19「親友」

「この二人の赤ちゃんを、私に任せると。」


神野がいるのは、産婦人科であった。

この産婦人科には、事情があり、子供は産むが、育てられない女性が、相談しにくる場所でもあった。

医院長は、神野とは、親友で、とても仲が良い。


「そうだ。この二人を、宮地に任せようと思う。」

「しかし、子育てなんて、私に出来るかな?」

「宮地なら出来るよ。それに、この二人、不思議なことに、血の相性が良すぎるんだ。他人なのに、ここまで、相性がいいと、離すことが出来なくてな。育ててくれる人がいても、皆、一人ならと話す。」

「資金的に苦しいのだろうな。」

「だから、な。資金的には、宮地は余裕があるだろう?」

「まあ、あるけれど……仕方ない。いつも私を助けてくれる、佑の頼みだ。引き受けるよ。」

「ありがとう。感謝する。」


皆城佑みなしろたくすは、金持ちの家に生まれた神野宮地に、世間の事を教えて、一般的な感覚を教えた人である。

その中でも、漫画、アニメ、ゲームや、スポーツ観戦でも、一般席に誘導して、周りに囲まれながら応援や、食べ物もスーパーに連れて行っての社会見学などさせていた。


出会ったのは、いつも車で迎えに来るのだが、交通事故が起きて遅れていて、それを学校の校門で待っている神野を、皆城が見つけたからだ。

皆城は、学校から家まで近くて、下校した後に学校へ遊びに来た。

本来は、班で登下校するのだが、神野は、車で登下校を学校へ話しがあり、皆と登下校していなかった。


「よう、神野。」

「皆城君。」

「迎えまだなのか?」

「うん。きっと、渋滞か、事故だよ。」

「ずっと、この校門で待っているのか?」

「そうしないと、困らせちゃう。」


皆城は、神野を見て、腕をひっぱる。


「な、何を?」

「こんな所で待っていると、この暑いのにゆだっちゃうぞ。こっちきて、遊ぼう。」

「でも、待っていないと。」

「車が来たら、いけばいいじゃん。」


皆城は、持ってきていたバスケットボールを、神野に渡すと、そこからは、パスの練習をし始めた。

車が来るのを、皆城は見て。


「迎えが来たよ。」

「もう?」

「あれから、三十分経っているよ。」

「早いな。いつも遅れたら、すごく待つけど。」

「遊んでいたからだろ?」


皆城は、神野についていくと。


「すみません。事故で止められていて。」

「いいですよ。友達と遊んでいたから。」

「これは、ありがとうございます。えーと。」


神野を迎えに来た人が、皆城を見ると。


「皆城佑です。神野宮地君とは、クラスが一緒で、よく一緒に行動しています。」

「そうでしたか。」

「今は、校門前で待っているのを見て、遊びに誘いました。でも、軽く熱に当てられて、体調不良になりかけていると思いますので、処置をしてあげてください。」

「なんと。大丈夫ですか?宮地様。」


神野は別に体調不良なんてなっていないが、皆城を見ると、ウインクをされた。

その事で、神野はそういう事にして、少しだけ具合が悪い演技をした。


「もし、今後も、遅れるなら、僕は携帯電話を持っています。こちらです。僕の家は、学校の近くで登校下校も歩いて二分もかかりません。もし、また、体調が優れなくなるかもしれません。その時には、僕の家に招待するかもしれませんので、どうぞ、こちらへ連絡ください。」


