る度に、胸がときめいていたから、恋をしている気持ちに嘘がつけなかった。」


真っ直ぐに見てくる山倉。

桜身は、一息吐いて。


「二人とも、こんな私を好きでいてくれて、ありがとう。」


すると、山倉と一輝は、ほほ笑んだ。

一輝は、あのビニールハウスのドームを想像した時、頭痛が一瞬すると、考えが浮かんだ。


「一輝?」


様子が一瞬変わったのを、山倉は逃さなかった。

山倉を見ると。


「俺が、この屋敷にいて、なおかつ、世界中の植物達に思いを届ける方法がある。」

「なんだ?」


一輝は、少しだけ嫌な顔をさせたが、その方法を山倉と桜身に話さないといけないと思い、ツタを両手の平に乗せると。


「あのビニールハウスのドーム。あそこには、母さんの気持ちが、とても充満しているのは、山倉さんは知っているだろ?」

「ああ。あの空間に行くと、とても、安らぐ。」


一輝は、桜身を見て。


「その母さんの思いは、俺は同調出来るんだ。母さんの事をパーフェクトに知っているから、さらにその気持ちは大きくなっている。」

「そうね。」


桜身は、一輝の言いたい事をなんとなく分かったのか、とても、複雑な顔をさせていた。


「俺が、あのビニールハウスのドームに入って、祈ればいい。」

「な。」


山倉は、驚いていた。

確かに、それは可能かもしれないが、一輝にとっては、恥ずかしい事になりかねない。


「桜身と秀の血液を調べて、他の人に能力を与えるのが可能になれば、世界にいる桜身と秀みたいに仲の良い人に提案して、与え、あれた地を復活させられる。もちろん、やって貰うのだから、それなりの対価も、この神野家が払う。」

「確かに、それは可能だ。」

「でも、植物と対話するには、俺が必要。だったら、ビニールハウスのドームに咲いている花を、その人達に渡して、媒介にするんだ。」

「なんと!それなら、一輝が、この屋敷から出なくてもいいし、神野様のお傍にいられる。」


山倉は、その考えを理解して受け入れた。

だが、一輝と桜身が、いい顔をしていないのが、気になって。


「でも、なんで、そんな、嫌な顔をしているんだ?」


訊くと、一輝はゆっくりと口を開いた。


「俺が、ツタがいた領域に入れたのは、母さんの基本情報があったからだよな?」

「そうだね。」

「もし、母さんの基本情報がなかったら、入れなかった。」

「そ、そうだね。」

「…………。」

「一輝?」


一輝は、桜身を一度見ると、桜身も一輝を見て、同時にため息を吐いた。


「なんだよ。」

「いいたくないんだが、それって、俺と同調をしていないと、いくら花が媒介の役割をしてくれても、ツタを伝って、植物と人間の思いを交換出来ないんだ。」

「そ……そうだね。ってことは。」


ようやく、山倉は、一輝と桜身が作っている表情の意味が分かった。


「どうやら、俺達、親子は、基本情報を他人に覚えさせなくてはならないらしい。」

「それは、桜身様にとっては、とても恥ずかしい思いをされたと思うけれど、一輝は、そんなに目立った恥ずかしい情報はないんじゃないか?」


山倉は、一輝の基本情報を知っていた。


「お生まれになられた時は知りませんが、幼稚園では、既にひらがなとカタカナが読めて書けていて、小学では、成績は筆記はおろか、体育も生活態度も、先生に注意されなく、親の呼び出しもなく、与えられた仕事はきっちりこなし、中学では、さらに難しいくなったにも関わらず、高得点を取り続け、体育祭や文化祭では、クラスを影ながら補佐し、成功へと導いた。それで、家計を助ける為に勉学と仕事を両立させる為に尊徳高校へと行こうとしたが、この辺りでは、トップクラスの流石高校へ変えて、首席で合格出来ている。常に、学校でのランクは、五位以下には行かず、二年生の後期には、一位ではないか。さらにいうなら、人間関係も上手くいっていて、友達も複数いる。その中でも、三城弥代とは、とてもいい関係で、進路が違っても、心は繋がっているではないか。」


息を切らさずに、一輝の過去を説明すると、再度、一輝は、とても優秀なのが分かった。

これは、山倉が一輝を調べている時の事だが、一輝が在籍していた時は、学校は平和であり、いじめ、登校拒否、先生の汚職などのが一切なかった。

運動会も遠足も社会見学、それに修学旅行ですら、天候と気温に恵まれ、体調が弱い子でも、快適に行えたし、全ての計画は、完璧にこなせた。


それを訊いても、一輝には、ただ一つだけ、本当にただ一つだけ、知られたくない基本情報があった。


一輝は、桜身を見ると、山倉は気づいた。


「そ、それは、そうだな。」

「理解してくれたようで、助かる。」


そう、自分の母親を、恋愛感情で好きになった事だ。


「いいじゃない。母親が好きって、とっても素敵な事よ。」

「好きって言われる本人は、そう思うかもしれないが、思っている側からすると、とても恥ずかしいんだ。しかも、十八年も思い続けていたなんて。」

「で、でも、私は嬉しかったわ。」

「思いは受け入れられないんだろ?」

「そうね。」

「そこが恥ずかしいんだよ。失恋したなんて。」

「あー、そういう事。」


桜身は、一輝の思いがやっと伝わった。

それには、近くにツタがいたからだと思う。

ツタが、一輝の思いを桜身にもわかって貰おうとして、力を使った。


「ツタ、ありがとう。」


ツタが力を使う時、一輝にしか分からない。

だから、どうしてツタにお礼を言ったのかがわからない、桜身と山倉だった。



山倉は、早速、その提案を神野に伝えると、神野は一輝が傍にいるならと、喜んで、その提案を受け入れ、早速、資金提供の準備を金銭管理を任している部下と一緒に調整に入った。

神野が経営している会社、全てにも協力をしてもらい、世界で桜身と秀の血を受け継ぐ人への援助を声かけた。




一輝は、ビニールハウスのドームに来た。

やはり、ここは、桜身の香りと思いが、とても強い。


「ここの雰囲気はどうだ?」


ツタに話すと。


「とても、気持ちいいです。空調も、光も、湿度も、その他全てが、気持ちいいです。」


ツタは、その様に感想を言った。

ビニールハウスのドームを、自由に飛び回るツタ。


それを見ると、一輝は、桜身が育てている白い花を見た。

とても、小さくて、かわいい。

まるで桜身の分身みたいだと、感じた。


「なあ、ツタ。」

「なんですか?」

「ツタは、性別どっちなんだ?」

「私は、人間の感覚だと、女ですよ。」

「そうか……、ツタは、人間の姿になれるんだよな。」

「形だけならです。」


すると、一輝は、戸惑いもなく。


「ツタがよければ、俺と一緒にならんか?」

「え?」

「俺は、この先、きっと、この屋敷から出ることが出来なくなる。そうなれば、新しい恋もない。だから、常に一緒にいるツタが人間になれるなら、俺と結婚しないかと言っている。」


すると、ツタは、あの時の様に、水分を流していた。

地面にポタポタと、一滴一滴、流れて落ちて、地に沁み込んでいく。


「ツタ。」

「嬉しいです。人間を憎むことしかなかった私の感情に、温かいものが急に芽生えて、どうしていいのか分からないけど、嬉しいって感情があふれだしてきて。」

「ツタ。それで、返事は?」

「よろしくお願いします。」


ツタは、一輝に言うと、一輝は微笑んで、ツタに口を付けた。

すると、ツタは、さらに水分が出て来て、止まらなくなってしまった。


「おい、大丈夫か?落ち着け、な。」


一輝は、落ち着くまでツタを撫で続けた。




落ち着いたツタは、早速、一輝に宣言をする。


「私、がんばって、人間になる!姿形は、桜身……お母さまでいいですか?」

「それは、やめてくれ。ツタの知っている女性で良い。」

「でも、私が知っている女の人って、お母さましか。」

「……、なら、ツタの思うままでいい。」

「はい。」


一輝は、その日からの生活が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る