その様にいい、携帯電話を操作して、自分の電話番号を表示すると、おつきの人に見せる。

おつきの人は、その番号を、自分の携帯電話に登録して、お礼を言ってから、神野を車に乗せて行ってしまった。


その日から、迎えが遅い場合は、皆城が呼んで、家に招いて、色々と遊びを教えた。

小学生の時は、漫画やアニメ、ゲームを教えたが、中学になると、もう皆城と仲良くて、車で登下校ではなく、皆城と一緒にしていた。

神野が家にいて、皆城が迎えに来る。

もはや、皆城は顔が分かっていて、神野の家には、インターフォンに顔を映すだけで門が開いた。


学校の下校に、スーパーや本屋に寄ったりしていた。

その時に、神野はとても勉強になったと言っていた。


高校になっても、皆城と同じで、とても仲が良かった。

神野の両親も、皆城と一緒ならと安心していて、大学も神野は皆城と同じ所へと進んだ。

だが、皆城が進んだ道は、産婦人科になる道であり、それについていくのは、神野は無理であった。

だから、大学が同じでも、学科は違って、神野は経済学部へと進んだ。


夢を掴んだ皆城は、色々な病院を体験して、自分の医院を開いた。

皆城のやりたいことは、産んだが育てられない赤ちゃんを引き取り、育ててくれる人を探す仕事であった。




「さて、どうしようか。」


桜身と秀を連れてきた神野は、家に着くと、部下に部屋と、赤ちゃんに必要なものを用意を命令した。


神野は、ベビーベッドに寝ている桜身と秀を見ると、何故か、穏やかになっていくのを感じた。

桜身だけを抱っこして、他の部屋にいくと、穏やかにならず、秀の場合もそうであった。

二人で一つと言わんばかりに、二人が揃うと、穏やかになっていくのを感じた。


神野は、部下の手助けもあり、桜身と秀を自分の子供同然に育てた。

桜身と秀が、大人になり、結婚すると言い出した。

そうすると思っていた神野は、桜身だけを自分の養女にしていて、秀は、産んだ女性の姓、清水のままにしていた。





そこまで話すと、一輝は、自分に似ていると思った。

一輝も三城がいなければ、勉強以外の事をしてこなかったと思う。

この屋敷に来てから、漫画やゲームに、薄い本といった知識、また、母の事をより深くは、知らなかっただろう。


神野の気持ちは分かる。


だからこそ、今の情報で、どうしたらいいのかを考えた結果を、神野に話した。

すると、神野は、一輝の話しを受け入れ、まずは、桜身と秀の血の研究をしてからとなった。




それまで、一輝は、山倉から、身の守り方を、さらに学ぶ。

ツタは、一輝の言葉なら信用出来るとして、急がずに一輝の傍にいつもいた。


訓練している時に、山倉は疑問があった。

それを一輝に聞くために、訓練の休みに聞いてみた。


「どうして、一輝だけが、あの時、あの領域に入れたのだ?」


一輝は、訓練を見ていた桜身から、水分を渡され、受け取ると。


「ああ、あれか。」


ツタにペットボトルのフタに、水を入れて渡した。


「俺なりの考えだけど、いいか?」

「いい。」


一輝は、少し考えながら。


「俺は、この屋敷に来る前には、母さんの情報なんて少ししか知らなかった。それから、山倉さんから情報を貰い、覚えて行った。本やゲームなども記憶して、イラストサイトと動画サイトも見てきた。アルバムにお小遣い帳も記憶して、さらに、一緒に過ごしていたから、家での母さんも知っている。そして、父さんの情報も得た。」

「そうだな。」

「だとすると、俺は、桜身の情報をパーフェクトに記憶しているとなる。」


ツタが、水を飲み終わり、フタを一輝に渡すと、一輝は受け取り、ペットボトルに戻した。


「それに、桜身が好きなツタが反応したんだ。ツタは、今まで、桜身を一番知っている秀の思考を読み取って、桜身を危険な場所から遠ざけようとしたが、桜身の情報を秀以上に知っている俺がきたから、領域に入れたんだ。」

「だとしたら、桜身様が今まで入れたのに、入れなかったのは?」

「桜身の情報をパーフェクトに知っている俺が来たから、俺を取り入れようとしたのだろう。だけど、俺が無理矢理、実力行使で言葉を使い、さらに、警戒心と闘争心をむき出しにしていたから、怖くなったんだろうな。」


一輝の説明に納得した山倉と桜身。


「それにしても、楽しみだ。父さんが退院してくるの。」

「谷からの情報だと、順調に検査が終わって、後、一週間の入院で退院してくるらしいわ。」

「母さんはいかなくていいのか?」


桜身は、少しだけ頬を赤く染めて。


「まだ、直視出来ないの。だって、あの時のまま、かっこいいんだもの。」

「あー、十八年前の若いままの顔ですからね。」

「どうやって、話しをしたらいいのか。」


すると、山倉と一輝は、顔を合わせてため息を吐いた。


「なあ、母さん。ここに、母さんが恋愛感情で好きだった男が二人いるんだよ。そんな顔したら、大変になるよ。」

「え?」

「本当に、桜身様は、もう少し警戒心を強めてください。」

「そんな事いわれても。あ、山倉、どうして、私の事好きになったの?」

「それ、俺も聞きたいな。」


山倉は、桜身と一輝に攻められると、話さないわけにはいかず。

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